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J・メジロー「変容的学習理論」~人に変化を促す適切なサポートとは?

2019年10月 7日更新

J・メジロー「変容的学習理論」~人に変化を促す適切なサポートとは?

行動変容を促すには、どのようなサポート、働きかけが必要なのでしょうか。米国の教育学者 J・メジローの「変容的学習理論」について解説します。

「準拠枠」の固定化が企業研修を難しくする

企業研修の難しさの一つに、ある程度自分なりの考えが確立した大人を対象としているということがあげられます。大人は誰しも、過去の人生経験の中で形成した「準拠枠」(ものの見方・感じ方・行為の仕方の習慣的な枠組み)と呼ばれるフレームワークを通して、思考・行動しています。この準拠枠が強固になればなるほど、その枠の中の発想に捉われ、結局、視野の拡大が阻害されてしまうのです。したがって、この準拠枠を固定化させるのではなく、変容させ続ける必要があるのですが、それが非常に難しいのです。
例えば、困難な状況に直面すると、いつも「できない」とあきらめてしまう人が、その思考パターンを簡単には変えられないことを考えてみれば、その難しさが理解できるでしょう。

J・メジロー「変容的学習理論」

米国の教育学者であるJ・メジローは、どうすれば準拠枠を変容させることができるかという難しい課題に立ち向かい、研究した成果を「変容的学習理論」と名づけました。彼の理論を解釈すると、学習者の準拠枠の変容と、第三者からの適切なサポートとの間には、何らかの相関関係が存在することがうかがえます。

適切なサポートの具体例として、

・別の考え方を学習者に提案する
・質問する
・学習者の考えと矛盾するような考え方や事実を提示する
・学習者の習慣的な考え方や行動を真似してみせる

などが考えられますが、これらはいずれも学習者が別の角度からものを見ることができるような働きかけを行っているのです。

変化を促す2つの問いかけとは?

この考え方に立てば、集合研修における講師、あるいはOJT推進者である上司や先輩、指導員の人たちは、教え込む教師の役割よりも、適切な問いかけやフィードバックを行って、考えさせるコーチとしての役割にウェイトをおくべきだということになるでしょう。
問いかけ、考えさせ、自分の意見を語らせ、それに対してフィードバックを与えて、また考えさせる......。こういうプロセスを繰り返すことによって、少しずつ学習者の準拠枠が変容していくのです。
では、どのような問いかけが必要なのでしょうか。それは難しいことではありません。以下の簡単な二つの問いを投げかければいいのです。

「あなたはどうなりたいのか?」(理想の状態、あるべき状態)
「それに対して現状はどうなっているのか?」(現実の状態)

この二つの問いかけによって、理想と現実との間のギャップの存在を認識したとき、人は変化への第一歩を踏み出すことができます。つまり、現状に対して漠然とした不安・不満を抱いている段階から、ギャップを埋めるために何をしていくかを考える段階へとステップアップすることによって「行動を起こせば理想の状態に近づける」という気づきと勇気を得ることができるのです。そこから、その人の変化は始まります。

意識変革を目的とした研修の事例

ここで事例をご紹介しましょう。大手電機メーカーの協力会社(従業員数40名)で働く中堅社員Aさんは、日頃から素行が悪く、会社も上司もその対応に苦慮していました。ところが、社内研修会への参加を契機にAさんの態度がガラリと変わり、今では製造部門の班長として立派に仕事をするまでになりました。研修会で「二つの問いかけ」に直面させられて、それまで向き合うことのなかった仕事や人生の意味を悟り、それに対する自己の現状を省みたとき、自分を変える必要性を強く感じたのです。
意識変革を目的とした研修を数多く手掛けてきて改めて感じることは、人は変わることを好まないということです。なぜ、変わることを好まないかと言えば、変わることには痛みが伴うからです。その痛みを覚悟してでも変わろうと行動させるには「変わることの必要性」を感じさせなければなりません。

先日、あるベテラン研修講師が次のように語っていました。
「自分で考え、自分で気づき、『私はこうなりたい』と自分のことばで言わなければ、決して人は変わらない」。まさしく、これこそが「自らを変える力」を引き出す教育といえるでしょう。
貴社では、変わることの必要性を感じさせないまま、OJTや研修を実施していないでしょうか。
改めて現状を点検したいものです。

的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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