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自分の意見を主張できない入社3年目の女性社員

2017年3月27日更新

自分の意見を主張できない入社3年目の女性社員

日頃から発言が少なく、面談や会議で相手から誘導や反対をされると、自分の考えではなく相手の意見に従ってしまう入社3年目女性社員さんからのご相談。アドラー心理学の考え方からアドバイスします。

【質問】わたしは食品メーカーに入社し、経理に配属され3年になります。中学生くらいから、自分の意見を主張することが苦手になり、相手の顔色を見ながら相手に合わせてコミュニケーションをとってしまうことが増えました。社会人になってからは、面談などで上司の「言ってほしい答え」に誘導されると、そう答えなければいけないように感じて自分の考えとは違うことを言ってしまったりします。また会議では、最初は問題なく自分の意見を言えるのですが、反対意見を言われると、反論したら嫌われるのではと思い、ついその意見に従ってしまいます。5月からわたしの部署にも新入社員が配属され指導する立場になるので、こんなことではいけないとは思っているのですが、どうしたらいいかわかりません。自分の意見をどのように伝えればよいか教えてください。(25歳女性 食品メーカー 経理部)

 

上記のご相談ですが、この方は中学生くらいから自分の意見を主張するのが苦手になったということですので、その頃に何らかの劣等感を抱くことがあったと考えられます。その劣等感を克服すること、そして相手の考えを尊重しつつ自分の意見もしっかりと主張するためのスキルを身につけることができれば、悩みの解決に役立つでしょう。

劣等感を克服する心のもち方

劣等感とは、「主観的に自分の何らかの属性を劣等だと感じる」ことで、厳密に言うと「こうありたいと思う目標と現実の自分とのギャップに直面したときに抱く陰性感情の総称」を指します。つまり、他者との比較で使うものではなく、理想の自分自身との比較において生じるものです。

アドラーは、劣等感を「健康で正常な努力と成長への刺激」として、それ自体を抱くのは人間であれば当たり前であるとしました。一方で、アドラーが許さなかったのは、自分の劣等感を理由に、人生で取り組まなければならない課題から逃げてしまうことです。アドラーはこれを「劣等コンプレックス」と呼び批判しました。

このご相談者の場合、この「劣等コンプレックス」に陥っている可能性があります。アドラー心理学では「どんなハンデをもって生まれようと、どんな状況・環境に置かれようと、それだけではその人の人生を決める決定的な要因にはならない。それを受け止めたあとに、建設的な行動をとるか非建設的な行動をとるかは、自分自身が決められる」と考えます。

自分で何かを決めるときには劣等感が影響しますが、最終的に決めるのは自分です。今のあなたをつくったのはあなたであり、これからのあなたをつくるのもあなた自身です。人間は環境や過去の出来事の犠牲者ではなく、自ら運命を創造する力をもっています。そのことをしっかり意識して行動することが大切です。

アドラー心理学における自己表現の4つのタイプ

では、相手に合わせすぎたりせずに自分の意見をうまく主張するには、どのように伝えればよいのでしょうか? こうしたとき役に立つのが「アサーション」の技法です。

アドラー心理学では、自己表現には以下の4つのタイプがあると考えます。

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(1)非主張的

常に相手を優先して自分の意見が言えず、いつも自分を抑制してしまうタイプ。

(2)攻撃的

自分のことだけを考え、相手の意見や感情を考慮せず自分の意見を押し通すタイプ。

(3)復讐的

自分のことだけを考えるが自分の意見を言えず、相手に復讐的な態度をとるタイプ。

(4)主張的

自分の意見を相手の主張や気持ちに配慮して言い、考えが違うなら歩みよって解決するタイプ。

自己表現のタイプのうち望ましいのは「(4)主張的」であることは、それぞれの説明を読んでいただければおわかりいただけるでしょう。

一方、アサーションとは、「自分と相手を大切にする自己表現技法」であり、アサーションの観点による望ましい人間関係のあり方とは、「自分のことを考えるが、相手のことも配慮する相互的関係」といえます。つまり、アサーションとは、自己表現の4つのタイプのうち、「(4)主張的」を目指すものにほかなりません。

アサーションの技法を身につけることで、相手に配慮しつつ自分の考えもしっかり伝えることのできる自己表現の仕方を身につけることができるのです。

主張的に伝えるためのアサーションの手法

ご相談の内容から推察するに、この方の自己主張のタイプは「(1)非主張的」だと思われます。この方が自分の意見を言えないその背景には、以下のような思いがあると考えられるでしょう。

・相手を傷つけたくない

・相手ともめたくない

・反論を言って叱られたくない

・正しいか自信がないから間違っていたときが怖い……  など

組織でのコミュニケーションにおいて、自分の意見を人に伝えるという行為は避けて通ることはできません。どんな事情があろうと、非主張的に自分の意見を押し殺していては、仕事がうまく回らないばかりか、メンタル不全を引き起こす可能性もあります。勇気を出して、少しずつでもいいので、自分の意見を主張的に表現することを始めましょう。

それでは、どのように自分の意見を主張的に伝えるのか。アサーションを詳しく説明しようとすると何百ページも必要になりますので、ここでは誰でも今日からすぐに実践できる3つの技法を紹介します。

(1)「YOU(あなた)」メッセージに代わる「I(わたし)」メッセージにして伝える

日本語は、主語を省略することが多い言語です。そのため気づきにくいのですが、自分の意見や感情を伝える際は、主語が「YOU」になっていることが多いものです。しかし、「YOU」を主語にすると、相手を責める口調になりがちです。

これに対し、「I(わたし)」を主語にすると、あくまで「わたしはこう考えている・感じている」ということを伝えていることになるため批判的にならず、相手を傷つけずに伝えることができます。

例えば、後輩が作成する書類にミスが多い場合。「(あなたは)ミスが多いから気をつけて」と指摘するのと、「(わたしは)見直してから提出してもらえるとうれしい」と伝えるのとでは、受ける印象はずいぶん違いますね。

意見や感情を伝えるときには、少し意識して主語を検証し、「I(わたし)」メッセージで発信するようにしましょう。

(2)相手に行動を促すときは「依頼口調」で伝える

相手に行動を促す言い方は、「命令口調」と「依頼口調」に分けることができます。「命令口調」は、相手に選択の余地を与えない言い方で、上の立場の人が下の立場の人に指図する印象を与えます。言われた側は、自分の立場・状況を考慮されていないと感じ、不快感が残ります。

これに対し、「依頼口調」は、相手に選択の余地を与える言い方で、対等あるいは下の立場から発せられたメッセージという印象を受けます。依頼された側は、自分の立場・状況を考慮されたと感じ、都合の悪いときは率直にその旨を表明できますし、引き受けてもよいときは、快く頼みをきいてくれます。

この「依頼口調」には、2つのタイプがあります。

・疑問形のお願い口調

「~していただけませんか?」「~しないでいただけませんか?」「~してもらえますか?」「~しないでもらえますか?」など

・仮定形のお願い口調

「~していただけると、助かるんですが……」「~していただけませんか? そうすると作業が進みます」など

なお、相手が頼みを引き受けてくれたときには、感謝の言葉「ありがとうございます」を必ず言うことも大切です。

(3)否定的な言葉ではなく、肯定的な言葉で伝える

仕事では、頼まれごとを断るなど、相手にとってマイナスとなることを伝えなければならない場面も必ずあります。そのときは、「できません」「無理です」というような、相手が受け入れにくい否定的な言葉で終わらせず、前向きな代替案をセットで伝えるようにします。

例えば、上司から「今日中に○○の提案書を仕上げてほしいんだけど」と仕事を依頼されたときに、自分の今抱えている仕事を考慮してそれが難しいときは、「今日中に仕上げるのは厳しいのですが、明日の午前中ならできます」など。否定的な言葉に代替案をプラスしてセットで伝えることで、相手も受け入れやすくなります。

否定はしたくないからと、無理に引き受けたり曖昧な言葉で濁したりすることは、自分も相手も尊重しない態度であり、論外です。

今回ご紹介した劣等感を克服する心のもち方と主張的に伝えるアサーションの技法には、三日坊主になってもよいので、ぜひ取り組んでみてください。三日坊主も1週間に1回行えば、1年で約150日取り組んだことになります。

焦らず、少しずつ、実践していきましょう。

「アドラー心理学に学ぶ『勇気づけ』の職場づくり」一覧はこちら

通信教育「リーダーのための心理学入門コース」はこちら

宮本秀明(みやもと・ひであき)

1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。

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