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今ひとつ信頼しきれない「もてあまし気味」の部下~コーチングQ&A

今ひとつ信頼しきれない「もてあまし気味」の部下~コーチングQ&A

(2017年11月22日更新)

 
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業務繁忙のチームの中にいる、仕事を任せきれない部下。どのようにコーチングすれば、意識と行動を変えることができるでしょうか。

 

*   *   *

 

私の部下は7名おり、年齢構成は私より年上が3名、年下が4名です。

業務内容は、各人が個別の仕事(担当業務)を実施しているため、チーム全体としての接点が薄く、まとまりを欠くところはありますが、そのうち6名はほぼ自己完結できる能力があり、また協調性を持っているため、特に問題はありません。残る1名について、どうコーチングすればよいかご教示をお願いします。

 

当該部下の個人情報ならびに指導の経緯

・年齢は私より年上で、チーム内では3番目である。

・性格が優しいところがあり、決断力に欠ける。迷ったときに自分で判断できない。自信がない。自分で判断したことの確認がほしいため以前の担当者へ相談するので、以前の担当者は負担がなかなか減らない。

・業務を抱え込んでは1人で悩み、最終的にお客様に迷惑をかけていたこともあり、また、当チームが業務繁忙でもあるため、4カ月前から職場内での臨時異動により自分の部下となった。

・過去に軽いメンタルにかかったこともあり、また、それにより薬を服用していたこともあり、当初は負担のかかる業務を避け、徐々に業務を増やすようした。

・自ら仕事の報告をしないため、こちらから仕事の状況や確認を定期的に行っている。

・確認すると、余分な作業(自己満足)が多く成果が上がっていないため、厳しく叱責したら、黙り込んでしまった。あとは、何を言っても生返事ばかりであり、その場は、仕事の優先順位から考えた業務指示をして終わった。それからは、対応に気をつけ、相手の意志を確認しながら行っている。

・こちらからの指示に対して返事は良く、与えられた簡単な業務はこなしている。しかし、本来やるべき業務については、過去のやり方にこだわったり、手間がかかるとの理由で逃げているところがあり、成果が上がっていない。時間内でやる仕事量しか与えていないのに時間外勤務が多く、のんびりとマイペースである。

・そこで、自分の納得のいくやり方で進めるよう、そして少しずつでも成果を報告するよう、今は指導している。

・チーム内では居心地が良く、メンタル面や体調面では今のところ大丈夫である。

・メンバーに恵まれた環境の中で業務を行っているが、それを理解しておらず、周りの人間の方が気を使っており心配である。

・今後、当チームは、女性の部下が産休に入る予定であり、また、業務効率化による人員の減少、転勤による人の入れ替えなど課題が多くあり、今以上に厳しい業務形態となることが目に見えているため、早く一人前の戦力となるよう適切なコーチングを教えていただきたい。

・その他として、業務量を増やすタイミング、他の部下への配慮なども併せてお願いします。

(角田一郎・電力会社営業所次長〈仮名〉)

 

*   *   *

 

角田さんが対応に苦心しておられる部下の方をAさんとしておきましょう。詳しく書いていただいていますので、Aさんの人となりや仕事ぶりについては、かなりはっきりしたイメージを描くことができます。それだけに、角田さんのご苦労が偲ばれます。

この問題は、ちょっとアドバイスすればすぐに解決するというような簡単なものではなく、できれば時間をかけてAさんをコーチングして差し上げたいところですが、とりあえず重要と思われる点に絞ってアドバイスさせていただきましょう。

まず、Aさんに対する角田さん自身の見方です。この文面にはっきりと書かれているわけではありませんが、角田さんはAさんのことを「スキル面でも、精神面でも、弱いところがあるので、信頼し切れない、厄介な部下」というような見方をされているように感じ取れます。要は「もてあましている」ということです。

実際はいかがでしょうか。もしこういう見方をしておられると、それはAさんにも自然に伝わります。それはAさんの自信やチャレンジ意欲をますます弱めこそすれ、決して強めることはありません。

これまでは、あるいは今はできなくとも、必ずできるようになる、という肯定的な見方に切り替え、そのために自分が徹底的にサポートする、という前向きの意志を固めていただくこと。難しいことですが、まずはこれが出発点になるような気がします。

 

承認の三段階

次に、Aさんの問題点を一言で集約するなら、「自信のなさ」だと思われます。仕事についてはもちろん、人間関係、独立した社会人としての生き方、すべてにわたっておどおどと取り組んでいるような印象を受けます。こういう「自信のない人」に対しては、叱責や詰問は逆効果になる場合が多いので、状況や理由をじっくり聴いてあげるというスタンスが必要です。そして、いちばん有効なのは、コーチングで言うところの「承認」です。これには、ご存知だと思いますが、三段階あります。

 

(1)存在承認

Aさんが今ここにいることを私はちゃんと知っていますよ、Aさんがこのチームにいてくれることをありがたいと思っていますよ、ということを示す、日常の声かけです。

「おはよう」「お疲れさま」といった挨拶、「暑いから気をつけて」といった簡単な声かけ。Aさんが黙っていても角田さんのほうから声をかける。それもできるだけ「Aさん」という固有名詞を含んで。どうです? 日ごろから十分にやっておられますか?

 

(2)結果承認

仕事の結果・成果に対する承認のメッセージです。どんな小さな成果でも、見逃さずに、「ほう、なかなかいいですね」「すごいじゃないですか!」といった声をかけてください。小さな成功体験の積み重ねが、大きな自信につながっていきます。

 

(3)事実承認

結果承認は少しでもいい成果が出なければできませんが、事実承認は成果には関係なく、結果に至るプロセスや、日ごろの習慣、言動などの「いいところ」を認めて、声に出して伝えてあげることです。

これは、Aさんのことを日ごろから温かい関心をもってよく見ていないとできません。例えば、Aさんの決断力に欠けるところは、「いいところを見よう」とすれば「優しさ」の表れと見えてくるでしょう。そういうプラスの見方をしてください。Aさんとしては、「上司はここまで見てくれているのか」とすごく嬉しく感じ、もっとがんばろうという気持ちが湧き上がってくることでしょう。

 

「やりたいこと」に対する働きかけをどうするか

ところで、どんな部下にも、必ず「やりたいこと・やるべきこと・やれること」の三つがあります。この三つの重なる部分をできるだけ大きくしてあげるのは上司の重要な務めの一つです。

角田さんは、Aさんの「やるべきこと」は、いろいろ気を使いながらもきちんと伝えておられるようですね。しかし、単なる業務付与や業務指示としてだけではなく、Aさんには近い将来こういうこともやってほしい、やれるようになってほしい、という「期待」も伝えることが大切です。それはこのチームのため、会社のためだけではなく、何よりAさん自身のためである、という前提がもちろん必要です。

一方、Aさんの「やりたいこと」、すなわち、Aさんはこの会社でどんな仕事をやりたいのか、仕事を通じてどんな存在になっていきたいのか、といった希望やビジョンをじっくりと聴いてみたことはおありですか? Aさんもすぐには答えられないかもしれませんが、じっくりと聴いてあげることで次第に明確になっていくものです。角田さんの「期待」が伝わり、それがAさんの「やりたいこと」の中に入ってくるのが望ましい姿です。

また、「やれること」はいわゆる能力ですが、これは角田さんもかなりはっきりと把握しておられるでしょう。しかも「不足している」という認識で。この認識をAさん自身にも「気づき」という形で持たせなければなりません。自分の役割と将来への期待を理解し、今の業務に関してはどんな能力が不足しているのか、将来への「期待」に応えるためにはどんな能力を身につけなければならないのか、それを角田さんが教えるのではなく、Aさん自身が考え、答えを出すように問いかけていく、まさにGROWモデルのゴールを明らかにする会話です。

 

なぜ報告をしないのか考える

ところで、以上に述べたようなコミュニケーションが成り立つためには、それなりの「関係」が必要です。一般的に言って、自分のことを「信頼できない、厄介な部下」という目で見ている上司に対して、部下が自ら積極的にコミュニケーションをとろうとすることは、まずありません。ですから、こういう関係においては、コミュニケーションの量も質も、どんどん貧困になっていきます。角田さんは、「自ら仕事の報告をしない」と書いておられますが、もしかしたらそれはこういうことの一面ではないでしょうか。

それを打破してコミュニケーションの質と量を高めていくのは、上司の責任なのです。Aさんに対する見方を変え、自ら積極的にコミュニケーションをとっていく、そこからAさんとの「関係」は徐々にしかし確実に変わっていくでしょう。時間はかかると思いますが、人材の促成栽培はできません。

PHPの創設者である松下幸之助も「人を育てるというのは根気やで。繰り返しやで」と言っておりました。まして、ある程度の年齢になっているAさんが意識と行動を変えるのには時間が必要と思い定めて、根気よく取り組んでいただければと思います。

 

リーダーとしてのビジョンを持つ

なお、もう一つ二つ付言しておきます。

リーダーは業務の進捗管理をして所期の成果をあげるだけではなく、自らの預かる組織をベストの組織にするという役割も担っています。自分のチームをどんなチームにしたいのか、それがいわゆるビジョンです。

「ビジョンを語れる人こそが真のリーダーであり、ビジョンなきリーダーには部下はついていかない」とも言われます。角田さんも、ぜひご自分のビジョンを鮮明に打ち出してください。その実現に誰よりも熱い情熱を注いでください。そこに部下の共感と賛同が得られなければ本当の意味でのチーム運営はできません。逆に言えば、それさえできれば、あまり細かいことに気を使わなくてもチームは円滑に進んでいくものです。

それから、上司には「部下の成長を心底から願う」という姿勢が必要です。それは詰まるところ部下自身のためにそう願うのであって、上司としての責任役割を果たすために部下を成長させなければというのとは根本的に違います。この違いは部下にもわかるものです。そして、上司のこの姿勢が伝われば、厳しい叱責さえも前向きに受け止め、自己成長への努力を惜しまないという姿が生まれてくるでしょう。

 

【POINT】ビジョンなきリーダーには部下はついてこない

 

課長研修

 


 

【著者プロフィール】

星雄一(ほし・ゆういち)

1969年、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社後、(株)PHP研究所に出向。月刊「PHP」編集部、出版部、直販普及本部などを経て、1997年、同社取締役。2008年、専務取締役。2009年、任期満了により退任。営業・編集・出版・子会社設立運営・人材育成と多方面の経験を活かして、PHPゼミナールの企画運営や研修講師育成にあたる一方、経営幹部のマネジメント、リーダーシップ全般の研修も担当。また、「PHPコーチング」プログラムを企画開発し、自らもコーチング講師として講演・講師活動を行なう。現在、(株)PHP研究所客員。


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