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西山彌太郎、高度成長のパラダイムを生んだリーダーシップ

西山彌太郎、高度成長のパラダイムを生んだリーダーシップ

(2011年8月24日更新)

 
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日銀総裁の反対を押し切って実行した巨大工場建設。高度成長のパラダイムを生んだ壮大な計画。企業家センスがもたらした西山彌太郎の決断の背景に迫る第2回。 

 

*  *  *

 

産業界に与えた影響

千葉製鉄所の完成が、産業界に与えた影響は衝撃的なものであった。ライバルの住友金属も神戸製鋼も大規模設備投資を行なって一貫化を促進した。

 

なぜか? 川鉄が千葉製鉄所によって銑鋼一貫を実現した以上、長期的見地に立てばスクラップ製鋼に頼っていては、競争に負けることは自明だったからである。

 

こうして、日本鉄鋼業界は六社による寡占体制を現出し拡大した。それがその他日本の製造業全体、造船・自動車・重電・家庭電器などの成長に多大な貢献をしたことを思えば、その影響は計り知れないほど大きなものだったといえよう。

 

西山の最大の功績は、日本の経営者全体に、いわば「投資が投資を呼ぶ」ダイナミズムを伝播させたことであった。敗戦処理によって、実業界においても強制的に経営者は交代させられ、託された新世代の経営者もそのほとんどは戦災によって傷んだ設備をなんとか修繕しながら、堅実経営をおずおずとめざす、というのが実情であった。

 

しかし、確固たる技術と大胆な資金調達によってビッグ・プロジェクトを成し得た西山の経営手法に、多くの経営者や技術者が自信を取り戻したのである。

 

西山はその後、千葉製鉄所成功の余勢を駆って、新たな大事業、水島製鉄所の建設をめざした。しかし、さしもの剛健な身体も度重なる巨大事業の推進に疲労しきっていたのであろう。水島製鉄所の完成を目前にして、胃癌に倒れる。昭和四十一(一九六六)年八月、闘病一年にして西山はその生涯を閉じた。享年七十三歳であった。 

 

このリーダーゆえにこの決断あり

 

銑鋼一貫の巨大製鉄所の建設――西山の決断とは、すなわち、この計画の実現すべてと同義だといってもよいだろう。 

 

西山の人生をふりかえれば、日本の発展を後押ししたこの決断が、掛け値なく天の配剤として生まれてきた感がする。西山はそう思わざるを得ないほど“鉄の申し子”だった。

 

西山と鉄の出会いは、高等小学校を卒業した十四歳のとき、金物屋をしていた叔父の店の手伝いがきっかけである。たまたま店の景気はことのほかよかった。西山少年は、「金物屋がこれほど儲かるならば、こうして商品を売るより、それをつくるもとである鉄をつくればもっと儲かるはずだ。そのためには勉強しなければならない。学校に行かなければ」と考え、半年足らずで手伝いをやめ、勉強に精を出すことにしたという。

 

その思いが筋金入りだったのは、東京帝国大学工学部冶金科への入学でも明らかだが、さらに川崎造船所葺合工場を見学する機会を得たことから、卒業論文のテーマも「川崎造船所製鋼工場計画」。英文九五ページに十枚の製図が付いた本格的なものだった。

 

その序文で西山はこう書いている。

 

「製鉄と造船は一国の二本柱である。前者は手、後者は足である。したがってこの二つの工業の独立と発展は、わが国の重要政策でなければならぬ。造船を盛んにするには良質の鋼材、とくに鋼板を国産で、しかも輸入品より安価に、供給する必要がある」

 

西山は、五十年にわたる実業人としての人生を、学生時に描いたこのプロットどおりに歩んだといってよいだろう。

 

極めつけは、終戦を迎えて、幹部として再建に努力していたときの発言である。

 

会社の寮で幹部たちが日本の将来を論じていたとき、西山はひとり周囲を鼓舞するように力強く言った。

 

「われわれは“故郷のあるユダヤ人”になろう。貿易立国によって金持ちの国になり、福祉国家になる。それにはユダヤ人のようにかせぎ、しかも祖国愛を失ってはいけない。重化学工業を以て貿易立国として立つ以外に、武力を失った日本の進むべき道はない」

 

日本の見事な経済復興は、多くの優秀な政治家、実業家たちが発展へのベクトルを合わせ、類まれなる実行力によって築いてきたといえるだろう。西山の場合、幼・青年時の言動を通しても、その偉大なリーダーのなかに入るべきビジョンと技術を有した貴重な人物だったといえよう。まさに、このリーダーゆえにこの決断あり、である。 

 


 

渡邊祐介

わたなべ ゆうすけ

PHP研究所 松下理念研究部 研究部長。専門分野は、松下幸之助研究・日本経営史。松下幸之助を含む日本の名経営者・実業家の経営哲学の研究。また、経営学の諸理論とくに組織論・マネジメント論と松下経営哲学の関連性について興味を持ち、考察を深めている。


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