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65歳定年制を考える~企業側の問題

2016年6月 3日更新

65歳定年制を考える~企業側の問題

65歳の定年制は、どう影響していくのでしょうか? 企業側の問題を考えてみたいと思います。海老一宏氏の解説です。

 

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65歳までの雇用延長が義務化

皆さんは、ついこの前まで55歳が定年だったことをご存じでしょうか? 忘れがちですが、「60歳定年制」が義務化されたのは一昔前の1998年なのです。わずか18年前は55歳でリタイア人生を歩んでいた方がいたのです。今ではちょっと信じられない感じがします。ちなみにこの「55歳定年制」となったのは日本の工業化が進んだ1920年代と言われており、なんとその時代の平均寿命は45歳でした。私の記憶でも多くの親戚や知人が55歳で定年を迎えると間もなく亡くなっていた方がたくさんいたように思います。時代と寿命のすさまじい様変わりを感じます。

そして現在は2013年の4月より、65歳までの雇用延長がすでに義務化されています。これは、定年制の廃止、定年後の再雇用、定年の延長のいずれかを企業が選択して制度化することになります。実際には経過措置が認められており、雇用者の完全な65歳雇用義務化は2025年の4月からとなり、現時点では62歳までが義務化されています。

 

こうした中で大企業の中でいよいよ再雇用ではなく、65歳を定年とする企業が出てきました。

例えば、大和ハウス工業、ホンダ、つい最近みずほFGなどがニュースになっています。

2012年の法改正では「雇用延長を希望する者」となっているために、恐らく65歳定年制の企業も、延長を希望しない者は60歳で定年を迎えることも可能な制度になっているものと思われます。

 

人事制度のマイナーチェンジには理由があった

企業と個人にとってこの65歳の定年制はどう影響していくのでしょうか?

まずは企業側の問題を考えてみたいと思います。

私は、60歳定年制となった1998年以降の企業の雇用形態を見ていますが、それは基本的には55歳定年を元にした制度からのマイナーチェンジ的なものであり、60歳まで活躍して働くことを前提にしたフルモデルチェンジ的な制度改革はなかったのではないかと考えています。

つまり多くの雇用者、特にホワイトカラー管理職にとっては、基本的には55歳定年制の頃に決まっていた「52歳には課長の役職定年で、54歳には参事に昇格しない部長も役職定年」といった管理職の打ち止め的な制度がそのまま残っている企業が多いと思います。

 

企業側がこのような55歳定年をベースにしたマイナーチェンジ的な制度としているのは大きくは3つの理由が考えられます。

一つは、若い社員のモチベーションと早期の管理職昇格による企業の活性化を維持したいということです。定年が延びてその分ポストにしがみつかれていては、下の社員の責任感も給与も上げることができないからです。さらに時代の変化が早く、一昔前に教育された仕事感覚ではライバルとの競争についていけなくなっているといった背景もあります。

二つ目は、すでにいろいろと指摘・分析されている人件費の抑制です。ここでは敢えてこの問題はコメントしませんが、当然ながら売上が上がらない中で定年だけが5歳伸びれば、単純計算でも14%ほど人件費が上がってしまいます。

三つ目は、(実はこれがもっとも重要かもしれません)企業側として一旦全ての管理職者の役職を無くすことで、新たに企業にとって必要で残って欲しい人材を人選するベースを作るということです。新入社員から30代で係長になり、40代で課長になり、50代で部長に昇格したものの、その後の経営側からの評価は決してその時のままではありません。中には名ばかり管理職や扱いにくい非公式のリーダー的な問題児も出てくるものです。そうした困ったというか、それほどでもないというか、50代後半以降にさらに期待できる人材以外が課長や部長といった役職で高待遇していることを、表だって白黒つけてきちんと整理することは実際なかなか難しいことです。本人にその自覚があろうがなかろうが、「あなたは実は部長の器ではなかったようです」などと迂闊に対応すれば、影響力のある幹部管理職の機嫌を損ねて人事的に会社にマイナスとなりかねません。したがって役職定年は、いったん全ての役職を解くことで平等に扱いながら人選ができるということになります。

大きくはこのような3つの理由から55歳から60歳に定年制度のマイナーチェンジで乗り切ってきたということが言えます。

 

中高年の活用を考えた人事制度

しかし65歳に雇用延長が確定した今、はたしてさらにそのマイナーチェンジで乗り切れるものでしょうか? いえ、乗り切ることが企業にとってプラスになるでしょうか?

その問題を整理すると、仮に55歳ですべての役職定年となる制度を不変とすると、60歳定年の場合は残り5年をなんとか新たなポジション(例えば部下を持たない担当部長)で乗り切っていたのが、65歳まで10年もとなってしまうと、もし企業の生産性にあまり寄与しない雇用を続けた場合その損失は無視できないレベルになるからです。

私は、今後この65歳の雇用延長と、もしかするとさらに将来の年金問題で雇用が67歳、70歳と延長になる可能性を考えると、この際思いきって中高年の活用をしっかりと考えたフルモデルチェンジを考えるべきではないかと考えています。

 

まず、今の日本人の多くは既に80歳は当然で、寿命90歳代を意識したライフスタイルとなっているという大前提があります。60代は体力も気力も記憶力も落ちるというのは、もしかするとそうした概念を受け入れているからに過ぎないかもしれません。事実、今還暦を迎えようとしている私が、赤いチャンチャンコを着て老人の仲間入りというのは、どう考えても張りつめた気持ちが緩み、却って老けこむだけの儀式にしか思えません。

企業にとってもこの油の乗り切った、経験値も上がり、人間力も身に付けた人材の塊をゴミにしていいのかと言えば、誰もイエスとは言わないはずです。

結局のところ問題は先ほどに3つの問題をどうするかです。

 

人事制度のフルモデルチェンジのポイント

さて、ではどのようなフルモデルチェンジが考えられるのでしょうか?

そのヒントとして一つだけ指摘すれば、私はかねてより新入社員はまず全員ゼネラリストを目指した教育や組織運営をしている人事の考え方に改善点があると考えています。

これからの時代は、スペシャリストからその道のプロフェッショナルを目指すように人事も教育も変える必要があると思います。

ゼネラリストはマネージメントで力を発揮するために、上に行けば行くほど必要人数は少なくなってきます。しかし、スペシャリストであれば基本的にはその経験年数により(もちろん人的能力差はありますが)価値が高まってくるはずで、後輩の指導も年齢的な熟成感も加味されて効果的になると思います。

65歳までの雇用を希望する人は、55歳で役職を解かれて給与も下がり、その分企業への貢献度も低くて当たり前という考え方を改める必要がありますし、企業もそのための制度のフルモデルチェンジをすることで、諸外国に立ち向かう生産性の大幅な改善を目指すべきと私は考えています。

社員のモチベーションを上げて、65歳までしっかりとその人なりに成果を上げるような仕組みができて生産性も上がれば、売上も利益もあげることができ、結果として2番目の人件費を吸収することができると思えます。

 

65歳の雇用延長をきっかけにした人事制度のフルモデルチェンジこそ企業の生き残りへの下支えとなるはずです。

 

 

 

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【著者プロフィール】
海老一宏 (えび・かずひろ)
人材紹介コンサルタント。キャリアカウンセラー。アクティベイト株式会社代表取締役社長。
1957年、宮城県仙台市生まれ。中央大学卒業後、東証一部上場企業 品川白煉瓦株式会社(現、品川リフラクトリーズ)に入社。人事、経理、営業に携わる。1992年に起業し、レンタルビデオ・CDショップを開業。1店舗からのスタートで、FC本部の経営まで事業を拡大。2000年に人材紹介会社に入社し、トップエージェントとして活躍。2005年に独立し現職に。財団法人みやぎ産業振興機構のビジネスプロデューサーも務める。エージェント歴は15年。面談者は6000名以上。エン転職コンサルタントで6年連続利用者評価NO.1(当社調べ)。
著書に『40歳からのサバイバル転職成功術』(ワニブックスプラス)、『一流と言われる3%のビジネスマンがやっている誰でもできる50のこと』(明日香出版社)。

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