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未曽有の危機に揺れる今こそ見直したい「日本的経営」の強み

未曽有の危機に揺れる今こそ見直したい「日本的経営」の強み

(2020年3月31日更新)

 
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新型コロナウイルス感染拡大で未曽有の危機に揺れる今、あらためて日本的経営の特長と、それを支える人材育成のあり方について考えてみたいと思います。

 

日本的経営の特長とは?

ここ数年、グローバル化の名のもとに日本の産業界においても欧米的な経営手法が盛んに導入されてきましたが、必ずしもその成果が上がっているとはいいがたく、むしろその弊害が現場に生じているのが実態のようです。

やはり、日本には日本固有の伝統や国民性を考慮した経営の進め方があるのであって、それを理解することなく外国のビジネスモデルをそのまま導入することは、いささか難があるといえましょう。

私たち日本人は、お互いが助けあい支え合う伝統・文化の中で生きてきた民族であり、社会の役に立つことが事業活動の最大の目的であると感覚的に理解している人がまだたくさんいるのです。それこそが、日本人の特長であり、日本企業が潜在的に秘めている強さではないでしょうか。先見性のある一部の識者(野中郁次郎、H・ミンツバーグ、M・ポーター、など)は、日本的な発想にもとづく経営スタイルの重要性をもっと積極的に世界に発信していくべきだと指摘しています。

 

企業は「公器」という考え方

そもそも日本的経営というものは、どういう考え方のもとに展開されてきたのでしょうか。日本的経営の実践者の代表格ともいえる松下幸之助は、以下のようなことばを遺しています。

 

「いかなる企業であっても、その仕事を社会が必要とするからなりたっているわけです。企業が、その時どきの社会の必要を満たすとともに、将来を考え、文化の進歩を促進するものを開発、供給していく、いいかえれば、その活動が人びとの役に立ち、それが社会生活を維持し潤いを持たせ、文化を発展させるものであって、はじめて企業は存在できるのです」 (『企業の社会的責任とは何か?』PHP研究所)

 

企業は、形のうえでは私企業であったとしても、経営資源を社会から預かって事業を行う「公器(こうき)」である以上、公のために仕事をしなければいけないという発想が日本的経営の根底にあるのです。

 

日本的経営を支える人材育成のあり方

日本的経営が「公の精神」を活動の拠りどころにしているならば、その精神を理解し実践できる人材がいてはじめて、そうした経営スタイルが機能するはずです。ではどうすれば、公の精神をもった人材が輩出されるのでしょうか。

金融資本主義が機能していた時代の人材育成は、MBAに代表されるような知識付与型、テクニック伝授型の教育が効果的でした。まさしく、マネジメントはサイエンスであるとの発想から、原理原則を学ぶ、一律・普遍的な教育が実施されてきました。

しかし、経営に対する考え方が抜本的に変革を迫られている今、人材育成のあり方も発想を大きく変える必要があります。人材育成に関して、再び松下幸之助のことばを引用します。

 

「明治初年の経営者というものは、物に支配されておらなかった。物を支配していた人びとが多かったのです。つまり、魂の教育を受けておった(中略)形式的な教育はいけない、本当の教育、人間の心を高める教育、物に支配されないところの教育、魂を練る教育をやらなくちゃならぬ」(昭和23年1月24日 大阪府立産業能率研究所での講演より)

 

松下幸之助は、知識教育・スキル教育を否定していたわけではありませんが、人間の魂を磨く人間教育がそれらの土台になければ、物に支配される人間をつくってしまうと訴えていたのです。

人材育成は生身の人間を対象にしている以上、サイエンスというよりもむしろアートに近いものです。翻って現代社会を見たとき、いかがでしょうか。教育の主軸が、サイエンスとしての知識教育・テクニック教育に偏り、アートとしての人間教育が重視されてこなかったが故に、「物に支配される人間」が増えてしまったのではないでしょうか。今まさしく、公の精神を育むアートとしての人間教育が必要とされていると言えるでしょう。

 

「人間教育」の3つの取り組み

しかしながら、人間教育という概念は抽象的で捉えにくいものです。いかにして企業の中で具体的に展開していけばよいのか、以下、上司の取り組み、本人の取り組み、会社の取り組みといった3つの観点から、そのポイントを述べたいと思います。

 

(1)問いかけと内省――上司の取り組み

人の意識を変えるうえで大切なのは、過去に形成され固定化された準拠枠(思考・行動のパターンを生み出す習慣的な枠組み)を変容させることです。そのためには、「何のために」「何をすべきか」といったような問いかけに向きあい、自己との対話(内省)を繰り返して、これまでの狭い枠組みから抜け出す営みが大切になってきます。そういう意味では、部下に問いかけ、内省を促し、フィードバックを与えるなど、上司が果たすべき人材育成上の役割と責任は非常に大きいといえます。

 

(2)先人の知恵に学ぶ――本人の取り組み

「歴史は繰り返す」といわれますが、その前提に立つならば、戦後の焼け野原から立ち上がり、かつてのわが国の高度成長を牽引した名経営者の思想・哲学を学ぶことは先行き不透明な時代のマネジメントに多くの示唆を与えてくれるはずです。

もちろん、自社の歴史に学び、創業者やそれを継承してきたリーダーたちの足跡を辿ることは、会社のDNAを理解するうえで、貴重な気づきと発見を得られます。さらに、先人の知恵の結晶である哲学・宗教・歴史・芸術など、いわゆる教養を学ぶことは、思考力、判断力を鍛える上で非常に効果があります。

 

(3)異質との遭遇――会社の取り組み

前述の準拠枠を変容させるうえで、異質な考え方にふれることは大切です。経営コンサルタントの堀紘一氏は、異質なものとの出会いの中で得られる刺激なりインスピレーションが人間の創造性をかきたてると述べ、そのことを「異質遭遇の法則」と呼んで、その必要性を主張しています。しかしながら、日本人は同質性を好む傾向が強く、異質との出会いにためらいを感じる人が多いのが特徴です。

今後、より一層グローバル化が進展する中で、異質なものとの出会いをうまくマネジメントできる能力は企業人にとって必須のスキルでしょう。そういう意味で、異業種交流型の学習機会を提供するなど、社員の異質遭遇機会を増やすことは重要な人材育成施策といえます。

 

「公の精神」をもった人材を輩出するには?

現在のグローバルスタンダードの考え方では、効率優先、非人間的でドライな人材マネジメントが支配的になっています。しかし、人間のすべてを科学的な手法でマネジメントすることは不可能です。人間には心があり、その心の動きによって、考え方や行動、成果が変ってくる。その心を高め、人間本来の善性を引き出し、もって生まれた可能性を最大限に開花させるために必要なものは、「意味」なのです。

「何のためにこの仕事をするのか?」

「何のために生きるのか?」

こうした意味を考えるところから、魂が覚醒し、世のため、人のために尽くすという、「公の精神」をもった人材が輩出されます。それこそが、日本人本来の強みを最大限に引き出す人材育成であり、日本企業がグローバルな舞台で再び輝きを取り戻すための最重要課題といえるでしょう。

未曽有の危機に揺れる世界にあって、今私たちに問われているのは、一人ひとりの生き方ではないでしょうか。

 


 

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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