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若手社員の定着率を上げる取り組み~中小企業の事例から考える

2020年10月 7日更新

若手社員の定着率を上げる取り組み~中小企業の事例から考える

若手社員の早期退職が問題になっています。特に中小企業の場合、彼らの指導・育成を上司にだけに任せておくのでは不十分です。定着率がなかなか上がらないときは、上司・管理職の部下育成力を上げることに加え、組織として育成していく態勢を整える必要があります。

人材育成は互いによく知ることから~朝礼・社内講演会の取り組み事例

私が半年ほど前に取材したアミューズメント会社(正社員約400人)では、毎朝10分ほどの朝礼をしています。全社員が参加しますが、3~5の部署から20~40人の社員が集まり、今日1日の注意事項などを共有します。この朝礼では社員が日替わりで「3分トーク」をします。3分間で日々の仕事や私生活について語るのです。中途採用者が全社員の約6割を占めることもあって、互いの前職も含め、よく知り合う仕組みとして、「3分トーク」を始めたそうです。
この会社は、「私のターニング・ポイント」という名の講演会を毎月1度、社内の大会議室で開いています。社長や役員、管理職が1人選ばれ、社員の前で自分の人生を30分ほどで振り返るのです。内容は現在の仕事や過去に勤務した会社、あるいは私生活など幅広い分野に及びます。人生の中で分岐点になったと思えることを挙げて、それが現在の自分にどのような影響を与えているのかを語るのです。その後、若手社員からの質疑応答の時間が15分ほど設けられています。この場で話し合われた内容は、写真などをまじえて、社内のイントラネットに掲載されます。
ここで大切なことは、「3分トーク」「私のターニング・ポイント」といった取り組みと人材育成を、何らかの形で関係づけることです。このリンクができていないと、取り組み自体が大きな効果をもたらさなくなります。

人材育成を人事評価に結びつける仕組み

このアミューズメント会社は、「360度評価」をしています。年2回(9月、3月)の人事評価は、直属上司が1次考課者になり、2次考課者が部長や役員、3次考課者が人事部となります。このラインの評価とは別に、他部署の管理職や担当役員など2~3人がその社員を評価します。ライン外の評価が、評価全体に占めるウェートは高くはありませんが、この取り組みによって、会社全体で社員の成長に関わっていくという文化がつくられているようです。
大切なことは、まず、互いに知ることができる仕組みをつくること。それらが社員の意識に浸透するのは1~3年はかかるかもしれませんが、その状況を見つつ、人事評価に結びつけること。これらは相関関係がありますから、うまくいけば互いに相乗効果を発揮するようになります。アプロ―チはさまざまですが、小さな会社では、この事例にみられるように会社全体で社員を育成する仕組みを構築するべきではないでしょうか。

社員の意識調査を定期的に実施している事例

会社全体で人を育てる仕組みができたら、次に取り組みたいのは、現状を把握し、問題点、課題を見つけ出し、改善していくことです。つまり、PDCAサイクル「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→ Action(改善)」を回すのです。
私が2014年に取材した不動産販売会社(250人)では、2か月に1度、全社員を対象に意識調査を実施していました。毎回ほぼ同じ設問で、上司との人間関係や日々の仕事、健康面など計50問をアンケート形式で聞いています。同じような問いにするのは、社員の意識の変化を確認するためです。人事部で集計の後、結果のダイジェスト版を社内のイントラネットに載せます。
設問の中には、仕事や上司への満足度を尋ねるものもありますが、その結果を全社員が見ることができるようになっているのです。大切なことは、上司と部下の間に社内からさまざまな注意が届くようにすることです。これは、上司と部下の間に複数のコミュニケーション・ルートを構築すると言い換えてもよいでしょう。
この会社では毎朝、社長以下6人の役員が会議をしますが、そこで意識調査の結果や問題点、課題なども話し合われます。仕事や上司への満足度が低くなっている社員が見つかれば、上司や人事部を通じて本人に話をきいています。そして、改善される方向に進めているのです。

委員会活動で会社に愛着を!

以前、取材をした人事コンサルティング会社(正社員60人)では、委員会制度を設けていました。社員は営業部や管理部、ソリューション部などに所属して仕事をしますが、それとは別に、各自が希望する委員会に入るのです。委員会には「環境美化委員会」「IT推進委員会」「社員交流促進委員会」「営業推進委員会」「業務改善委員会」などがありました。 
それぞれに10~15人の社員が所属し、1年間の活動内容を自分たちで決めて実行します。活動終了時点で、各委員会が全社員の前で活動内容について発表します。この委員会は、通常、1年ごとにメンバーを変えます。役員会の判断で継続する委員会もあれば、廃止にすることもあります。
この委員会制度の大きな狙いは、年齢、入社年次、性別、所属部署が違う社員と1年間にわたり、接点を持つことで、各自の意識を高めることです。特に20代はこの機会を通じて、それぞれの部署や仕事、ほかの社員のことを知っていきます。これが刺激となり、会社に愛着を持つことを期待しているのだそうです。
私が取材で感じたのは、離職率が高い中小企業には、社員が1つのチームとなって動く機会が少ないということです。同じ部署に所属していても、各々がバラバラに行動し、独自の進め方・やり方で仕事をします。ムリやムダが多く、大きな成果は上がらず、達成感や充実感を感じる機会が乏しいのです。
そこで、先にご紹介した人事コンサルティング会社は、その突破口として、互いに支え合い、助け合う風土をつくるために、部門横断型の委員会を活用していました。

ITを使って若手営業職の契約率を上げる!

中小企業は、上司(管理職)の部下への指導力が全般的に低いのも問題です。特に20代の社員が上司に大きな不満を持ってしまうと、退職をしたいという思いはなかなか消えません。しかし、上司の部下育成力をすぐに向上させるのは容易なことではありません。
そこで取り組むべきは、20代の社員を育成する仕組みを、会社全体としてつくることです。一例を挙げましょう。2011年に取材をした専門商社(社員数300人)では、2002年からITを駆使し、営業部の態勢を大胆に変えました。
まず、データ管理部で法人を中心とした顧客情報のデータを作成しました。過去20年に営業部に在籍した人などに聞き取りをして得た情報をもとに集計、分析したものです。一方で、120人程の営業部員のデータを記録しました。入社年次、営業部の在籍年数、部員としてのキャリア、実績、得意な営業エリア、過去の成果などです。過去3年の1日の平均訪問件数、回数、成果などの詳細なデータも加えました。
そのうえで、特に経験の浅い20代の社員を中心に、ある仕組みを作りました。その仕組みとは、まず、営業本部長や部長、副部長が顧客データと部員のデータを参照し、各部員が契約をスムーズに成立できると思える顧客を見つけることから始まります。次に、部長が各部員にこのような指示をしました。「契約をとりやすい会社を営業本部長などが選んだから、そこに行ってみないか?」。
それ以前は、部下への指示は「契約がとれるまで、がんばれ!」でした。しかも直属上司は、部下に教えることをあまりしていなかったようです。20代の社員は次第にあきらめ、退職することが多かったのです。
「契約をとりやすい会社を選んだ」ことで20代の部員の成約率は上がり、達成感を感じ取るようになったそうです。この会社は現在もデータを駆使し、20代の部員を苦手な会社やエリア、成果の上がらない会社に訪問をさせないようにしています。ここ5年は、毎年15人ほど採用する新卒営業部員の入社3年間の離職率が、1割以下となっているようです。

若手社員が定着する仕組みづくりは一歩ずつ

前述の委員会のような仕組みをつくる中小企業は少なくはありません。しかし、日々の仕事において社員が刺激を感じる仕組みが十分にはできていないのも問題です。バラバラの社員を1つのチームにする仕組みと、目の前の仕事で充実感を感じ取ることできる仕組みの双方があるから、定着率は上がるのです。小さな会社でも5~10年という期間を設け、毎年少しずつ、仕組みづくりをしていくことはできるのではないでしょうか。

いずれにせよ、若手社員の育成は上司に任せきりにするのではなく、会社全体で取り組むことが重要です。この積み重ねが定着率を上げることになり、社内を活性化することにもつながっていくのです。

新人~若手社員の戦力化と定着のために

吉田典史(よしだ のりふみ)
1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年以降、フリーランスに。特に人事・労務の観点から企業を取材し、記事や本を書く。人事労務の新聞や雑誌に多数、寄稿。著書に『封印された震災死その「真相」』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった...』(ダイヤモンド社)、『悶える職場』『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ』(KADOKAWA/中経出版)など。

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