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コーチング導入で緊張感が失われる~コーチングQ&A

コーチング導入で緊張感が失われる~コーチングQ&A

(2015年11月15日更新)

 
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研修でも触れられていたように、硬直的な組織の中では個々の潜在能力を引き出すのは困難でしょうが、一方で、ベースに共通の目的意識、問題意識がないと、コーチングは有効に機能しないのではないでしょうか。
コーチングに頼りすぎて、指揮系統が乱れ、組織内に緊張感が喪失してしまうという不安があります。 
(細田三郎・チェーン店店長〈仮名〉)
 
 
*  *  *
 
細田さんのご指摘は、コーチング初心者であるマネジャー層が陥りがちな「罠」を見事に見抜かれたものだと感じます。まさにおっしゃるとおりです。
コーチングスキルさえ活用すれば、部下は成長し、職場はすべてうまくいく、などということは幻想にすぎません。
コーチングは確かに「きわめて有効なスキル」ではありますが、その有効性が十分発揮されるためには、さまざまな条件があるのです。その主なものをご参考までにあげておきましょう。
 

【条件1】上司・部下の信頼関係が不可欠

これはコーチングが機能するための根本条件です。上司が部下を信頼することは、上司の心の持ちようで比較的容易にできるかもしれませんが、本当に「信じきる」ことはそう簡単ではないでしょう。しかし、これがコーチングが成立するための前提であり、ここがぐらついたままコーチングスキルを使うと、コーチングのようであってコーチングではないもの、いわば「コーチングもどき」となり、“部下を操作するためのスキル”となってしまいかねません。
また、上司が部下に信頼されるということも、簡単にはいきません。いかにすれば部下から信頼される上司たりうるか、これだけでセミナーが成り立つような大きなテーマですから、ここで詳細に述べることはできません。根本的な要因は能力や人格にありますが、行動面でいくつかの要因をあげておきます。
 
(1)言行一致
言うこととやることに矛盾がない。相手や場合によって発言が変わるとか、上長の言動によってころっと態度が変わる、というようなことがない
(2)強い意欲
目標達成、課題解決、よりよい職場づくり、といったことに、部下の誰よりも強い熱意・意欲をもって取り組んでいる。その熱意が勢いとなって表れている
 
(3)部下の味方
要求や叱責は厳しくとも、その根底に、部下の成長を願う気持ちがあふれている。常に部下に対して温かい関心を注いでいる。部下との約束を守り、知りえた秘密を守る
 
(4)人の話をよく聴く
他者、特に部下の話を真剣に聴く
 
 

【条件2】目的・目標の共有

これは細田さんもあげておられますが、上記の「条件1」とも大いに関連するもので、上司と部下全員の意識・行動のベクトルがピタッと合っているということです。会社全体が目指す方向・目標、その中で自分たちのチームが果たすべき役割、といった「所与の課題」を明らかにするとともに、このチームをどのような人間集団にしていきたいか、といった自らの「ビジョン」を明確に打ち出し、部下の共感を得られるまで熱く語り続けることが望まれます。
なお、細田さんがあげておられる「問題意識」は、この「目的・目標」と「現状」との“ギャップ”を明確に把握し意識することだと考えればいいでしょう。当然、重要な要素です。
 
 

【条件3】コーチングに縛られない

コーチングを学び、そしてコーチングに共感した初心者に多いのが、「コーチングを使わなければならない!」という過度の思い込みです。
上司は、プロのコーチではなく、あくまで組織のマネジャーです。マネジャーにとってコーチングは、マネジメントを円滑に進めるための多くのスキルの一つであり、それ以上のものではありません。
つまり、コーチングは非常に有効なスキルではあっても、万能ではないのです。ですから、時と場合に応じては、コーチングをあっさり手放し、指示命令で部下を動かすことも必要です。チーム全体として成果をあげることがマネジャーの基本的な役割である以上、その時点で最も有効なスキルをうまく使い分ければいいのです。言い換えれば、「コーチングも使える上司」を目指そうということです。
ただし、スキルとしては時に応じて手放して構いませんが、部下(人間)に対する考え方(上で述べた「部下に対する信頼」)だけは、常にしっかりもっていていただきたいと思います。これを私どもでは「コーチングマインド」と呼んでいますが、上司はどんな場面にあってもこのマインドだけは頑なに保ち続けていただきたいものです。
 

【条件4】「コーチングは甘い」は誤解

コーチングは、相手の話をよく聴く、適切な質問をする、承認のメッセージを送る、といった印象が強く残るためか、相手に対してとても優しいスキルであるという認識が生じがちです。そこから、「コーチングは甘い」「もっと厳しく対しなければ人は動かない」といった「批判」も耳にします。
しかし、これらはまったくの「誤解」です。コーチングは、相手の「答え」を引き出し、「自主的」な行動を促します。そこでは、「自分で考える」こと、そして「自主性に伴う責任を引き受ける覚悟」もまた要求されるのです。実はこれは、何でも上司の指示を仰ぎ、その指示命令どおりに動くことよりも、はるかに難しいことなのです。
指示命令型のマネジメントは外見的には厳しいように見えますが、部下にとっては、ある意味でラクなものです。しかしコーチングは、雰囲気は確かに柔らかく温かいものですが、「君はどう思う?」という質問一つとってみても、実に厳しい意味合いを持った問いかけなのです。
「本当は厳しく怖い」スキルだからこそ、「条件1」であげたいくつかの要因、とりわけ強固な信頼関係があって初めて成り立つのだということを、はっきりと認識しておいていただきたいと思います。
 
 
以上述べたことを勘案していただくと、コーチングは組織によい緊張感をもたらしうるものだということもご理解いただけるのではないでしょうか。万能ではないが最も有効性が広く、かつ効果のあるスキルとして、ぜひ活用し続けていただきたいと思います。
たとえスキルは未熟でも、上に述べた「コーチングマインド」さえしっかりもっていただければ、実践経験を通じてスキルは必ず上達していくものです。がんばってください。
 
【POINT】
コーチングとは「自主性」と「責任」を伴う厳しいスキルであることを心得よう

 

出典:『リーダーのためのコーチング実践Q&A』(2005年8月/PHP研究所)

 


 

【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。

営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。

現在、(株)PHP研究所客員。

 


 

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