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クランボルツ教授の「計画的偶発性理論」とこれからのキャリア開発

クランボルツ教授の「計画的偶発性理論」とこれからのキャリア開発

(2019年10月 1日更新)

 
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キャリアに関する諸理論の中でも、近年注目を集めているのが、米国スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱する「計画的偶発性理論」です。キャリア開発において長期ビジョンを描きにくい今、私たちは日々の仕事にどのような意味を見出していけばいいのでしょうか。

 

*  *  *

 

クランボルツ教授の「計画的偶発性理論」とは?

成熟化社会における人々の価値観の多様化や、組織と個人の関係の変化などを背景に、一人ひとりが自分のキャリアについてじっくり考えることが重要になってきました。

キャリアに関する諸理論の中でも、近年注目を集めているのが、米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が1999年に発表した「計画的偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)です。同教授は、数百人にのぼるビジネスパーソンのキャリアを分析した結果、「キャリアの80%は、予期しない偶然の出来事によって形成される」という事実を明らかにし、「決定論的に将来の目標を明確に決め、そこから逆算して計画論的に将来のキャリアを作りこんでいくやりかたは現実的ではない」と主張しました。

この主張は、従来のキャリア開発の主流とされてきた理論とは明らかに一線を画すものですが、実務の世界で実際に起きている出来事を見ていると、こちらのほうがなんとなく馴染みやすく感じます。

 

キャリア開発の長期ビジョンを描きにくい時代

ビジネスの世界においては、自分の力ではどうすることもできない「運命」や「偶然」によって左右されることが多いもの。特に変化の激しい昨今の市場環境においてはその傾向はますます強まりつつあり、企業経営も個人のキャリア開発も長期のビジョンを描きにくくなっているのです。

実際、筆者は「キャリアデザイン」をテーマにした研修の講師として企業に招かれることがありますが、その時に感じることが受講者の「焦り」です。

昨今の20代~30代前半のビジネスパーソンの多くは、自分が所属する企業の先行きに疑問を感じたり、巷にあふれる間違ったキャリアに対する情報に翻弄されたりして、「何か手に職をつけなければこの厳しい時代を生き残れない」という焦燥感に駆られているように見受けられます。資格取得のための対策講座や社会人大学院で学ぶビジネスパーソンの数が年々増えているそうですが、その背景には前述のような状況があるように思われます。

仕事をしながら学ぶということは、それなりの覚悟と犠牲が伴うものであり、それ自体は素晴らしいことです。しかし、気になるのは、自己啓発に対する熱意と同じくらいの熱意を仕事の中で持てていない方が散見され、その数が少しずつ増加しているように感じる点です。「自分のやりたいことはこんな仕事ではなかった」とか、「今担当している仕事は自分の成長に結びつかない」といった考え方をする人が多いということです。

 

松下幸之助の考え方と「事上錬磨」

しかし、本当に日々の仕事は自分の成長に結びつかないのでしょうか。

ある経営者は、自身のキャリアを振り返って「目の前に与えられた仕事、一見すると雑用のような仕事でも常に全力投球してきた。その積み重ねが今の自分をつくってきた」と述べています。成功者と呼ばれる人の多くが同様の発言をしていますが、そう考えると世の中には無意味な仕事というものは存在しないのかもしれません。要するに受け止め方の問題であって、目の前の仕事に心を込めれば「雑用」に見える仕事が自分の成長を促す「砥石(といし)」になりうるのです。

PHP研究所の創設者であり、一代でパナソニックグループを築き上げた松下幸之助は、「自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。(中略)いま立っているこの道、いま歩んでいるこの道、ともかくもこの道を休まず歩むことである」と述べ、「今」を大切にする姿勢を生涯、貫き通しました。

また、中国古典の中には、「事上練磨」ということばがあります。日々の仕事を通して人間は磨かれるという意味のことばですが、ここから、現代のキャリア開発論を読み解くと以下のようになるでしょうか。

最も自分を成長させるものは日々の仕事であり、そこに心を込めていくことが最優先されるべきである。その上でなお余力があれば、自己啓発をしていけば理想的であるが、あくまでも順序としては、仕事が一番である――。

キャリアデザイン研修の締めくくりにこうしたメッセージを受講生に贈っていますが、概ね納得感を持って受け入れられています。

 

先の見えにくい時代だからこそ、日々の仕事で成長することの意味を、現場で上司や先輩が体験談を交えて若手に伝えていただきたい。そして、人事を担当する方々は、ほんとうの幸せにつながるキャリアを形成するためにも、わが社のキャリアデザイン研修はどうあるべきかを、今一度じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

 


 

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的場正晃(まとば・まさあき)

PHP研究所 人材開発企画部部長

1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。


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