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臨界点を越える

臨界点を越える

(2010年10月26日更新)

 
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低迷を続ける経済情勢ではありますが、人材育成に対する投資を増加させる企業が増えて来ました。しかしながら、時間とお金と労力を投入して教育研修を実施した割には、期待通りの成果を上げていないケースが圧倒的に多いように見受けられます。この原因は一体どこにあるのでしょうか。

 

私どもが、多くの企業・団体様の人材育成をお手伝いしていて感じることは「徹底すること」の重要性と難しさです。人材育成で着実に成果を上げている企業に共通しているのは、徹底した取り組みがなされているということです。この点に関して、一つの事例をご紹介いたしましょう。

 

抜群の顧客満足度を誇り、京都・大阪・神戸・名古屋・東京で「MKタクシー」を運行するエムケイ株式会社の創業者・青木定雄氏は、創業以来、乗務員の意識改革に全身全霊を傾けてきました。創業時、乗務員がまったく挨拶をしないことに問題意識を持った青木氏は、挨拶の重要性を啓蒙するため、毎朝無線で乗務員に「ご苦労様、おはようございます」と声をかけ続けましたが、10年間まったく返事がなかったそうです。それでも青木氏は諦めず来る日も来る日も乗務員への声かけを徹底したところ、10年経った頃に挨拶を返す人が一人、二人と現れ、やがてその数が少しずつ増え続け、今では「MKの乗務員の挨拶は素晴らしい」と評判になるほど、乗務員の接客態度が向上したのです。

 

物理の世界に、「臨界点」ということばがあります。臨界点とは、「物質がある状態から別の状態に変化する境目」と定義されていますが、エムケイにとっては創業から10年経った時期が、まさに同社にとっての臨界点であり、ここを境にして乗務員の意識と行動が変わり始めたのです。そして、その背景には臨界点に到達するまで来る日も来る日も乗務員への声かけを徹底した青木氏の努力があったことは言うまでもありません。 エムケイの事例からは、人づくりにおける重要な示唆をいくつも読み取ることができます。

 

教育研修を実施しても、ある時期までは人も組織も何の変化も起こしていないように見えることが往々にしてあります。しかし、それは人や組織が変化を起こす臨界点に未だ達していないのであって、大切なのはここを我慢して臨界点に達するまでの取り組みを止めないことなのです。 知識系・スキル系の教育と異なり、意識改革・行動改革を目的とした教育には時間がかかります。だからこそ、時間の経過の中でもぶれない人づくりへの信念が必要となります。

 

松下幸之助は、「成功の要諦は成功するまで続けることである」と述べましたが、このことばこそ、「人をつくる人」が拠り所とすべき、基本の考え方ではないでしょうか。

 


 

的場正晃 まとばまさあき

神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程にてミッション経営の研究を行ない、MBAを取得。

現在はPHP研究所教育出版局研修企画部部長。経済産業大臣認定 中小企業診断士 


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