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話をすればするほど心を閉ざす委託社員~コーチングQ&A

話をすればするほど心を閉ざす委託社員~コーチングQ&A

(2017年9月15日更新)

 
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コーチングを実践して上手くいかなかった事例について、アドバイスをお願いします。

 

(1)相手

委託検針員Aさん、女性、45歳、経験年数4年(委託検針員は全員で26名・すべて女性)、1カ月の稼働日数は17日

(2)状況

・別の検針員より、Aさんは1日の検針稼働時間について、休憩時間を2時間程度設けて、意図的に延ばしているという話があった(以前から稼働時間は一番多い)

・稼働時間を延ばす目的は、会社に対して困難さをアピールし、受持区域を楽な場所に変更させること。1年ほど前に面談をしたときも、自分の受持区域は大変だと話していた

・2カ月ほど前からめまいがするとのことで、治療を続けている

(3)面談結果(1時間程度)

・体調の状況について話を聞きたいと、面談を行なった

・2年ほど前に大幅な受持区域の見直しを行なったときに、会社が意図的にAさんに検針困難地区を担当させたと思い込んでいる

・そういうことはないと時間をかけて説明したが聞く耳をもたず、過去の担当者への非難めいた発言のみであった

 

このように、話をすればするほど心を閉ざしてしまう人に対してのコーチング方法についてアドバイスをお願いします。(内田三郎・ガス会社営業所次長〈仮名〉)

 

*   *   *

 

内田さんは、Aさんのことでずいぶんご苦労されておられることと拝察いたします。検針員というお仕事の具体的な内容や、Aさんの人となりなど、詳細がわかりませんので、ややピントがずれるかもしれませんが、上記の文面から推察できる範囲で感じたことを記させていただきます。

 

マイナスのレッテルを貼ってはいないか?

まず、内田さんは、Aさんのことをどう思っておられますか?

「話をすればするほど心を閉ざす人」

「被害者意識が強く不平不満の多い人」

「素直に人の話を聞かない人」

「自分本位の考え方で策を弄する人」

といったマイナスのレッテルを無意識のうちに貼っているようなことはありませんか? 一言で言えば、「厄介な人」と思ってはいませんか? 

確かにそういう面がある人だろうということは、文面から察せられます。しかし、内田さんがAさんを「厄介な人」と思っていたら、その思いはAさんにも伝わるものです。その結果、Aさんがますます頑なになっていることは、十分考えられます。

内田さんがご自分の心の中を冷静に観察されて、もしそういうレッテルを貼っているなと思われたら、まずそのレッテルを全部はがしてみてください。そして、次に話をするときには白紙の状態で臨むようにしてください。難しいことですが、どうもここが一つの出発点になるような気がします。

 

これまでのコミュニケーションスタイルを振り返る

次に、内田さんとAさんのこれまでのコミュニケーションのスタイルを振り返ってみてください。Aさんの話を聴くよりも、内田さんが話をする、説明・説得する、というスタンスが強かったのではないでしょうか。

Aさんが自分の地区を大変だと思っているのはなぜなのか、大変な地区と楽な地区とはどう違うのか、Aさんの考える楽な地区とは具体的にどの地区なのか、さらには、Aさんは検針員という仕事の意義や価値をどう捉えているのか、Aさんがこの仕事をする目的は何か、そもそもAさんはどういう仕事や状態を望んでいるのか、Aさんの人生における中心的な価値は何なのか……。

このようなことを、評価や批判抜きでじっくりと聴いてみたことはおありでしょうか。

また、Aさんには、これまでの仕事経験の中で、今も解消できていない何らかのわだかまりやこだわりがあるように感じられるのですが、それらをお聞きになったことはありますか? これからどうするかを考えるには、まずしっかりと現状を「聴く」ことから始めなければなりません。

 

上司を「味方」と感じられないと部下は心を開かない

しかし、こちらが聞こうと思ってもAさんが話そうとしない、ということはあるかもしれません。とすれば、それは先に述べたように内田さんのAさんに対する否定的な気持ちを感じ取っているからである可能性が強いと考えられます。そのためにも、前述のレッテルはがしがまず必要になります。

要するに、上司を「味方」であると感じられないと、部下は心を開いてはくれないのです。すぐに「味方」と感じてもらうことは難しいかもしれませんが、「この上司は私をわかってくれている、少なくともわかろうとしてくれている」というところまでは比較的容易に行けるでしょう。

それにはまず、Aさんの「存在」そのものを承認してあげることです。Aさんが今ここにいることを私は知っていますよ、というメッセージを送ってあげてください。「おはようございます」「お疲れさま」といった日常の挨拶、「今日も元気そうだね」「暑いけどがんばってね」といった励ましの言葉、そんなものからでいいのです。Aさんが黙っていても、内田さんのほうから声をかけてください。

 

「あるがまま」を受け入れる

次に、Aさんの「あるがまま」を受け入れることです。それはAさんの考えや発言に賛同するとか了解するということではなく、否定せず、批判せず、評価せずに受け止めるということです。「そうか、Aさんはそう思っているのか」と、素直に感じ取ってあげることです。

そして、Aさんの日常を温かい関心をもって見守り、いい点、優れた点を見つけだしてください。そしてそれを承認のメッセージとして伝えてあげてください。

迂遠なようですが、こうした上司の姿から、部下は「この上司なら話しても大丈夫」と感じていくものです。

 

コーチングには確固とした人間観が必要

人は、決してこちらの思うように動くものではなく、自分が動きたいように動くものなのです。部下が上司の言うままに動いているとしたら、それは上司という権威に従って動いているに過ぎません。

内田さんがAさんに変わってほしいと思うなら、内田さんが変えるのではなく、Aさん自身が自ら変わろうと思わなければ変わらないのだということを知っておいていただきたいと思います。

コーチングはコミュニケーションのスキルですが、一般のビジネススキルとは違って、その根底にしっかりした人間観が必要だと私どもでは考えています。要するに、どの部下も無限の可能性をもった素晴らしい存在であり、条件と環境さえ整えば自ら進んで仕事をするものなのだという積極的・肯定的な見方をしっかりもつということです。

現実にはそれがぐらつくことも少なくないでしょうが、この人間観を自分の信念にまで高めておかなければ、コーチングは単に部下を操作する「コーチングもどき」になってしまうのだということをお伝えしておきたいと思います。

 

なお、Aさんは二カ月ほど前からめまいがするということで治療されているそうですが、ストレス過剰による神経性のものである可能性もあり、その場合は要注意です。

叱責、追及、詰問、否定、押しつけ……。このように感じられるような話し方は避け、穏やかに話を聴く、という姿勢が何よりも重要でしょう。

少し堅苦しい話になってしまいましたが、ご参考になれば幸いです。

 

【POINT】相手に対する“無意識”のマイナス思考は必ず伝わると心得よう

 


 

【Key Word】Iメッセージ・Youメッセージ

コーチは、よりよいメッセージを使って相手の意欲を高め、肯定的な行動へシフトさせることができます。

「Iメッセージ」とは、意味的に「私」を主語とするメッセージで、相手の言葉や態度・振る舞いなどに対して「私はどう思い、感じているのか」という主観的な意見あるいは感覚を伝えます。

したがって、相手には、自身の存在が他者に及ぼしている影響が感じ取れるという意味で、インパクトの強いメッセージになります。また、厳しい内容でも相手には比較的受け入れやすいというメリットがあります。

これに対して「Youメッセージ」は「あなた」を主語とするメッセージで、肯定的なストロークとして相手を支持したり、資源や価値観を指摘したり、次のステップを要求したりするときに効果的です。

 

出典:『リーダーのためのコーチング実践Q&A』(2005年8月/PHP研究所)

 

コーチング研修ベーシックコース

 


 

【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。現在、(株)PHP研究所客員。


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