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後輩たちからの評判がよくないベテラン女性社員~コーチングQ&A

後輩たちからの評判がよくないベテラン女性社員~コーチングQ&A

(2017年9月 7日更新)

 
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課長代理権限を付与したものの、自覚がなく、若手に対する応対もきつく、評判からよくないベテラン社員にどう対応するか、コーチングの考え方からアドバイスします。

 

*   *   *

 

下記に関し、どのようなコーチングが有効かご教示いただければ幸いです。

◎対象者:当営業所一課所属のベテラン一般職Sさん(42歳)

◎現状:当営業所の一課については、総合職は課長のみで、あとは一般職が4名の体制。現状は課長ともう1人の有能ベテラン一般職に仕事が集中し、毎日バタバタして、営業所全体に繁忙感・疲労感が漂っている状況。

Sさんは、資格上は上級職で、先日、課長代理権限を付与したものの、自分自身が課長代理として一課を引っ張っていかなければならないという自覚があまりなく、従来からの担当職務をマイペースでこなしているのみ。いわゆる「お局さん」タイプではないが、従来から仕事中は自分の業務以外に目が行かず、若手に対する応対もきつく、後輩からの評判が芳しくない状況。

◎課題:課長代理としての自覚を持たせるとともに、若手に対しての接し方をいかに改めさせるか。

(会田二郎・メーカー営業所長〈仮名〉)

 

*   *   *

 

Sさんが期待どおりの役割を果たしてくれない、営業所全体には「繁忙感・疲労感が漂っている」――会田さんのご苦労が偲ばれます。Sさんの人となりは上記の文面でおおよそ推察できますが、詳しいことはわかりません。しかし、同様のケースは何度か見聞きしていますので、おそらく共通するであろうと思われる要素を中心に、できるかぎり有効なアドバイスをさせていただきたいと思います。

 

相手にとって「ありがた迷惑」の可能性はないか

その前に、ご自身で現在の状況を整理し確認していただきたいと思います。まず、昇進昇格は当人のモチベーションアップや意識変革につながるのが普通なのですが、Sさんの場合は「課長代理権限」が付与されてもほとんど変化がないように見受けられます。もしそうだとすれば、それはなぜかということを一度考えてみてください。

私は貴社の「課長代理」という職制が実質的にどのような意味をもつのか知らないのですが、権限や社会的認知度や給料が大幅にアップするのならともかく、それらが微々たるものなのに責任だけが重くなるということであれば、相手にはあまり喜ばれない可能性があることも考えられます。

実際のところ、かえって「ありがた迷惑」のように受け取られるケースも多いようです(ことに給与面では、すでに相当のものを得ている場合、わずかなアップであればほとんど動機付けにならないことは、ハーツバークの「動機付け理論」で示されているとおりです)。Sさんの場合、このあたりはどうなのでしょうか。

 

ボタンのかけ違いはなかったか

次に、課長代理権限を付与したときに、課長代理とは何か、なぜSさんをそうするのか、Sさんに何を期待するのか、といったことはご本人にきちんと話されたことと思います。しかし、その説明や激励がSさんにとって十分であったかどうか、改めて振り返っていただけませんか。こちらはきちんと話をしたつもりでも、Sさんが十分に納得し了解したかどうかは別問題です。ひょっとしたら、ここに最初のボタンのかけ違いがあったのかもしれません。

 

スタッフ全員の認知は得られているか

それから、課長さんと「もう一人の有能ベテラン一般職」をはじめ、若手のみなさんから、Sさんが「課長代理」として正当に認知されているかどうかも気になります。表面的なことではなく、全員が本音で納得し認知しているかどうかです。

この認知が薄弱ですと、Sさんにもそれは感じられ、「どうせ私なんて」と、最初は盛り上がっていた意欲を減退させてしまう可能性があります。Sさんに課長代理権限を付与したときに、なぜSさんに、ということを、その必要性や合理的根拠を含めて、全員に説明し納得を得られたでしょうか。

それがきちんとなされて、納得されていたにもかかわらず、その後もし認知度が下がっているのであれば、その原因はSさん本人にあり、Sさんとのコーチングの重要テーマになるでしょう。

 

具体的なコーチングのステップ

以上の諸点をよく見直していただけば、ひょっとしたらこのテーマの解決への道筋ははっきり見えてくるかもしれません。しかしここでは私にはわかりませんので、一切の前提抜きにSさんへのコーチングのステップを考えてみましょう。

そもそもコーチングというものは、コーチが予め話の流れを予測しある方向にリードしようというスタンスで臨むべきものではありませんが、職場でのコーチングは、必ずしもコーチとしての立場に徹する必要はありません。何といっても会田さんはコーチである前に上司なのですから、コーチングスキルもきちんと活用できる上司、としてのスタンスで臨めばいいでしょう。

まず、課長代理権限を付与されてから三カ月とか六カ月とか、切りのよい時期を選んで面談の場を設けてください。その際、Sさんに、何か注意されるのではないか、お説教されるのではないか、という警戒感をもたれないよう配慮してください。その上で、以下のステップです。

 

(1)振り返り、反省

「課長代理になってもらってから〇カ月たったわけだけど、順調にいってますか? 何か困ったことや難しいことはありませんか?」といった切り出しで、苦労話でも愚痴でも、否定しないで、共感を示しながらじっくり聴いてあげることです。

さらに、「課長代理になってから、Sさん自身、何か変えたこと、あるいは変えようとしていることはある?」というように、日常の心がけや具体的な行動において、Sさんが変えたこと、変えようと努力していることは何か、それらがいい結果につながっているのかどうか、つながっていないとすればなぜだと思うか、また、先に聞いた現状の問題(愚痴や苦労話の内容)とこれらの努力とはどう関連しているのか、など、Sさんの考えを引き出し、整理させながら、じっくり聴きます。決して追及するような姿勢ではなく、一つ一つに共感を示しながら聴くこと、特に、事実よりもSさんの「気持ち」「考え」を聴こうとすることが大切です。

 

(2)役割認識の確認

Sさんは課長代理としての自覚が薄いようですから、先の会話ではあまり実質的な内容がない話になる可能性が大きいでしょうが、自覚や努力の不足を責めるような言い方をすると逆効果になりかねません。

そこで、「課長代理」という職務の役割をSさんはどう理解しているのか、何をするのが課長代理だと思っているのか、といったことをたずね、彼女の役割認識のレベルを確認してください。それがあいまいだったり低レベルだったりしても、すぐに修正して教えようとするのではなく、次のステップに移ります。

 

(3)期待の表明(役割認識の再構築)

Sさんが述べたことも課長代理の重要な役割であると認めた上で、「私としては、課長代理としてのSさんに、もう少し多くの期待をしているんだ。それはね……」といった形で、営業所長としての期待をはっきり伝えます。

ここで重要なのは、単なる業務付与ではなく、「営業所のビジョン実現の協力者としての役割」を期待していることを示すことです。業界の現状と将来、その中で当社の目指すもの、さらにその中で当営業所の果たすべき役割と現状、そしてこの営業所を最高の職場にしていきたいというビジョン、こうしたことをぜひ話してあげてください。

そうすることにより、自分の役割を「職制上の義務」としてだけではなく「上司の強い期待」として認識してもらい、「あなたならできる」「ベテランとして頼りにしている」「ぜひ力を貸してほしい」といったニュアンスの励ましを加えて、「所長の期待に応えたい!」というやる気を再喚起することがポイントです。この部分がこのコーチングの要です。

 

(4)今後の方向

以上の三ステップを経た上で、今後、Sさん自身が考え方や日常行動を具体的にどう変えていこうと思うか、聴いてあげてください。答えがすぐに出てこなければ、一、二日の冷却期間を置いて考えてもらってもいいでしょう。少なくとも、「ああしてほしい」「こうしてほしい」とこちらの希望を伝えることは極力控え、Sさん自身が自分でこうしたいという考えをまとめるのを待ってください。

その結果出てきた答えがあまり満足できるものでないとしても、最初から完璧な変身を要求するのではなく、現状より一歩前進であればそれを積極的に承認し、「それができたら次に取り組んでほしい課題もあるから、また話し合おう」という形で、まずできることから着手し実践させることが大切です。

 

以上、考えられるコーチングステップの骨格をまとめてみました。いうまでもなく、それぞれの段階でSさんがどのような反応を示すかでその後の展開は変わってきますが、基本的な流れはほぼ踏襲できるのではないかと思います。

いずれにしても大切なことは、「Sさんの気持ち・考えをすべて聴いてあげる」というスタンスを崩さないことです。Sさんには「課長代理」という役割が重荷なのかもしれませんが、営業所経営にかける会田さんの熱い思いとその中でのSさんへの期待が伝わりさえすれば、意気に感じて自己変革への精一杯の努力をしてくれるのではないでしょうか。

「人は自ら気づいて初めて自己変革できる」と言われます。Sさんを変革させるのではなく、自ら変革するのをサポートしてあげていただきたいと思います。

 

【POINT】相手が“自ら”変革するのをサポートするのがリーダーの役目だと心得よう

 


 

【Key Word】ストローク

相手の存在や言動、成果などを認めていることを、具体的な働きかけによって示すことです。

これによって、誰もがもっている「他の人から認められたい」という承認の欲求を充足し、次の肯定的な行動へのエネルギーを与えることができます。

「具体的な働きかけ」とは、承認や励ましの言葉、握手などのスキンシップなどによって、「あなたのことを気にかけているよ。認めているよ」という意味合いを示すことです。

批判したり評価したりせずに相手の話を傾聴する行為も、素晴らしいストロークです。

 

 

出典:『リーダーのためのコーチング実践Q&A』(2005年8月/PHP研究所)

 

コーチング研修ベーシックコース

 


 

【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。現在、(株)PHP研究所客員。


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