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山葉寅楠「ピアノをつくるには人間をつくってから」

山葉寅楠「ピアノをつくるには人間をつくってから」

(2017年1月 6日更新)

 
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「ピアノをつくるには人間をつくってから」――世界最大の楽器総合メーカー・ヤマハの創業者・山葉寅楠氏は、「人づくり」の大切さを知り、実行した経営者でもあった。ヤマハ創業のエピソードとともに、ご紹介します。

 

*   *   *

 

「ものづくりは人づくり」はよく言われる言葉だが、「日本初」の仕事をするためには「人づくり」ほど重要なものはなかった。ヤマハは100種類以上の楽器を製造する世界最大の総合メーカーであり、ピアノの売上高では世界一を誇る名実ともに世界を代表する楽器メーカーだが、そのスタートは一台のオルガンの修理から始まっている。

 

一台のオルガンの修理から

ヤマハの創業者・山葉寅楠氏(1851年~1916年)は、紀州徳川藩の天文係・山葉孝之助氏の三男として生まれているが、明治元年に母親の実家を後にして大阪や長崎で時計づくりの修業を積み、西洋から輸入された器械器具の修理を請け負う渡り職人となっている。

 

渡り職人として各地を旅している時、立ち寄った浜松の尋常小学校から壊れたオルガンの修理を頼まれたことが起業のきっかけとなった。当時、オルガンはすべて輸入品であり、とても高価なものだった。

山葉氏はオルガンの修理は初めてだったが、精密な時計や医療器具を修理していた山葉氏にとってはそれほど難しい仕事ではなかった。しかし、その時、山葉氏に一つのひらめきが生まれた。当時、オルガンは45円もしたが、山葉氏は「自分なら3円くらいでできる」と考え、国産の安くて良いオルガンをつくれば商売になるし、国のためにもなると確信した。

山葉氏は輸入品のオルガンの構造を研究したうえですぐに製造に取りかかった。最初は失敗の連続だった。オルガンらしきものはすぐにできたが、音楽の教師からは「体はなせども、調律不備にして使用に耐えず」と酷評された。それでも諦めきれない山葉氏は調律法を自ら学んで、再度オルガンづくりに挑戦、酷評した音楽の教師から合格点をもらうほどのオルガンをつくることに成功した。

 

「ピアノをつくるには人間をつくってから」

自信を得た山葉氏は1889年、山葉風琴製造所(ヤマハの前身)を設立、オルガンの製造と販売を本格的に開始することとなった。順調に成長した同社はやがてピアノづくりに挑むことになるが、ピアノづくりはオルガンづくりの何倍も難しかった。そこで、山葉氏は小学校卒の若い人材を受け入れて、時間をかけて楽器製造に関する教育を行なう社内教育制度を設けることにした。

「ピアノをつくるには人間をつくってから」というのが山葉氏の考え方だった。昼間は工場で働き、夜に授業を受ける厳しいものだったが、そこには人材を育てることによって、日本の楽器づくりのレベルアップを図りたいという山葉氏の強い思いがこめられていた。もちろん今日のレベルから見れば足りないものもあったが、この教育制度で育った人材が経験を積むにつれ、同社の幹部となったり、独立してピアノ製造所を立ち上げたり、昭和になって創立された調律師の組織「全国ピアノ技術者協会」の主要メンバーには、この教育制度から育った人たちが多く含まれていた。

すぐれた製品をつくるには、すぐれた人材を育てることが欠かせない。そんな山葉氏の努力が実を結び、1900年には国産ピアノ第一号が完成、やがてヤマハは世界一の楽器メーカーへと成長することとなった。

 

事業はお金やものだけあればできるものではない。そこに、志やすぐれた技術を備えた人がいてこそ、企業は成長し、世界と戦うことができる。ヤマハの創業者・山葉氏にはビジネスチャンスをつかむ才覚や技術、粘り強さなどがあったが、同時に「人づくり」の大切さを知り、実行したからこそ、ヤマハを世界企業へと育てることができた。

 

参考文献:『日本のピアノ100年』(前間孝則・岩野裕一著、草思社)

 

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【著者プロフィール】

桑原晃弥(くわばら・てるや)

1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。

著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。

 


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