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物足りない若手社員~「言われたことしかやらない」の構造を考えてみる

2017年8月10日更新

物足りない若手社員~「言われたことしかやらない」の構造を考えてみる

「若手社員は言われたことしかやらない」「物足りない」と嘆くベテラン社員。「間違っていたりしたら嫌なので、言われたこと以外はやりたくない」という若手社員。この構造を、アドラー心理学の立場から解説します。

物足りない若手社員

言われたことはきっちりやる。でも、それだけ。そういう若手社員が増えているといわれています。ベテランから見ると、非常に物足りない。でも、若手からしてみれば、何が悪いんだ、というところです。彼らにも彼らなりの思いがあるわけです。こんな質問がきました。

【質問】地方公務員、2年目です。地元の国立大学出身で、学生の頃の成績などはとくに悪くはなかったと思います。社会人になってから、上司に怒られることが多くてまいっています。上司は「言われたことだけをやっていてもダメだ」とか「空気を読め」とか「言わなくても、これくらいわかるだろう」とことあるごとに言うのですが、言われてもいないことを出しゃばってやったりして、それが間違っていたりしたら嫌なので、言われたこと以外はやりたくありません。空気を読めと言われても、何をどうしたらいいのかさっぱりわかりません。指示されたことに関しては、たぶん滞りなくやっていると思います。それじゃダメなんでしょうか?(24歳 ●●県職員)

わかる。言いたいことはわかりますよ。おそらくこのコラムを読んでくださる大半の方だって、「ああ、社会人になって最初の頃はこんな感じだったような気がする」と思ってくださることでしょう。入社していきなりアンテナを張り巡らして気を利かせまくれる人はめったにいません。そんな人がいたら、会社間で争奪戦が起こるでしょう。大多数はこの方のように「出しゃばって失敗したら嫌だな」と思っていると思われます。でも、おそらくそれが許されるのは、1年目、しかも半年くらいまでなのではないでしょうか。この方が経験値を得ていけばいくほど、周りからの期待値は高まるのです。

事例にみるコミュニケーション不全

よく出される例なのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、「モップの話」というのがあります。とある雨の日、スーパーの店舗で、雨漏りの箇所が発見されました。上司は若手に「ああ、A君モップ持ってきて!!」と指示をします。A君は「ハイ!」と元気な返事をし、モップを倉庫から持ってきました。徐々に大きくなりつつある雨漏りを目の前に、モップを手にしてただ突っ立っているA君。店長はキレます。「持ってきたんなら拭けよ!」A君は「え? 拭くんですか?」。

A君からすれば、店長からの指示は「モップを持ってこい」だけであり、「それで拭け」とは言われていません。店長からすれば、「モップを持ってこい」イコールそれで雨漏り箇所の掃除をして、バケツか何かで応急処置をして、雨が止んだら片づけをして、雨漏り箇所の点検をしておいてくれたらありがたい、くらいのことまで思っているのです。このギャップは、海より広いかもしれません。

若手社員の言い分「意味わかんない。言われてないし」

また、「エアコンスイッチの話」というのもありますね。上司や先輩が、エアコンのスイッチのそばに座っている若手に向かって、「なんだかこの部屋、暑くない?」という。若手は「そうですかね?」と答え、そのままパソコンに向かい続ける。これも、上司にとっては「なんだかこの部屋、暑くない?」イコール「あなたのそばにあるそのエアコンのスイッチを操作してくれ」なのです。でも、言われた側にしてみれば、そこまでくみ取ることはできないし、いわんや自分が暑いと思っていなければ、動くことすら考えられません。

このようなモップやらエアコンやらの話が重なって、上司は若手に対して「いちいち全部言わなきゃわからないのか!」と憤り、若手は若手で「意味わかんない。言われてないし」となるのです。

こうしたコミュニケーション不全による問題が起こるのは、「共同体感覚」と「共感」の二つが欠けていることも要因と考えられます。お互いに自分の主張にとらわれて相手に責任を転嫁していては決して解決しません。ずっとイライラしっぱなしになってしまいます。双方が歩み寄ることが必要です。

「共同体感覚」「共感」の欠如

これまでこの連載で何度も出ている「共同体感覚」は、共同体に対する所属感、安心感、信頼感、共感、貢献感を総称したもの。今、自分が所属している共同体に対して、自分はどんなことで貢献できるかな? と考えることこそが、共同体感覚を醸成していくことに一役買います。若手の立場であれば、「雨漏りしている自分の勤務先に対して、自分は何ができるだろうか」を建設的かつ積極的に考えれば、モップを持ってただ突っ立っている以上のことができるはずです。上司の立場であれば、「自分の共同体に所属する若手はまだ社会経験が少ない。この人が指示を理解し、それ以上のパフォーマンスを発揮するためにはどのような声がけをしていき、慣れるまでにどう対処するのが最適か」を考えれば、雑な指示はしないはずです。

また、「共感」は「相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じること」。これまで自分を中心とした狭い世界で生きてきた人には訓練が必要です。そして、訓練やちょっとした心がけ次第で必ずできるようになるものです。サービス業などでは「お客様が何を求めているのか」を徹底的に考え、そのように動くことのできる人が支持されますし、そのようなスタッフをそろえている企業がよい企業とされます。ですが、そうしたことを誰もが最初からできるわけではないということは、皆さんよくご承知のことでしょう。

若手の意識変革と、育てる側からの働きかけや導き

指示されたこと「だけ」をやっているのであれば、プログラミングされたロボットと変わりありません。作業ムラがない分ロボットに軍配が上がるでしょう。でも、私たちは生身の人間です。そして仕事には必ず相手役がいます。その人と共同体感覚を育む、その人に共感する。それによって、指示された「だけ」で終わらない仕事の広がりが生まれていきます。若手自身の意識や行動の変革が必要ですが、そのためには育てる側である上司や人材育成担当者からの根気強い働きかけや導きが欠かせないということも忘れないでいただきたいと思います。

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【著者プロフィール】

永藤かおる(ながとう・かおる)

(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。

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