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先輩から後輩に伝えること、伝わること~【対談】田口佳史・田村潤

先輩から後輩に伝えること、伝わること~【対談】田口佳史・田村潤

(2018年12月20日更新)

 
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戦後の経済成長を支えてきた日本企業の良き伝統の一つに「人を育てる職場風土」があったのは間違いない。仕事帰りの飲み屋で聞く「熱い気持ちの先輩」の話に感化を受け、憧れをもって後輩が育っていく。キリンビール高知支店の「奇跡のV字回復」を指揮し、その後、営業本部長としてキリンビールのシェアの首位奪還を実現した田村潤氏もその一人だという。

今回は、「PHP松下幸之助経営塾」の特別講師として登壇された田村潤氏と田口佳史氏(東洋思想研究家)の対談から、いまの企業教育に欠けているものについてお話しいただいた。

 

※本稿はPHP新書『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(田口佳史/田村潤 著)を一部抜粋編集したものです。

 

「縦の軸」と「横の軸」の無限の広がりを意識する

田村 キリンビールの社員のなかにも、私から見て「すごいな」と思える人間がいました。そういう人たちに、「なぜ、そんなに頑張れたのですか」と聞くと、かなりの人が、「入社したときに先輩に教えられた」というのです。先輩が後輩を指導することは、やはり大事だと思いました。いまは、どの会社でも、だいぶそれが失われている気がします。

 

田口 先輩自身が、仕事を他人事だと思っているのではないでしょうか。当事者意識を持っていない。当事者意識を持った人の発言と、他人事の人の発言はインパクトが違います。

当事者意識を持った人の言葉は、「俺の家族の問題だ」といわんばかりに会社の問題を語るから、心を揺さぶられる。そうすると「感化」という作用が起こってくる。その人にあこがれて、「あの人みたいになりたい」と思って、そのマネをする。そういう方向に行くのです。

いまの教育に欠けているのは、「当事者意識を持った人」と「感化」です。

 

田村 私自身、駆け出しのころにキリンビール岡山工場で働きましたが、飲みながら先輩から「岡山工場はこうあるべきだ」という話をしょっちゅう聞きました。これが自分にとって、貴重な経験となりました。先輩の本音はこうなのか、こういうことを考えながら岡山工場がつくられたのか、とわかってきて、自分のなかに「縦の軸」というのができてきた。この「縦の軸」が、その後も非常に大事だったのです。自分が何者なのかということを考える素材が、このなかから出てきた。

 

田口 「縦の軸」というのは興味深い発想ですね。仏教の『華厳経』というお経では、「重重無尽」という思想が説かれます。すべてのものは、互いに尽きることがないほどの「関係」の重なりあいでできている、という意味です。個々の人間が人生で結ぶ「縁」も、尽きることがないほどの無限の重なりあいでできているのです。

たとえば、一人の人間に、親は何人いるかといえば、父親と母親の二人です。少なくとも、生を享うけるにあたっては、どちらか一人が欠けても、生まれてくることはできなかったはずです。では祖父母が何人いるかといえば、父母二人を二倍して四人。曾祖父母の人数は、祖父母四人の二倍で八人です。このようにして三〇代さかのぼると、何人いると思いますか。なんと一〇億人を超えるのです。あなたから三〇代さかのぼると、あなたに関係する人が一〇億人を超えるという計算になります。このように過去の重なりあいがあるということは、同様に、未来に対しても重なりあいがあるということです。

 

田村 なるほど、「重重無尽」の感覚を持っているか持っていないかで、全然違うのでしょうね。会社生活でも、先輩たちとの関係の重なりあいのなかで、いまの自分がある。そして先輩には、さらにその先輩との重なりがある。まさに垂直、「縦の軸」です。少なくとも、先輩たちの誰かが会社をつぶすようなことをしてしまっていたとしたら、私がいま、この会社で働いていることはなかった。むしろ、先輩たちが会社を発展させるべく、努力を重ねてきた結果として、私の会社員生活はあるのです。

また、「横の軸」の広がりもそうですね。私の仕事は、私一人ではできない。社内ではみんながお互いにサポートしあっているのはもちろん、社外のお客様との関係で自分は働くことができている。さらにいえば、原材料の確保から、製造、運搬など、本当に国内外の無数の方々の仕事の連鎖と積み重ねで、私の仕事は成り立っている。さらに世界へ広がっていくのが「横の軸」です。そういう意識は、まさに「重重無尽」ですね。

 

「熱い気持ち」の先輩の影響力が大きい

田口 田村さんが会社生活のなかで、「縦の軸」を強烈に意識するようになったのは、どのようなきっかけだったのですか。

 

田村 私も入社した当時は、それまで学生でしたから、働くということがよくわかりませんでした。学生のときは、自由平等の戦後教育で育ってきたのに、工場の現場は、学歴で差があって、収入も違った。それがちょっとピンとこなかった。

それで入社して一年たったころ、上司の課長に、「どうも、ちょっと違和感があって、自分は会社を辞めたいと思うのですが」と、おでん屋のカウンターで飲みながら相談しました。すると尊敬する課長が笑いながら、「俺は、キリンビールに入って、四年間、毎日辞めようと思っていたのだけれども、五年目からおもしろくなった。だから、お前も、もうちょっといたほうがいいよ」といってくれた。尊敬できる人にそういわれると、「そうかな」と思えてくる。すると二年目のあるきっかけから、会社に行くのが楽しくなってきました。

また岡山工場の現場の工員さんには、私が生涯尊敬する方がいました。あれだけの情熱でビールづくりに打ち込んでいる姿を間近で見ていた経験が、とても大きな財産になっていたように思います。

いまの日本企業は、先輩が後輩を育てる文化が薄れてきてしまっています。アメリカの成果主義などがそのまま導入されたりして、先輩も自分の身を守るのに精一杯で、部下の教育まで手が回らない。一生懸命に部下を教育しても、自分の考課に跳ね返ってこない。逆に、そういう先輩の姿を見て、将来への不安を覚えて退職する若者も多いという話を聞きます。

部下が何人成長したかは、数値化できません。数値化できないものは評価しないのが、最近のマネジメントの主流です。人間を「コスト」としてのみ考えるような企業も多くなっています。

 

田口 田村さんや私などの世代では、まだプラスのサイクルが回っていたのです。先輩と飲めば、先輩は仕事のことしか話さなかった。当事者意識の権化みたいな人ばかりで、先輩たちが模範を示す。新入社員は、「こんなに仕事のことに情熱を持って生きている人がいるんだ」と感じる。その感動が焼き付けられるわけです。

 

田村 そうですよね。三、四十年前の飲み屋では、多くのサラリーマンが仕事の話を夢中でしていた。あまり他の話なんかしなかった。みんな、そんな感じでしたね。

 

田口 まさに一つの教育の場になっていたのです。教育には、学んで習う「学習」と、「感化」というものがありますが、「感化」の力は非常に強いのです。

 

田村 いまは昔ほど部下と上司で飲みに行かなくなっていますね。飲みに誘うとハラスメ

ントの問題が起きるかもしれないので、職場の飲み会を禁止している会社もあります。ですから、肝心なことが先輩から後輩へなかなか伝えられなくなっている。縦の軸が弱くなってしまっている。これはものすごく危険です。浮草稼業のようになってしまいます。

 

出典:PHP新書『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(田口佳史/田村潤 著)

 

出典:PHP新書『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(田口佳史/田村潤 著)


 

人生に奇跡を起こす営業のやり方

PHP新書『人生に奇跡を起こす営業のやり方』

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著者:田口佳史/田村潤

 


 

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