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心を叱る

心を叱る

(2012年2月 1日更新)

 
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人を育てる上で、叱ることはたいへん重要です。以前はどこの職場でも、怒鳴ったり、机を叩いたり、時には物を投げたりしながら、上司が部下を叱った、という話をよく聞きます。

 

時代が変わり、こうした行き過ぎた叱り方は慎まなければいけませんが、経営環境の厳しさを乗り越えるタフな人材を育てようと思うならば、ある程度の厳しさを伴う叱責は必要なのではないでしょうか。

 

では、人を育てる叱り方とは、どんな叱り方なのでしょうか。そのヒントを松下幸之助のエピソードから、読み取ってみたいと思います。

 

幸之助は「赤字は罪悪である」という信念から、赤字を出した部門責任者には厳しい態度で臨みました。昭和30年代後半、松下電器(現パナソニック)のある部門責任者N氏が、赤字決算の報告を幸之助にしたところ、烈火の如く叱られ「赤字を出すような奴は、罪人と一緒だ」と罵倒されました。同時期、別の部門責任者A氏が、同じように赤字決算の報告をしたところ「来年あたりから経営がよくなるから、辛抱しいや」と励まされたそうです。

 

N氏とA氏、いずれも赤字の報告をしているのに、一方は烈火の如く叱られ、もう一方は励まされる-。両者の間には、どんな違いがあったのでしょうか。結論を言うならば、二人の意識のもち方が大きく異なっていたのです。N氏は事業不振の理由を自分以外の他の要因に求め、「赤字でも仕方がない」と内心、思っていましたが、A氏は自責の念に立って、「一刻も早く赤字を解消しないといけない」と必死な思いになっていたのです。

 

結局、幸之助は赤字という事象だけを捉えるのではなく、その事象に直面している当事者の心の状態を問題にしていたのです。二人の責任者は、その後どうなったかといえば、厳しく叱られたN氏は、経営者としての自覚に欠けていた自分に気づき、心を入れ替えて見事に部門の経営再建を果たし、もう一方の励まされたA氏は、幸之助の予想したとおり、翌年から黒字経営を達成できたのです。

 

松下幸之助は著書の中で、次のように述べています。

「人間の心というものは、どのようにも動く。(中略)経営なり日々の活動を進めていく上においては、そういう幅広い動きをする人間の心というものを、十分に認識しておくことが大切ではないだろうか」

 

結局、人を育てる上で大切なことは、目の前の事象だけを捉えるのではなく、相手の内面にある心の状態に焦点を当てて叱る(あるいは誉める、励ます)ということなのでしょう。心の状態は感知しにくいものですが、相手に対する関心をもって「見る気になって見る、聴く気になって聴く」を実践すれば、ある程度つかむことができるものです。指導者の立場にある方には、ぜひ人の心に対する感性を高めた上で、上手な叱り方をしていただきたいものです。

 


 

的場正晃 まとばまさあき

 

神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程にてミッション経営の研究を行ない、MBAを取得。

現在は㈱PHP研究所 経営理念研究本部 教育研修部 主幹講師。

経済産業大臣認定 中小企業診断士         


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