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石橋正二郎、産業報国精神に根ざした事業選択

石橋正二郎、産業報国精神に根ざした事業選択

(2012年5月16日更新)

 
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素材と需要を巧みに結びつける発想と、産業報国的精神に根ざした事業選択で、世界に冠たるタイヤ産業を育てた石橋正二郎。その決断の原則に迫る第2回。

 

* * *

 

優れた企業家精神と発想の転換

仕立物から地下足袋へ。地下足袋からゴム靴を経て国産タイヤの開発へ。度重なる主要製品や事業の転換は石橋経営の大きな特徴である。通常、一つの新規事業を手がけるのも経営者にとっては大仕事であろう。石橋の場合、もっとも幹となる事業そのものを時勢に応じて、ダイナミックに展開していく。実に巧みな事業選択といってよいだろう。その決断の要諦は次の三つを基軸として説明できるのではないだろうか。

 

まず挙げられるのは、類まれなる企業家精神であろう。

 

それは家内工業からの脱皮や、新素材・新製品の開発、新規事業への参入といった事業への積極的な姿勢にも表れているが、その真価を証明しているのは苦難に耐える精神力である。

 

たとえば、タイヤの発売にあたり、石橋は、不良品はすべて交換するという「責任保証制」を宣言した。すると返品が相次ぎ、タイヤの在庫が十万本となって千坪の敷地を埋めてしまうという深刻な事態に陥った。

 

見る間に赤字となり、親しい人たちからも早めの撤退を勧められた。しかしそれでも今後タイヤの需要は必ず伸びるという石橋の信念は毫も揺るがなかったのである。この企業家精神のたくましさは一級品といえよう。

 

二つ目の要点は、難局を打開できる発想の転換である。

 

先ほどの返品タイヤの例でも石橋は、転んでもただでは起きないとばかりに、画期的な対策を打ち出した。返品タイヤを使って、荷馬車の車輪をゴムタイヤに替える案を思いついたのである。それだと、従来の木製車輪よりも軽く、その分たくさんの荷物を積めるようになる。運送業者はこぞって採用し、早々に返品タイヤの山を解消することに成功した。

 

こうした強い企業家精神と奇抜な発想の結合が、石橋経営の本質といえそうである。

 

一見、石橋の事業転換は投機性のある冒険に富んだものに見える。しかしそれは、石橋自身に言わせれば、自分なりの事業観を突き詰めた結果だという。

 

地下足袋のためのゴム素材が、いつの間にかゴムそのものの大きな可能性によって、タイヤ産業へと繋がる。それは、事業の合理性を追求していくうちに、ある時点で大きな発想の転換がなされ、企業家精神の高揚とも相俟って、事業転換が一挙に決断されるということなのかもしれない。

 

崇高な産業報国的精神

そして最後に、もっとも重要な要点として挙げておかなければならないのは産業報国的精神の存在である。

 

その精神が根底にあるからこそ、石橋の合理主義をたんに“儲かるなら何でもする”というベクトルとは一線を画したものとしているのだ。

 

あまり知られていないが、石橋の自動車製造業参入への思いは相当なものであった。自ら製造を志して試作車をつくり、たま電気自動車株式会社を設立、それがプリンス自動車工業株式会社に発展するまで積極的に投資に加わった。しかし、通産省主導による業界再編によって、プリンス自動車と日産自動車が合併するに及んで、あっさりと手を引く。自らの事業として可能かどうか、国のため業界全体のために参入するのが適切かを、大所高所から判断した結果であった。

 

この例に限らず、石橋は地下足袋にしろ、ゴム靴にしろ、タイヤにしろ、私情に捉われることなく、最大限に社会や国家に貢献するという視点から、事業を選択し拡大発展させていった。趣味の絵画蒐集においても、ブリヂストン美術館を設立して人びとに公開した。これも石橋の崇高な産業報国的精神の表れである。

 

「零細な家業からスタートし、新しい需要の起るような独創的なものに眼をつけ人に先んじ、人の真似をしたのではない。何事を為すにも真心をもって、物事の本末と緩急を正しく判断し、あくまで情熱を傾け、忍耐強く努力したのであって、運がよいとか先見の明があるとかいわれるけれども、世の中のために尽すという誠心誠意こそ真理だと思っている」(『私のあゆみ』)

 

石橋の経営哲学はこの言に尽きるのであろう。昭和五十一(一九七六)年、八十七歳にて逝去。

 


 

渡邊祐介 わたなべ ゆうすけ

PHP研究所 松下理念研究部研究部長。専門分野は、松下幸之助研究・日本経営史。松下幸之助を含む日本の名経営者・実業家の経営哲学の研究。また、経営学の諸理論とくに組織論・マネジメント論と松下経営哲学の関連性について興味を持ち、考察を深めている。

    


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