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「心理的安全性」とは?「ぬるま湯組織」が若手社員の成長を阻む

2022年6月 8日更新

「心理的安全性」とは?「ぬるま湯組織」が若手社員の成長を阻む

「心理的安全性」のもつ意味の解釈を間違って生まれる「ぬるま湯組織」が蔓延するなか、成長実感をもてず焦りを感じる若手社員が増えています。本稿では「心理的安全性」とは何か、そして業績との相関性、人が育つ職場風土の条件と課題について解説します。

INDEX

「心理的安全性」とは?

米グーグル社の社内調査の結果が公表されて以降、「心理的安全性(psychological safety)」という概念に注目が集まるようになりました。
「心理的安全性」とは、他者の反応に怯えたり羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分を安心してさらけ出すことができる職場やチームの状態、雰囲気を表す概念です。チーム全員が「こんな意見を言ったら皆に否定されるかもしれない」「こんな失敗をしたら(質問をしたら)能力が低いと思われる」といった不安を感じずに、仕事に取り組める状態とも言えます。
米グーグル社の調査では、この「心理的安全性」の確保が生産性向上のカギと報告されています。

「心理的安全性」が高まることで得られる3つのメリット

「心理的安全性」が高まることで得られるメリットは、主に次の3つと言われます。

1.メンバーのパフォーマンスが向上し生産性が高まる

チームで仕事を進める上で、メンバー間のコミュニケーションは欠かせません。心理的安全性が高いチームでは、対話を密にして協力しながら業務を進められるため、一人ひとりのパフォーマンスが向上します。また、心理的安全性を高めることによって、対話がふえ、早期に課題を発見し解決できることにつながるため、生産性の向上にも効果があるといわれます。

2.アイディアが集まりイノベーションが生まれる

会議などの場で、メンバーから新しいアイデアが活発に出るようになることから、イノベーションが創造されやすくなります。

3.エンゲージメントが向上する

建設的で生産性の高いチームで能力を生かして仕事ができることから、メンバーの満足度が高まり、チームや企業へのエンゲージメントが向上します。その結果、人材の定着率も高まっていきます。

「心理的安全性」を高める方法

「心理的安全性」の重要性が認識され、多くの企業が「心理的安全性」の高いチームづくりを進めています。その代表的な方法をご紹介しましょう。

・メンバーが相互に感謝を伝える機会をつくる
・会議などでメンバー全員が発言する機会をもてるようにする
・新人を全体でサポートする
・ポジティブ思考を意識させる
・1on1ミーティングを制度化する

これらの方法からもわかるように、「心理的安全性」は一朝一夕で高まるものではありません。会社として中長期的な視野で取り組んでいくべき課題といえるでしょう。

参考記事:1on1成功のポイント~心理的安全性と上司の「聴く」スキル

「心理的安全性」と業績の相関性

では、この「心理的安全性」という概念は、企業の業績とどのように関連づけられるのでしょうか。

エイミー・C・エドモンドソン「心理的安全性」

米国のエイミー・C・エドモンドソン氏は、「心理的安全性」と業績の相関性について、上の図を用いて解説しました。この図では、縦軸の「心理的安全性」、横軸の成果獲得へのプレッシャーを指標にして、組織の状態を4つのタイプに類型化しています。

まず、左下は「心理的安全性」が低く、成果獲得へのプレッシャーも低い「無気力ゾーン」と呼ばれる状態です。こうした状態にある組織では、働く人がやる気を出すことは難しく、無気力な集団になりやすいことを示しています。

また、右下の「不安ゾーン」は、「心理的安全性」が低く、成果獲得へのプレッシャーが高い組織です。働く人が不安になりやすく、メンタル不調者、離職者の増加につながります。

一方、上段は、「心理的安全性」が確保されている状態を示しています。左上の「快適ゾーン」は、成果獲得へのプレッシャーが低く、このような「ぬるま湯状態」にある組織は「仲良しグループ」になりやすく、個々の働き方も現状維持に流れてしまいがちです。

【企業事例】スタートアップ企業の「快適ゾーンの限界」

さて、研修や組織開発のご相談にのっているとき、経営者の方からよくお聞きする話があります。

「創業時にはとにかく社員に発破をかけて業績をつくってきたものの、従業員が疲弊してどんどん会社を辞めていく。『これではいけない』ということで、ES(従業員満足度)向上の取り組みを始め、従業員をこまめに承認したり、目標未達の社員がいたとしても『がんばっているから仕方ない』と受け入れるようにしたところ、定着率も高まり会社の雰囲気がずいぶんよくなった。でもなんとなく、緩い社風になって業績もイマイチなんです......」

こういう話はスタートアップ企業に多いのですが、最初は先述の図の右下「不安ゾーン」から始まり、やがて行き詰まって、左上「快適ゾーン」に移動します。「快適ゾーン」ではいろいろな問題が解決するので表向きには「いい会社」になったように見えるのですが、ともすれば「ぬるま湯組織」になり、業績が伸び悩むのです。これが「快適ゾーンの限界」といわれるものです。

「心理的安全性」と人材育成の関係

次に、「心理的安全性」と人材育成の関係について考えてみましょう。

昨今、部下がミスをしても、「がんばっているから仕方ない」と大きな度量で受け止めたり、誤った考え方や態度・行動をとっても、「いろいろな価値観があるから」といって見過ごしたり、「無理をさせられないから」という理由でハードルの高い仕事を与えない、等々、「ものわかりの良い、優しい上司」が各企業で増殖し、職場の雰囲気をゆるくしています。

なぜ、ゆるい上司が増えたのでしょうか。
それは、「ハラスメント事案に巻きこまれるのがやっかいだから」とか、「部下に残業をさせられないので業務上の負荷をかけられないから」とか、「心理的安全性の高い職場をつくりたいから」とか、上司の側にもさまざまな言い分があるでしょう。

「ぬるま湯組織」に違和感をもつ若手社員

叱られることなく、仕事上のプレッシャーに晒されることもない、そんな「ぬるま湯組織」で一人ひとりが満足感を感じられればいいのですが、必ずしもそうはなりません。ゆるさに違和感を覚え、不満を感じているのは、意外にも若手社員の人たちに多いという調査結果(※1)結果が明らかになっています。

また、当社で実施した新入社員対象のアンケート調査(※2)調査では「現在、困っていること、不安に思っていることは何か?」という問いに対して、以下のような回答がありました。

  • 学ぶ機会が少ないため、来年の新人に追い越されるのではないかという不安がある
  • 他の会社の新入社員と比べて遅れている気がする
  • 将来的に一人で営業ができるのか不安を感じる

また、「上司(先輩)や会社に対して要望があるとすれば、どんな支援をしてほしいか?」といった問いには、次のような回答が見られました。

  • スキルアップするための勉強の仕方を教えてほしい
  • こまめにフィードバック、アドバイスをもらいたい
  • 定期的な面談(20分程度)をしてほしい

こうした調査から言えるのは、最近の若手社員は高い成長欲求をもっているけれど、ゆるい職場にいると成長できないのではないかという不安・不満を感じているということです。

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組織が「学習&高業績ゾーン」にあるためには

組織が「学習&高業績ゾーン」にあるためには

こうしたことを考えると、「心理的安全性」を確保しても、それだけで業績が上がる、あるいは人が育つというわけではないことがわかります。

冒頭でご紹介した「心理的安全性」と業績の相関性の図において、組織が「学習&高業績ゾーン」にあるためには、崇高な使命や明確な責任、挑戦的な目標が与えられなければなりません。組織全体でビジョンを共有し、目標に向かってメンバーをストレッチさせ、時には耳の痛いフィードバックを行うなど、厳しさが伴ってはじめて個と組織は成長するのです。

上司に求められる、愛情に裏打ちされた厳しさ

時代の流れとともに、職場の環境や上司-部下の関係性、働く一人ひとりの価値観等が変化してきました。なかでも、ここ数年で大きく変わったのが、上司のマネジメントスタイルではないでしょうか。

筆者が若手社員であった時代(1990年台前半)には、上司が机を叩いたり、場合によっては灰皿を投げたりしながら、声を荒げて部下を叱責する場面を何度か見てきました。こうした行為は、今ではハラスメントとして大問題になるので容認されるものではありません。

でも、そういう厳しい叱責の光景が30年経った今でも鮮明に記憶に残っています。上司が叱責するには相応の理由があるはずです。当時の上司たちは、厳しい叱責を通じて、「企業人としてのあり方」や「仕事に向き合う姿勢」などを、直接叱責する相手だけではなく、周囲の人たちにも教えてくれていたのでしょう。

一人ひとりが成長し、働きがいを感じて幸せになるためには、上司は愛情に裏打ちされた厳しさをもつ必要があります。その覚悟を決めた上司のもとで部下は成長し、「この職場で仕事をし続けよう」という思いが強化されるでしょう。

皆さんの職場では「心理的安全性」が正しく確保されているでしょうか。また、経営理念を共有し、時には上司が厳しさをもって人を育てるという風土は構築されているでしょうか。

※1 参考:リクルートワークス研究所『若手を取り巻く職場環境の実態検証』(2022)
※2 PHPゼミナール「新入社員研修フォローアップコース」(2020.12.9開催)の参加者42名に対して、対面でインタビューを行った

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長。1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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