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残業削減と有給休暇取得への仕組み

2014年10月15日更新

残業削減と有給休暇取得への仕組み

「残業代ゼロ」を、いかにビジネスパーソンのライフプランに組み込んでいくか。
PHP新書『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる』は、雇用のカリスマ・海老原嗣生氏が「ホワイトカラーエグゼンプション」制度の本質を分かりやすく解説し、日本人としての新しい働き方を提案しています。
ここでは本書から、残業削減や有給休暇取得に関して参考になる欧米の仕組みを転載でご紹介します。
 

*  *  *

 
 

参考になる欧州の法律の安全管理基準

 
欧米主要国の安全衛生管理に関する規制状況をまとめてみると、欧州と米国の雇用に関する考え方の違いがよく分かる。
 
アメリカでは、安全衛生管理基準や労働の自律性に関する法制度は緩い。唯一、週40時間をこえる労働には5割の加算金を支給することが連邦法で定められており、それに違反した場合の罰則も現実的で厳しいものを規定している。
 
こうした、残業代を払うことを徹底する姿勢は、すでに書いた通り、市場で調達が容易な労働者の労働時間削減と、新規雇用創出に力点が置かれているといえるだろう。
 
対して、欧州は安全管理をどうするか、平たく言えば、「働き過ぎをどう制御するか」に重点が置かれているのが分かる。
 
こうした法律を並べて、仔細に比較していくと、法学的見地から、日本の労働法の問題点を指摘することは可能だ。
 
たとえば、日本の法律では、労働時間規制を破って長時間労働させた場合、使用者には懲役刑をも課されるという重い罰則規定がある。そのため、逆に抜かずの大剣となってしまっていること。そうした「使われない規定」がある一方、規定不足の点もあるため、裁判を起こすまでどのような裁定が下るかが分からないことなどが、課題として挙げられている。
 
ただ、ここではこうした法律論議はあえて行わない。それよりも、欧米が持っていて、日本にはない労働時間規制に関する仕組みをとらえることに主眼を置く。
 
まず、欧州法で参考になるのは、インターバル規制だ。これは、当日の労働と翌日の労働の間に、一定の休みをとらなければいけない、という趣旨だ。
 
そして、この仕組みを補完するために、代償的休日(代休)という仕組みが伴う。こちらは、インターバル規制を破ってしまった場合、その代償として別途休日を用意しなければならない、というものだ。ここでも法律論をするとなれば、代償的休日のとらせ方やその強制度合いなどで、各国に温度差はある。そこを細かくつつくことはやはりしない。
 
さらに、有給休暇の取得についても欧米と日本では違いがある。日本の場合は、原則として労働者に有休取得の時季を決める権利を持たせている。これ自体は高邁な精神であるが、逆に、それゆえ、周囲や上司に慮って、有休取得が進まないというパラドックスが生まれている。やはり、これも「抜かずの大剣」といえるだろう。
 
とすると、有休取得の時季指定の権利を、原則として企業側に持たせることの方が、取得向上に寄与するといえる。この考えで、欧米では有休、代休取得の時季指定権を企業側に持たせている国が多い。
 
 
 

フランスの「労働日数上限」は究極の時短手段

 
こうした仕組みを整えても、それでも、猛烈社員は仕事を続ける可能性がある。また、どの国の代休規定にも例外はつきものであり、有休の時季指定も、企業側の強制には限度がある。こうした基準違反を逐一指導改善することは不可能なため、それらを見越したうえで、絶対的に守るべき基準として、年間労働日数に上限を設けている国がある。参考となるのは、フランスのガードルのそれで、年間労働日数は217日を上限と定めている。
 
365日から217日を引いた、残りの148日が休みとなるが、これには、代休、有休、公休のすべてが充当できる。この仕組みがあるため、代休や有休の取得率が上がる。しかも、思い切り働きたい人は、この148日の多くを「代休」で充当し、一方、ワークライフバランス充実を望む人は、有休で充当する、という個人単位での使い分けもできるだろう。
 
こうした年間労働日数上限のような強制的な休業規定を設けることから始めて、次第に休むことは労働者にとって普通のことである、という意識が根付くことにより、本格的に「働きたい時に働き、休みたい時に休む」ようになっていく道筋が見えてくる。
 
ただし、歴史ある欧米の仕組みをそのまま取り入れても日本には根付きにくい。そこで、どのようにそれを取り入れるべきか、別章にてその手順を説明する。
 
実はここまでの展開は、過去の労働政策審議会にて討議されたことばかりなのだ。
 
なぜそれが結実しなかったのか。
 
私的には3つの理由があるのではないかと感じている。1つ目は、当時はバブル崩壊後の経済の停滞が長引く中で、労働規制緩和が進み、その反動が起きて混乱が膨らんだ時代であること。
 
2つ目は、社会的にはまだ、日本人が「本格的に休む」必要性がそれほどなかったこと。ご存じの通り、我が国の女性の社会進出は非常に遅かった。女子の4年制大学進学率が短大のそれを抜いたのが1996年。彼女らが大学を卒業する2000年前後から、ようやく4大卒総合職という形で女性の幹部候補人材が入社を始める。ということは、前回のエグゼンプション論議の時点では、まだ日本は男性主体の労働社会で、女性は家計補助労働の域を出ていなかった。この状態では、家事育児介護に関して、「誰がやるのか」を考える必要性も少なかったといえるだろう。だから、幹部候補社員があえて休む必要性が少なかったのだ。
 
同時に、第一次ベビーブーム世代も、60歳に届くか届かないかという時期であり、オーバー60歳が巨大化した現在とは人口構成も大きく異なる。つまり、高齢者という肉体的にハードな労働が難しい年代の人が、社会にそれほど多くなかったという事情が重なる。
 
現在とは異なり、社会に、長時間労働を改善するような意識が醸成されにくい時代だったのだ。
 
3つ目は、欧州型や米国型というできあいの代物の、機能だけを取り入れる側面が強かったこと。日本型の良い面をどう残し、それに欧米の良い点をどう接合するか、という新しい日本型作りが論点となっていなかったことが、いい案が結実しなかった根源だろう。
 
 
 
【著者紹介】
海老原嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト。経済産業研究所労働市場制度改革プロジェクトメンバー、広島県雇用推進アドバイザー、京都精華大学非常勤講師。1964年生まれ。リクルートグループで20年間以上、雇用の現場を見てきた経験から、雇用・労働の分野には驚くほど多くのウソが常識としてまかり通っていることを指摘し、本来扱うべき“本当の問題”とその解決策を提言し続けている「人事・雇用のカリスマ」。リクルートエージェント社のフェロー(客員社員)第1号としても活躍し、同社発行の人事・経営専門誌「HRmics」の編集長を務める。常識や通説、国定概念を疑うことを習慣とし、時間をかけて物事の本質に迫り、解を出すことを信条にしている。
 

 
いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる
PHP新書
~残業代ゼロとセットで考える本物の「エグゼンプション」
 
労働時間の規制を適用除外とする「エグゼンプション制度」。雇用の第一人者が「過労死促進法」といわれる制度の内実に迫る一冊。

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