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最近の若いヤツは飲むのが嫌いなわけではない。あなたと飲むのが億劫なだけ~佐々木常夫

2013年10月 4日更新

最近の若いヤツは飲むのが嫌いなわけではない。あなたと飲むのが億劫なだけ~佐々木常夫

「最近の若いヤツは、仕事とプライベートを分けて考えているので、上司とは一緒に飲みたがらない」とよく言われます。しかし私はそうではないと思っています。

 

最近の若いヤツだって、仕事で壁にぶち当たっているときには、事情をよく知っている人に話を聞いてもらいたいものです。心を許せる相手であれば、たとえ上司であっても、ときにはプライベートな話だってしたいものです。

人間は、心にいろいろな思いを抱え込んだまま、誰にも喋らずにいられるほど、強い生き物ではありません。それは時代や世代とは関係ないことです。若い人だって話をしたがっているし、聞いてほしがっています。

たしかに最近の若い人は、昔と比べれば酒量が減っているかもしれませんが、お酒や食事の場を通じて人と心を通い合わせること自体を嫌がっているわけではありません。

ではなぜ「最近の若いヤツは、上司と一緒に飲みたがらない」と感じる人が多いのでしょうか。原因は若者ではなく、上司の側にあると私は考えています。

部下を飲みに誘ってもいつも断られる理由は、最近の若いヤツが上司と飲むのがイヤだからあなたの誘いを断っているわけではなくて、あなたと飲むのが億劫だから断っているのです。

 

 

日常の仕事の場面では、上司が部下に対して指示を出したり指導をしたりといったように、上司が主導権をとって話す場面のほうが圧倒的に多いものです。部下は、上司の指示や会社の方針に対して思うところがあっても、なかなか口にすることはできません。

ですから酒や食事の場面では、逆に上司は聞き役にまわり、部下に話をさせるべきなのです。

すると、部下の話から「そんな出来事があったの?」「そんなことで悩んでいたの?」と驚くような新発見の情報をたくさん得ることができます。一方部下は、心の中にある不安や悩みを吐き出すことができて、気持ちがすっと楽になります。

つまり上司にとって部下と酒を酌み交わすことの意味は、部下から話を聞き出すことによって、職場の状況や部下の様子を把握することにあります。また部下が前向きに仕事に取り組めるように、相談に乗ってあげたり励ますための場でもあります。自分の話などしている場合ではないのです。

ところが多くの上司は、聞き役にまわることができません。部下の話を十分に聞かないうちから「そういうとき俺の場合は……」といったように、すぐに自分の話をしてしまい、ときには説教まで始めてしまう。部下は「つまらない話だな」と思ったとしても、相手が上司であればぞんざいな態度をとるわけにはいきません。

だから部下は「何で仕事が終わってからも、上司から説教を聞かされなくてはいけないんだろう」と、上司と飲むことを嫌がってしまうわけです。

 

ありがたいことに、私はかつての部下などから、今でも頻繁に飲みに誘ってもらえます。さらに、自分の娘とも頻繁に飲みに行くと言うと、驚かれる方も多いです。

何か秘訣があるかといえば、ただ「聞いている」だけなのです。

もっとも、「相手の話にきちんと耳を傾ける」というのは、意外と難しいのも事実です。

私は以前、会社の課長研修で、「私は」「僕は」という言葉をいっさい使わないで、2人で対話をするというゲームに参加したことがあります。

こちらが30秒間話したら、相手に30秒間話してもらう。話すテーマは何でもいいのですが、ひとつだけ決められていたのは「私は」「僕は」という一人称の言葉がひと言でも出てきたら、その時点で負けというものでした。

するとみんな3分もしないうちに、「私は」「僕は」という言葉が出てしまいます。

私たちは普段会話をしているときに、いかに相手の話を聞こうとせずに、すぐに自分の話をしたがるか。そのことを実感させられるようなゲームでした。

 

相手の話をきちんと聞けることは、それだけでひとつの能力であるといえます。聞き上手というと、巧みな質問によって相手から言葉を引き出す人をイメージするかもしれませんが、「うん、うん」とうなずきながら相手の話を聞くだけでも、十分聞き上手なのです。

若い人はほんとうは自分の話をしたがっていますし、聞いてほしいと思っています。でも周りに自分の話を聞いてくれる人はほとんどいない。みんな自分の話をしたがる人ばかり……。

そういう中に「うん、うん」と聞いてくれる上司がいたら、部下としては「○○課長のお酒だったら、いつでもおつきあいしますよ」という気持ちになります。それどころか部下のほうから「今度はいつ飲みに行きますか」と誘ってきてくれるのです。

 

これは私と兄弟の話ですが、先日、私の2人の弟が奥さんを連れて東京にやってきたので、みんなで食事をすることになりました。

食事の間、私はずっと弟たちの話の聞き役。彼らはほんとうによく喋ります。

そして食事が終わった次の日に、弟から「昨日はいろいろな話ができて、すごく楽しかった」というメールが届きました。

私はほとんど喋っていません。彼らはたくさん喋って楽しかったようです。人は自分の話を聞いてくれるだけで、嬉しくなり、楽しくなるものなのです。

 

今度部下と飲むときには、ぜひ聞き役に徹してみてください。

部下のあなたに対する印象が大きく変わり、飲みに誘ったときに嫌がられることもなくなるはずです。

 

 


 

【著者】

佐々木常夫 ささき・つねお

 1944年、秋田市生まれ。1969年、東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男に続き、年子の次男、長女が誕生し、結婚して3年で3児の父になる。妻は、肝臓病がもとで入退院を繰り返すうち、うつ病を併発し、何度か自殺未遂をする。43回もの入退院をした妻も、現在は快癒。すべての育児・家事・看病をこなさなくてはならない過酷な日々の中でも、仕事への情熱は衰えず、大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建や様々な事業改革に全力で取り組み、2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所社長。経団連理事、政府の審議会委員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。

著書に『【新版】ビッグツリー』『部下を定時に帰す仕事術』『そうか、君は課長になったのか。』『働く君に贈る25の言葉』(以上、WEVE出版)、『[図解]人を動かすリーダーに大切な40の習慣』『「本物の営業マン」の話をしよう』(以上、PHP研究所)などがある。

 

【出典】

『会社で生きることを決めた君へ』

「ビジネスマンの勝負は50代。40代であきらめるのはまだ早い」――。長い会社員生活の五合目に立つあなたに贈る31の応援歌。

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