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上司の思いや意図が部下に伝わらない~コーチングQ&A

上司の思いや意図が部下に伝わらない~コーチングQ&A

(2017年7月14日更新)

 
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上司の思いや意図が部下に伝わらない、あるいは少し違う角度で伝わっていくというケース。コーチングの考え方をもとに解説します。

 

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私の職場は、私1人と20代を中心とした5名のアルバイトで運営している、インテリア雑貨の小さな店舗です。つい先日、出入り口のドアの汚れとホコリが気になり、アルバイトの1人に掃除するように2日間にわたり頼みました。勤務時間は20時までですが20:15までかけて掃除をしてくれたので、30分の時間外をつけてあげました。

その後、ドアの状況を見に行くとどこを掃除したのかわからないので、翌朝尋ねると、ドアの窓ガラスを掃除しましたと答えが返ってきました。私は愕然としました。自分の言い方が悪いのか、どこか説明が不足していたのか。「ドアを掃除して」と頼めば全体を掃除すると思うのは私の思い込みなのでしょうか? 職場を運営していく上で、このような若者をどのように指導していけばいいか、アドバイスをお願いします。(丸田二郎・チェーン店店長〈仮名〉)

 

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上司の思いや意図が部下に伝わらない、あるいは少し違う角度で伝わっていく、こういうことはよくあることですが、丸田さんのこの事例もまさにその典型ですね。

コミュニケーションのあり方を考える上で格好の題材ともいえます。では、一緒に考えていきましょう。

 

部下への依頼の状況をふり返る

まず、この若者(A君、としておきましょうか)に、どういう状況で、どんな言葉で、ドアの掃除を頼んだのでしょうか。

「二日間にわたり頼んだ」というのは、すぐに彼がOKしたのではないのだろうと推察されますが、それがどのような理由によるものか、また、この間、丸田さんとA君との間でどんな会話がやり取りされたのか、まったくわかりません。本件においては、ここがもっとも重要なポイントなのですが、上記の文面では触れられていません。それから、頼んだのは五名の中でA君だけなのか、そうだとすればそれはどういう理由によるものかもわかりません。

そこで、これらのことはいったん置いておいて、こういう方法はどうでしょう。

 

(1)ミーティングの場で、例えば「どこよりも清潔な店にしたい」という責任者としての方針・ビジョンを全員に伝え、協力を求める(ゴールイメージの明確化、目的・目標の共有化)

(2)そのためにどこをどうすべきか、全員から意見を出してもらう(トイレ、陳列ケースの下、入り口のドア、など、いろいろ出るでしょう)

(3)優先順位やそのやり方について、自由に議論してもらう。特にやり方は彼らのアイデアや自主性を尊重

(4)意見をまとめ、全員の納得のもとに、結論を出す。時間外手当をつけることも告げる

 

【例】五人で一人一箇所ずつ担当の場所を決める。そこを週に一回、終業後に十五分だけ掃除する。時間外は三十分つける。各メンバーは、自分の担当外の部分について、気づいたことを担当者に伝える。これをとりあえず四週間続けてみる

 

ビジョンの共有化は必要不可欠

以上は一例に過ぎませんが、要は、各自の参加意識と自主性を高めるということです。何もミーティングをやる必要はないかもしれませんが、責任者のビジョンを全員が理解し、協力して実現しようというムードをつくることが大切です。

翻って、現実はどうだったのでしょう。A君は、

「何でドアを掃除しなきゃならないんだ」

「何で僕だけがやらなくちゃならないんだ」

という疑問をもってはいなかったでしょうか。嫌々やらされる、という気分ではなかったでしょうか。こうした疑問や気分を払拭するような説明や、会話はあったのでしょうか。こうした点を、振り返って思い出しながら点検していただきたいと思います。

コーチングは、研修で学ばれたとおり、相手の潜在能力を引き出し、自ら進んで行動することを促すコミュニケーションスキルです。従って、コーチングを機能させるためには、少々手間がかかります。しかし、この手間を省いては、コーチングにならないのです。

 

指示命令かコーチングかをはっきりさせる

今回のケースにおいて、入り口のドアを掃除するということが緊急の課題であれば、手間のかかるコーチングなどを使わず、A君に指示すればいいわけです。

ただし、その場合には、いつ、どのくらいの時間で、どこを、どのように、といった、いわゆる5W3Hの要素をきちんと押さえた指示を与える必要があります。失礼ながらこのケースは、丸田さんの文面を読む限り、コーチングとも指示命令ともはっきりしない、どっちつかずの仕事の“依頼”だったような印象を受けてしまいます。

若い世代はちゃんとしたコミュニケーションに慣れていませんから、疑問点を詳しく確認することもせず、自分の解釈で勝手に行動してしまう傾向があります。彼らがこちらの意図をきちんと忖度(そんたく)してくれるなどと期待するのは、ちょっと無謀かもしれません。彼らは言われたことしかしない、と考えておいたほうがいいでしょう。今回もそういうことだったのではないかという気がするのですが、いかがでしょうか。

もしそうであれば、上司の側が心してコミュニケーションの質と量の改善向上に努めなければならないということになります。ちゃんと伝え、ちゃんと理解させ、やる気にさせる責任は、彼らにではなく、すべて自分の側にある、というスタンスを取ることが、まさに責任者の条件なのです。

彼らを、こちらの思うとおりに動かしたり変えたりすることはできない、ということをまずは心に刻んでおきたいですね。自分にできることは、自分自身の態度行動を変えることだけなのです。

A君との現実の会話や状況がわからないので具体的なアドバイスにはなりませんでしたが、振り返って考えなおすヒントにはしていただけるのではないでしょうか。今後の参考にしていただければ幸いです。

 

【POINT】ちゃんと伝え、ちゃんと理解させる「責任」はすべて上司の側にある

 


 

【Key Word】「リフレーミング」

コーチングでは、相手の内部に潜む資源を発見することが重要です。

リフレーミングは、考え方の枠組み(フレーム)を変えることによって、それまでマイナスに捉えていたもの(弱点・欠点など)でもプラスの要素にできるという気づきを与えるスキルです。

例えば、「私はどうも決断力に欠ける気がするのですが」という人に対して、「今回のように微妙な状況においては、あなたの慎重さが大きな意味をもったのではないですか?」といった問いかけによって、決断力がないという弱点も慎重さという資源なのだ、と感じとることができます。

つまり枠組みを変えると意味が変わり、それによって行動が変化し始めるのです。

 

出典:『リーダーのためのコーチング実践Q&A』(2005年8月/PHP研究所)

 

コーチング研修ベーシックコース

 


 

【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。現在、(株)PHP研究所客員。


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