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内定者教育・研修の目的と実施のポイント

内定者教育・研修の目的と実施のポイント

(2019年11月 8日更新)

 
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入社内定者教育とは何のために行うのでしょうか? そして、どんな教育・研修を行えばいいのでしょうか? 昨今の若者の特徴をふまえて考えてみましょう。

 

 

人材育成担当者に求められる肯定的な人間観

「今どきの若者は……」という嘆きは何も今に始まったことではありませんが、昨今の若者には、私たちの年代とは違うと感じさせられることが多々あります。「上司に命令されたら舌打ちをする」「叱られると極度に落ち込む」「敬語が使えない」など、とかく悪い評価が目立つ若者たち。しかし、人材育成に携わる側としては、こちらが熱意をもって教えれば必ず成長してくれる、ということを忘れてはなりません。教える側が肯定的な人間観を持ち続けていれば、彼らも必ず応えてくれる。「人間は良い方向へ変われる」という前提に立たないと、人材育成は始まらないわけです。

弊社の創設者である松下幸之助は、「人間は磨けば光るダイヤモンドの原石」であると言いました。だれもが磨けばそれぞれに光る、さまざまなすばらしい素質を持っている。だから、人を育て、生かすにあたっても、まずそういう人間の本質というものをよく認識し、それぞれの人が持っている優れた素質が生きるような配慮をしていくことが大切である、と語っています。

今どきの若者の教育を考えるとき、こうした肯定的な人間観をもつことの大切さを改めて思い起こします。

 

入社内定者教育は何のために行う?

さて、そもそも入社内定者教育とは何のために行うのでしょうか? そして、どんな教育・研修を行えばいいのでしょうか?

それらの疑問に対して、示唆を与えてくれるのが「組織社会化」という概念です。

組織社会化とは、新しく組織に加わったメンバーが、組織の目標を達成するために求められる役割や知識、規範、価値観などを獲得して組織に適応していくプロセスのことを言います。

近年、組織社会化の研究が進み、入社前のキャリア探索行動が、入社時の個人と職務との適合感や仕事への動機付け、組織コミットメントなどを高めることが明らかにされています。

これらをもう少し平たく言えば、入社前に「自分の強み・価値は何か」「何のために仕事をするのか」「仕事と人生がどういう関係にあるのか」といった観点から自分と向き合うことが、入社後の組織・仕事への適応を促進し、やる気アップに効果を発揮するということなのです。

したがって、内定期間中に「仕事の意味」や「人生の目的」など、これまで考えたこともないようなテーマと真剣に向き合い、考えを深めるような取り組みを教育の一環として実施することが効果的であると思われます。

 

「Deliverable(デリバラブル)発想」による説明で仕事に対する誇りを持たせる

さて、ここで「Doable(ドゥアブル)発想」「Deliverable(デリバラブル)発想」という言葉をご紹介しましょう。Doableは「do(する)+able(できる)」、後者のDeliverableは「deliver(届ける)+able(できる)」の合成語です。

「何をすることが出来るか」を表しているのが「Doable」。それに対して「結果として誰に何をもたらすことができるか」を表しているのが「Deliverable」です。

入社説明会や内定者懇談会などの機会に、会社の業務を若者に説明することがあると思いますが、それぞれの発想でどう説明するのか、食品会社の例をあげて考えてみましょう。

「当社は食品を製造・販売しています」、これは「Doable発想」による説明です。決して間違いではなく、会社業務を正確に説明しています。一方、「Deliverable発想」では、どう説明するでしょうか。「当社は、おいしくて安全な食品を提供し、人々の健康づくりと豊かな食生活の実現に貢献しています」。業務を通じてだれに何を提供し、社会にどのように貢献しているのかがはっきりと伝わります。

なぜこうした考え方をご紹介したかと言いますと、最近の若者は「お役立ち感」に敏感であると言われるからです。若者たちのモチベーションを上げるためには、この「お役立ち感」を実感させ、社会人への「入り口」で自らの仕事にプライドをもたせることが重要なのです。内定式でも、入社後の現場でのOJTでも「Deliverable発想」で彼らとコミュケーションしていくことによって、会社や仕事に対する誇りを持たせることができるのです。そういう意味では、彼らを指導する現場の指導員、メンターの教育が非常に重要だと言えます。

 

基本的なコミュニケーションを徹底させる

効果的な内定者教育~導入研修を考えるうえで、2つめのポイントとなるのが、「前頭前野」を鍛える、ということです。前頭前野は、脳の一部で、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化するというような役割を果たしています。感情を発露したり抑制したりといった機能も、この部分がつかさどっているわけです。この部分は、主に人と人との対面でのコミュニケーションによって鍛えられますから、ケータイ、ゲーム、ネット世代では鍛えられていないという人も多いのです。すぐにキレたり、逆に自分の感情がうまく表現できないといった若者が多いことも、このことに起因しているように思われます。

では、前頭前野を鍛えるにはどうすればいいでしょう? この答えは、そう難しくはありません。読み、書き、話す場を数多くつくる、挨拶や返事といった基本的なコミュニケーションを徹底させることです。基本動作の徹底によって前頭前野が刺激され、対人関係力を鍛えることができるのです。

 

日本一の温泉旅館で行われる「基本動作の1000本ノック」

事例をご紹介しましょう。「日本一の温泉旅館」と言われる「加賀屋」(石川県七尾市)。国内外から年間30万人もの人たちが泊まりに来るこの旅館は、おもてなしの質の高さに定評があります。もちろん従業員に対する教育は徹底されていますが、その内容は「マインド教育」ではなく、正しい言葉づかいや、美しい立ち居振る舞い、好感のもたれるお辞儀など、「形」にこだわったトレーニングが主体です。あるべき形をまね、何度も実践しているうちに、「加賀屋流おもてなし」の精神を理解・実践できるようになるので、あえてマインド教育を実施する必要がないそうです。

「加賀屋」の例にみるように、新入社員の教育に関しては、概念や理論を教えるよりも、あるべき姿・形を実践させるほうが重要であり効果も高いでしょう。元気のいい返事や、さわやかな挨拶を理屈抜きで繰り返し実践させてみる。いわば「基本動作の1000本ノック」です。その結果、自分の周囲にどんな変化が起きてくるか、自分の気持ちがどうなるかを体験させることで、自ら気づきを得ることができるでしょう。

「形から入って本質を追求し、心を定める」というコンセプトに則った新入社員研修を、ぜひお奨めしたいと思います。

 

数年後に目指す人材像を定める

少し話がそれましたが、最後に、内定者教育~導入研修を成功させるポイントとして、一貫性ある人材育成体系をつくる、ということをあげておきます。内定者教育、導入教育、フォローアップ研修、日々のOJTやメンタリングなどを通じて、3年目、5年目、7年目にどんな人材に育ってほしいのか、理想像を定めて中長期で取り組んでいくことが大切です。

自動車関連のA社では、入社から8年間を育成期間と位置づけ、大学卒業であれば30歳の時点で「PDCAがきっちり回せる人材」に育てる、という目標を掲げておられると聞きます。意外に身近に感じられる目標で驚かれる方も多いかもしれませんが、PDCAをきちんと回し自律的に仕事を進める、ということを徹底して行うのは意外に難しいものです。

貴社の場合はどうでしょうか。何年かけて、こういう人材に、というイメージはお持ちでしょうか。戦力として活躍できる人材になるかどうかは、入社して数年間が勝負です。35歳になって管理職になってから「さあ教育しよう」といっても、なかなかうまくいくものではありません。業種業態によって、3年間、5年間といった差はあっても、理想とする人材像を明確にし、一貫した目標をもって技と心を育むことが人材育成の王道と考えて間違いないでしょう。

 



 

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的場正晃(まとば・まさあき)

PHP研究所 人材開発企画部部長

1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。


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