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「リーダーの失敗談」は人を育てる

「リーダーの失敗談」は人を育てる

(2015年5月17日更新)

 
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日本における「失敗」のイメージは「恥ずかしいもの」「わざわざ公開する必要のないもの」でしょう。しかし海外では、一流のリーダーが堂々と失敗を語ります。
リーダーが失敗談を語ることに、どのような効果があるのでしょうか。PHPビジネス新書『なぜ、優れたリーダーは「失敗」を語るのか』よりご紹介します。
*  *  *
 
 

海外のリーダーの堂々たる失敗談

私は今、コンサルタントとして独立して、リーダーのメッセージ発信を支援する仕事をしています。幸いこの仕事にとても満足していますが、この仕事を始めようという気持ちになったのも、手痛い失敗のおかげでした。
 
働きざかりの40代半ばで仕事に行き詰まり、今後の人生をどう生きていこうかと悩んだ時期がありました。
 
そんな時、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学卒業式で行った伝説のスピーチのYouTube動画に出会ったのです。その中で語られたジョブズの3つの経験談は、大学中退、アップル会長の解任、死への直面など、失敗や苦難に遭遇し、それを乗り越えた話でした。
 
ジョブズの話を聞いて、私は、「自分の辛い状況にもきっと意味がある。だから、前を向いて頑張ろう」という勇気がわいてきたのでした。
 
2012年に出版した前著『スピーチの教科書』を書いている時には、ハリー・ポッターシリーズの著者として有名なJK・ローリングが、2008年にハーバード大学卒業式で行ったスピーチに出会いました。
 
本も映画も大ヒットして、今や経済的にも大成功を収めたJK・ローリングですが、本を出すまでは、ホームレス寸前の厳しい生活を余儀なくされ、そんな中で出会った人の優しさや、苦境の中で気づいた自分の才能が、その後の人生を支えてくれたという話でした。   
私自身、独立して、数々の困難にぶち当たっている最中だったので、ローリングが語る「失敗の恩恵」についての話は、心に響き、頑張って本を書き上げようという気持ちにさせてくれました。
 
そして2014年になって、アメリカの超人気TV司会者のオプラ・ウィンフリーが2013年にハーバード大学卒業式で行ったスピーチをじっくり味わう機会がありました。自身の経験を語りながら、失敗に正面から向き合って、その意味を語るスピーチでした。
 
オプラが堂々と自分の失敗を語るのを見て、「よくこんな話ができるな。凄いな」と思いました。そして、「アメリカでは、なぜ、優れたリーダーは、これほどまでに堂々と、人前で自分の失敗を語ることができるのだろう?」という素朴な疑問を持ちました。
 
 

日本で失敗談は「格好悪い」?

日本では、そんな話はあまり聞きません。それどころか、失敗談を語るのは、無能であることを示すようなものであり、リーダーが人前ですることではないと思われがちのような気がします。
 
私は、リーダーのためのスピーチのワークショップを全国で行っています。そして、そんな中で、ストーリーテリングの実践として、自身の失敗談を語るワークを取り入れています。
 
失敗談と言っても、痛い目にあって終わった話ではなく、それをどうやって乗り越えたか、そこから何を学んだのかをメッセージとして伝えるもので、スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチをお手本にして行うものです。
 
まず、私が失敗談のお手本として、自分自身の痛い経験を話します。その上で、参加者にも自身の過去を振り返ってもらい、流れに沿ってスピーチを考えてもらいます。
 
すると多くの場合、最初は、「えぇ、失敗談を話すの……」といった否定的な雰囲気が漂います。でも最後にはみなさんが各自の失敗経験を思い出して、ストーリーを考えてくれます。
 
その後、テーブル毎に1人ずつ話をして、感想を述べ合います。そうすると、ほとんどの場合、ゴーッとばかりに会場がわき、大変な盛り上がりを見せます。中には、感極まって、涙を流す人もいるほどです。
 
特に、苦労して会社を立ち上げた起業家や、親の代から事業を引き継いで悪戦苦闘する中小企業の経営者が参加者の時は、その効果は絶大です。
 
互いに失敗談を語り合った後は、それぞれのグループで語り合った人同士が、もの凄い連帯感で結ばれます。ワークショップで初めて会った人同士が旧知の仲のように意気投合して、その後、飲み会になだれこむことも多々あるようです。
 
日本でも、失敗談が人を励まし勇気づける点では同じですが、その絶大な効果を実感し、自ら実践する人は、まだ多くないのかもしれません。
 
 

失敗談は人の役に立つ

アメリカの大学卒業式で、なぜ3人の著名リーダーはそろって失敗談を語ったのでしょうか。
 
いずれの話も聴き終わった後に、「よし、頑張ろう」という励まされた気持ちや、「何か新しいことにチャレンジしよう」という挑戦心が沸き起こることを考えると、3人のリーダーは、社会に巣立つ若者に、「失敗を恐れず勇気を持って、自分らしく、新しいことに挑戦して欲しい」。きっとそう願って、自らの失敗を語ったのではないかと考えられます。
 
そして、私は特にオプラ・ウィンフリーの話に励まされたので、彼女のスピーチを題材にしながら、失敗談の語り方についてのリーダー向けの本を書きたいと思うようになりました。
 
リーダーの立場にある人たちが、部下や仲間が苦境に陥ったり、失敗して落ち込んでいたりする時に、自らの失敗やそれを乗り越えて学んだ教訓を伝えれば、きっと聴く者は励まされ、勇気づけられ、さらに前向きに物事にチャレンジしようという気になると思ったのです。
 
日本では、1990年代始めのバブル崩壊以来、「失われた20年」と揶揄されるほどの困難な時代が続きました。
 
ITバブルなどで一時的に景気が良くなった時期もありますが、インターネットの普及とともに、アメリカ企業と、中国・韓国・台湾企業に挟み込まれて、オセロの駒が一気にひっくり返されるように、日本の製造業は競争力を低下させていきました。
 
戦後から1990年頃までの日本は、欧米に追いつけ、追い越せの時代の延長で、どちらかと言えば、欧米企業をモデルにして、そこで考え出された商品やサービスを、より良い品質で、より安くつくることを得意としてきました。
 
しかし今、他のアジア諸国の生産技術が向上し、安い通貨と相まって、かつての日本のモノづくりの強みを発揮しづらい状況になってしまいました。
 
これからの日本は、自分たちの強みを活かした、ユニークさで勝負していく必要に迫られています。イノベーションで新しい価値を生みだす力が求められているのです。
 
イノベーションの実現には、果敢なチャレンジが不可欠です。しかし、新しいことへのチャレンジには、必ず失敗がつきまといます。そんな中で、私たちにとって大事なことは、失敗を恐れずに、勇気を持って挑戦すること。もし、やむを得ず失敗した時は、そこから教訓を学び、次の挑戦に活かすこと。そうすることで、大きな成果をつかみ取る。そんな姿勢が求められているのです。
 
「最近の若い人たちは、受け身で、積極性に欠ける。自発的にチャレンジしようとしない……」
しばしば、企業の管理職から、そんな声が聞こえてきます。
 
確かに、失われた20年に社会に出た人たちは、私たちの世代と比べると、就職氷河期と言われる中で圧倒的に不利な状況下で仕事探しを余儀なくされてきました。失業率が高く、転職も容易でなかったことと思います。そんな中では、「上司に言われた通りにそつなくこなす方が、組織で生きて行くには無難」、そう考える人が多くても仕方ありません。
 
大切なことは、もし仮にそうであっても、どうすれば、挑戦心を育むことができるかを考えることです。
 
そして、ここで有効なのが、リーダーの失敗談なのです。何かに挑戦して失敗したり、困難にぶち当たったりした時、どうやってその局面を打開したか、そして、何を学んだか。こんな話をすることで、あなたの部下に、失敗を恐れずに新しいことに挑む勇気を授けることができるのです。
 
 
【著者紹介】

佐々木繁範(ささき・しげのり)

ロジック・アンド・エモーション代表、経営コンサルタント/エグゼクティブ・コーチ
1963年、福岡県生まれ。1987年、同志社大学経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。1990年、ソニ一に入社。盛田昭夫会長の財界活助を補佐しながらスピーチ・ライティングを学ぶ。 1995年から97年まで、ハーバード・ケネディスクールに留学し、公共経営学修士号を取得。帰国後、出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターとして、ソニーの全社改革を補佐する。その後、様々な規模・業種の企業現場で経営改革に携わり、2009年に経営コンサルタントとして独立。経営者やリーダーの潜在能力を引きだして、リーダーシップの発揮をサポートしている。
著書に「思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書」(ダイヤモンド社)がある。交通遺児育英会心塾のスピーチ講師を務める他、中央大学ビジネススクール戦略経営アカデミーなど、大学でもリーダーシップ・コミュニケーションを教えている。
 
 
 
 
ハーバード卒業式名物のスピーチやTEDの伝説のスピーチでは必ず「失敗」が語られている。リーダーの失敗談で、チームは激変する! 本書では、失敗を乗り越え、英雄の物語へと変容させて、あなたにしか提供できない貴重なリソースにする方法を紹介する。ソニー盛田昭夫氏や出井伸之氏のスピーチライターを務めた著者が、自身の波乱万丈の仕事人生を素材にしながら解説。

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