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イノベーションリーダーに求められる学習棄却とゼロベース思考

イノベーションリーダーに求められる学習棄却とゼロベース思考

(2019年3月 6日更新)

 
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変化の激しい時代に力強くイノベーションを推進するために、リーダーには過去の成功体験から脱却し、ゼロベース思考で物事をありのままに見る力が求められています。

 

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リーダーの輝かしい成功体験がイノベーションを阻害する

人や組織は何らかの出来事に直面した時、過去に自らが経験・学習し、獲得した知識を参照して対処しようとします。特に、大きな成果を上げた輝かしい経験ほど「成功体験」として後々の判断・行動に大きな影響を及ぼし続けるといわれています。

しかし、昨今のように経営環境の変化が激しいなかでは、想定外の出来事が起こりやすく、そこで適切な処方箋が見つからないまま、過去の成功体験にこだわりすぎてしまうと、判断を誤る恐れがあります。

いったん蓄積した知識は、当座は判断の拠り所として「資産」価値をもちますが、時間の経過とともに鮮度が落ち、やがて時代遅れとなって正しい判断を阻害する「負債」に変化していきます。負債に変容した知識はイノベーションの足を引っ張りますので、一刻も早く償却する必要があります。

 

「学習棄却」とは?

古くなった知識を捨て去ることを経営学では「学習棄却」(Unlearning)と言います。

Hedberg(※注1)によると、学習棄却とは「時代遅れとなったり、妥当性を欠くようになった知識を捨て去り、それをより妥当性の高い新たなものへと置き換えていくこと」をいいます。もし学習棄却ができずに古い知識に固執するような状態が生じてしまうと、環境の変化に適切に対処することができにくくなります。従って、変化の激しい環境に柔軟に対応していくためには、学習棄却を行うことができる能力が求められるのです。

 

松下幸之助の「日に新た」

松下幸之助は、「日に新た」ということばで創造と棄却を伴う革新の重要性をことあるごとに述べていました。

 

この社会はあらゆる面で絶えず変化し、うつり変わっていく。だから、その中で発展していくには、企業も社会の変化に適応し、むしろ一歩先んじていかなくてはならない。それには、昨日よりは今日、今日よりは明日へと、常によりよきものを生み出していくことである。昨日は是とされていたことが、今日そのままで通用するかどうかはわからない。情勢の変化によって、それはもう好ましくないということが往々にしてあるわけである。(中略)この“日に新た”ということがあってこそ、正しい経営理念もほんとうに永遠の生命をもって生きてくるのである。

 

“日に新た”な革新は決して簡単なことではありません。しかし、想定外の事態に見舞われて、これまでの常識が通じない今こそ、賞味期限の切れた古い知識を捨て去るチャンスでもあります。だからこそ、慌しい日常生活の中でも、目の前の状況をしっかり直視し、自分と向き合いながら、何を新たに取り込み、何を捨て去るか、心静かに内省する時間をもつことがすべてのビジネスパーソンに大切であると思われます。

 

ソニー厚木工場の再建

いま、多くの組織で変革の必要性が叫ばれていますが、思うように変革が進んでいるケースは稀なようです。変革が進まない理由はいくつか考えられますが、最大の要因は、変革の担い手となるべき人たちの囚われたものの見方・考え方に起因していると言っても過言ではないでしょう。

かつて、問題の多かったソニー厚木工場の再建を託されてまったくの異業種から同工場長に就任し、見事再建を果たした小林茂氏(故人)は、当時を振り返って以下のように述べています。

 

「工場のことがまったくわからない私は、ひたすら工場の中を歩き回って、わからないことや疑問に思うことを聞き続けるしかなかった。しかし、先入観念がなかった分だけ、白紙の心で事実をありのままに見ることができ、問題解決の真因をつかみとることができた」

 

この発言は、変革成功の要諦を言い尽くしているように思われます。

私たちは何か問題にぶつかった時、とかく過去の経験や体験から、その問題解決のヒントを得ようとしがちですが、激変する現代の経営環境の下では、過去の成功パターンや常識が通用しない可能性が高まっています。こんな時代においては、むしろ過去の経験や常識をいったん捨て去り、ゼロベース思考でものごとをあるがままに見ることが重要になるようです。

 

松下幸之助の「素直な心」

かつて、IBMやGEなどの変革を成功に導いたトップは、いずれも業種や国籍の異なる企業の出身者であったことからも、従来その組織で当然とされていた考え方や常識にとらわれない柔軟性が大切さであることがうかがい知れます。

松下幸之助は、「素直な心」という表現で、とらわれや偏りのない心の状態がいかに大切かを事あるごとに力説していましたが、同時にその境地に至る難しさも指摘しており、「だからこそ素直な心になろうと日々、自分に言い聞かせなくてはならない」と述べています。

さまざまな経験や学習を重ねて知識や知恵を蓄積する一方で、それらにとらわれず、時にはすべてを無にしてゼロベースでものごとを見ることができる心の融通性・柔軟性を確保する――。たいへん難しい課題ではありますが、そのことにチャレンジし続ける過程で、ものごとの実相を見抜く「眼力」や「叡智」が高まり、真のチェンジリーダーに向かって、少しずつ進化していけるのではないでしょうか。

 

※注1

Hedberg,B.L.T.(1981) How organizations learn and unlearn.Nystorm,P.C.&Starbuck,W.H.(eds.)

 Handbook of organizational dasign.Oxford University Press.pp.3-27

 

部長研修

 


 

 

的場正晃(まとば・まさあき)

1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。現在、PHP研究所研修企画部長。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。


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