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組織目標と個人目標を一致させることはできるのか~コーチングQ&A

組織目標と個人目標を一致させることはできるのか~コーチングQ&A

(2016年5月28日更新)

 
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コーチングとは、「相手のパフォーマンスを最大限に発揮させる」ための一手法であると私は理解しています。その視点からコーチングを捉え、そして企業内で実践していく場合(職場での部下と上司の関係にて行なう場合に限定します)、次の疑問が出てきます。

それは、コーチングによって、組織目標の実現と個人のパフォーマンスの向上をどのようにマッチングさせていくのか、というきわめて実務的な問題です。コーチングは、一言で言えば、相手が自らの目標の達成に向かって自発的に行動していくことをサポートするコミュニケーション手法である、と理解しています。しかし、組織目標(会社が期待する成果)と個人目標(個人のもっている目標)とは必ずしも一致するわけではありません(一致した時は高いパフォーマンスを上げることが期待できるが、一致しない場合のほうが多いと思われる)。この組織目標の実現と個人のパフォ-マンスの向上を両立させていくことは、マネジメントにとって難しい課題であると思います。コーチングをどのように使えば、部下のパフォーマンスを向上させ、それを組織目標と合致させることができるのでしょうか。

実は私は、コーチングとは、自由度の高い立場の人、たとえば企業においてはエグゼクティブ層に対して、プロコーチが1対1で行なうのが本来のスタイルではないかと思っています。現在の日本では、現場長もしくは中間管理職がコーチングスキルを身につけることがブームになっていますが、コーチング本来の目的である「組織目標の実現」と「相手のパフォーマンスの最大限の発揮」とが相容れないケースにおいて、具体的にどのようなコーチングによる指導がよいのか、ご教示ください。

(吉田三郎・銀行支店長〈仮名〉)

 

*   *   *

 

これだけコーチングの本質に迫る質問をされるということは、吉田さんがコーチングをよく勉強しておられる証拠ですね。感心しました。

 

コーチングとはサポートのためのスキル

コーチングとは、一言で言えば相手の「自己実現」をサポートするコミュニケーションスキルですから、「相手のパフォーマンスを最大限に発揮させること」が目的だという吉田さんのご理解は正鵠(せいこく)を射ていると思います。

その上で吉田さんの疑問は、「部下のパフォーマンスの最大限の発揮」と、「組織目標の実現」とが相容れない場合はどのようにコーチングしたらよいか、ということがポイントですね。

おっしゃるとおり、「個人目標」と「組織目標」が相容れない場合というのはありうることでしょう。というより、そういうケースのほうが一般的かもしれません。おそらくこれは、コーチングとは無関係に、昔から組織責任者が直面してきたマネジメント上の重要課題ではないでしょうか。そこで、コーチングをいったん横に置いておいて、一般論として考えてみましょう。

 

個人目標・組織目標・保有能力の三要素

どの部下にも、「やりたいこと(個人目標)」と「やるべきこと(組織目標)」と「やれること(保有能力)」の三つがあります。このことは、本人がどこまで明確に意識しているかは別として、例外はないといえるでしょう。この三つがどのような関係にあるかが問題です。

 これらを、三つの円としてイメージしてみてください。三つの円は大きさも、その位置関係も、人によってすべて違うでしょう。三つの円がぴったり重なり合うということは、理想かもしれませんが、現実にはあり得ないと思われます。しかし、三つがまったくバラバラということも考えにくく、多くの場合、重なり合っている部分があるのが普通ではないでしょうか。

この三つが重なり合った部分の仕事を与えることができれば、それが、吉田さんのおっしゃる「部下のパフォーマンスの最大限の発揮」と、「組織目標の実現」とが相容れる状況ということになり、その結果、望ましい成果が上がると考えることができるでしょう。

 

三つの要素を上手に調整する

上司の役割とは、この観点から考えれば、三つの重なった部分の仕事を与えることと、三つの重なりをできるだけ大きくしてあげることだといえます。

では、三つの円の重なりを大きくするにはどうすればいいでしょうか。ここではその具体的な方法を記す余裕はありませんが、要はコミュニケーションです。

相手の能力や意欲の状況をよく観察した上で、本人はどんな仕事をしたいのか、この会社生活を通じてどんな人生を築いていきたいと思っているのか、人生における中心的価値をどこにおいているのか、といったことを、じっくり聴いていきます。まさにコーチングにおける傾聴のスキルです。

さらに、業界や会社の現状、会社の基本的な経営理念や経営方針・目標をよく説明し、その中で自部門の果たす役割、そして相手に期待する役割を、上司としての熱意を込めて説明します(決して押し付けではなく)。

この組織目標が直接的に相手の個人目標に関連するものではないとしても、それらはまったく無関係ということもないでしょう。もしまったく無関係なら、彼がこの会社にいることはお互いにとって不幸です。もし少しでも関連があるなら、その関連をもっと太く大きなものにしていくような意識改革を促すことが大切ではないでしょうか。

例えば、今の担当業務がたとえ気に染まないものであったにしても、それを完璧にこなせるようになることが、将来、自分の目標を達成する上で必ず大きな意味をもつということを説明することは、上司の重要な役割の一つだと思います。

 

個人と組織の溝をどう埋めていくか

こうした会話を通じて、三つの円はそれぞれが拡大していき、重なりも大きくなっていくのです。上司という存在は、こういう会話(コミュニケーション)を通じて、部下に仕事の意義・意味を認識させ、自主的な行動を促し、成長へのプロセスをサポートしていくことがその最大の使命であるといえないでしょうか。

「個人目標」と「組織目標」とは、ぴったり一致することはあり得なくとも、まったく無関係ということも現実にはほとんどあり得ないように思います。この両者の溝を埋め、折り合いをつけていくのが、組織に生きる者のとるべき道であり、それをサポートする上司にとって非常に有効なスキルがコーチングであると、私は考えています。

もちろん、コーチングだけで何もかもうまくいくなどということはありえません。しかし、相手に問いかけ、相手の考えを深めさせることによって、部下が自ら「個人目標」と「組織目標」の整合性を図ることをサポートすることは可能になるのではないでしょうか。

一般論としてのコメントに終始しましたが、何らかの参考にしていただければ幸いです。
 

【POINT】個人と組織の溝を埋めるためのサポートにこそコーチングスキルを活用しよう

 

 

出典:『リーダーのためのコーチング実践Q&A』(2005年8月/PHP研究所)

 

 



 

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【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。現在、(株)PHP研究所客員。

 


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