オンボーディングの意義と施策~転職社会・少子化の時代に組織が成長するには~
2026年10月16日更新

雇用の流動化や少子化による採用難を背景に、新たに採用した人材が組織に適応するためのオンボーディングが注目されています。その重要性と施策について、尾形真実哉氏(甲南大学経営学部教授)の論考からご紹介します。
尾形真実哉(おがた・まみや)

甲南大学経営学部教授
2007年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て、2015年より現職。専門は組織行動論、経営組織論。新卒採用者の組織適応と中途採用者の組織再適応といったオンボーディングに関する研究に長い間従事し、最近は育成上手な管理職の研究にも力を入れている。著書に、『若手就業者の組織適応―リアリティ・ショックからの成長―』(白桃書房)、『中途採用人材を活かすマネジメント―転職者の組織再適応を促進するために―』(生産性出版)、『組織になじませる力―オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』(アルク)など。
「組織になじませる力」が重要に
今、日本におけるいかなる組織にも「組織になじませる力」が求められている。「組織になじませる力」とは、新しく組織に入ってきた個人を新しい環境になじませ、パフォーマンスを発揮させる力のことである。
まず、なぜこれほど「組織になじませる力」が求められるようになったのかを考えてみたい。
以前の日本企業は、入社してから退職するまで、1つの企業で勤めあげる終身雇用が当たり前だった。生涯一企業キャリアであれば、働く個人のキャリア形成は企業に委ねられており、「キャリアデザイン」という意識を持つ者は、乏しかった。そのような環境では、労働者は入社した会社になじむほか選択肢はなかったし、会社側も新入社員※を環境になじませる努力をする必要はなかった。転職される可能性も低いため、従業員のリテンション(長期定着)に頭を悩ませることもなく、「組織になじませる力」を備える必要はなかったと言える。
※本稿では、大学や高校を卒業して組織に参加してきた個人を「新卒採用者」、仕事経験があり、別の組織から参加してきた個人を「中途採用者」、「新卒採用者」と「中途採用者」の双方を含む言葉として「新入社員」という言葉を用いることとする。
そのような環境は、バブル経済の崩壊によって崩れ去ることになる。終身雇用時代では考えられなかったリストラが、日本企業においても当たり前となり、会社に任せていた自分自身のキャリアは、働く個人が自分自身で管理しなければならなくなった。そのような状況で、「キャリアデザイン」や「ポータブルスキル」(どの会社にも持ち運びできる個人の能力)の重要性がうたわれるようになる。現在では、複数の企業でキャリアを形成する境界なきキャリア(バウンダリーレス・キャリア)が、日本においても当たり前となった。転職が当たり前になれば、いずれ転職されるのだから、社員一人ひとりを組織になじませようとする努力は不要と考えることもできるが、むしろ、転職が当たり前だからこそ、社員一人ひとりを「組織になじませる力」が重要になる。
転職社会において、会社が「組織になじませる力」を有していなければ、人が出ていくだけの人材流出企業になってしまう。その結果、労働力が枯渇し、会社の知識や技能の伝承も不可能になり、永続性も保てなくなる。「組織になじませる力」のない組織は淘汰される時代が、すぐそこまで来ている。転職社会の到来で生き残りを左右する重要な組織能力が、「組織になじませる力」と言える。
転職社会の到来以外にも、「組織になじませる力」が問われる社会問題がある。それは少子化の問題だ。少子化は、日本企業の新卒採用活動に大きな問題を投げかけている。
内閣府が2022年に公表した『令和4年版高齢社会白書』によると、少子高齢化の進行により、我が国の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年をピークに減少しており、2021年には7450万人だったものが、2050年には5275万人(29.2%減)に減少すると見込まれている。生産年齢人口の減少が企業に及ぼす影響も大きく、会社の永続性につながる新卒採用者が乏しくなると、その争奪戦が繰り広げられ、そこで敗れた企業は衰退することになるだろう。
さらに、うまく採用できたからといって、それで終わりではない。次は会社に定着してもらうことが求められる。厚生労働省が、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況について取りまとめた結果、2020年度における離職率は、新規高卒就職者で約4割、新規大卒就職者で約3割と、かつて七五三現象(中卒7割、高卒5割、大卒3割)と言われた状況から大きく変わっていない。
苦労の末に採用した新卒採用者に早期離職されては、採用コストの回収や技能伝承ができず、会社の永続性も損なわれてしまう。そのような負の影響を生じさせないためにも、「組織になじませる力」が重要になる。
オンボーディングとは何か
ここまで論じてきた「組織になじませる力」のことを、オンボーディング(On-boarding)と言う。
オンボーディングとは、船や飛行機に乗っているという意味で、それを会社に例え、新卒採用者であれ、中途採用者であれ、会社という乗り物に新しく加わった個人を、同じ船(会社)の乗組員としてなじませ、一人前にしていくプロセスのことである。
学術の世界では、Klein and Polin(2012)が、「新入社員の適応を促進する組織やエージェントによって従事される公式、非公式な訓練、プログラム、政策」とオンボーディングを定義している。つまり、新しく組織に参加してきた個人の円滑な適応をサポートするもの全てがオンボーディングということになる。
Klein and Polin(2012)は、このオンボーディングに求められる要素として、(1)情報を与えるインフォーム行動、(2)迎え入れるウェルカム行動、(3)導くガイド行動の3つの行動を示している(表1)。
(注)Klein and Polin(2012)を参照に筆者作成。Klein and Polin(2012)の内容は、若干米国的な個人主義やカルチャーが含まれているため、日本の人事制度やカルチャーに当てはまり難いものは排除している。
参考記事:オンボーディングとは? 新入社員の組織社会化を促すために人事ができることを解説│PHP人材開発
インフォーム行動
1つめの「インフォーム行動」は、新入社員に必要な情報や道具を提供すること、また新入社員の新しい役割や組織について円滑に活動していく方法について学ぶ機会を提供することが該当する。
そして、このインフォーム行動は、コミュニケーション、リソースの提供、トレーニングプログラムの3つに分けられる。
コミュニケーションは、特に上司との対話の重要性があげられている。
リソースの提供は、新入社員に仕事で必要な道具や援助を提供することが該当する。例として、会社の理解促進につながるウェブサイトや会社独自の言語を解説している用語集を提供することなどである。
トレーニングプログラムは、新入社員のスキルや知識の習得を促進させるために実施されるもので、オリエンテーションやキャリア開発プログラムなどの研修がここに含まれる。新入社員に対するトレーニングプログラムは、多くの企業が実施しているため、多くのオンボーディング施策がここに含まれる。
ウェルカム行動
2つめの「ウェルカム行動」は、新入社員を歓迎したり、新入社員と同僚が顔合わせできる機会を提供するなどのプログラムや制度のことを言う。
インフォーム行動が、新入社員にとって有益な情報面に焦点が当てられているのに対して、ウェルカム行動は、新入社員の感情面と人間関係の構築に重要な役割を果たすことになる。それゆえ、歓迎風土をいかに社内に醸成するかが重要なオンボーディング施策になる。
ガイド行動
最後の3つめが「ガイド行動」である。
これは、新入社員のトランジション(新しい環境への移行)をサポートする個人的な指南役(バディやメンター)を提供することが当てはまる。新しい環境に参加した個人は、多くの適応課題に直面する。そうした適応課題を1人で克服することは難しいため、目的に応じたガイド役が身近に存在していることは、新入社員にとって心強いサポートになる。このような充実したサポート役を組織から提供することがオンボーディングのガイド行動となる。
施策のデザインから実践まで
ここからは、人事部のオンボーディング施策のデザインから実践までを見ていきたい(図1)。

現状把握
まず人事部には、(1)新入社員の現状を正確に把握することが求められる。
自社の新入社員がどのような適応課題に直面しているのかを把握することによって、効果的な施策のデザインにつながる。そのためには、新入社員への質問票調査やパルスサーベイ、聞き取り調査などを実施し、自組織の新入社員の現状を把握することが求められる。
オンボーディング施策の設計
そして(2)は、前述した新入社員の適応課題を正確に理解し、それらの課題を克服させることができるオンボーディング施策を講じることである。
特に中途採用者の施策をデザインする際には、そのメンバーに中途採用者を入れることが重要となる。自組織しか経験したことのない人は、中途採用者の気持ちが分かりがたいからである。また、中途採用者だけのチームだと不満の言い合いになり、歯止めがきかなくなってしまうため、中途採用者だけのチームも良くない。経験の長いメンバーと中途採用のメンバーのバランスを考慮し、チームを作ることである。
部門間連携の構築
そして、それらのオンボーディング施策が全社的にうまく機能するために、(3)トップや各部門との協力体制を構築することが求められる。
人事部がオンボーディング施策を講じても、トップや現場が協力してくれなければ、効果を得ることはできない。そうならないためにも、トップや各部門と密にコミュニケーションをとり、現場が「協力しよう」と思える関係性を構築することが重要である。
その際、日本企業によくある傾向だが、現場を忖度し過ぎることに注意が必要である。現場は忙しいため、本来ならばやらなければならないオンボーディング施策をお願いしがたいのは理解できるものの、施策を現場に伝えなかったり、軽くしたりすれば、何の効果も得られなくなる。人事部が現場を忖度し過ぎず、やらなければならないオンボーディング施策はしっかりと実践してもらうことが重要になる。
とはいえ、現場は何の根拠もないのに、ただ負担になることを容易に受け入れてはくれない。
そこで重要になるのが、(1)で用いた現状把握になる。現在、自組織の新入社員が、どのような適応課題に苦しんでいるのか。どのようなサポートを必要としているのか。そのような課題を克服できなければ、自組織の将来はどのような危機に直面する可能性があるのか。そのエビデンスを現場と共有することである。
また、(3)で示したトップとの協調関係を構築できていれば、トップにも現場に働きかけてもらえ、現場の協力は得やすくなる。これらの関係性構築が求められる。
実践支援と管理職サポート
最後に、(4)そのような関係性を構築できたら、実際の現場でのオンボーディングの実践を支援することである。
人事部が立案したオンボーディング施策を実践するのが現場になるため、オンボーディングの成否は現場にかかっている。現場が円滑にオンボーディングを実践できるよう、人事部がしっかりと支援することが効果的なオンボーディング施策の実践には不可欠となる。例えば、現場の管理職が1on1に苦労しているようであれば、管理職の1on1スキルを高める研修を実施するなどして、管理職をサポートすることである。
先述したように、現場のオンボーディングの成否を担うのは現場であり、その中でも重要な役割を果たすのが管理職になる。
新卒採用者であれ、中途採用者であれ、環境にうまくなじむためには、上司の役割が大きい。それゆえ、管理職のマネジメント力や育成力を醸成する研修などを実施し、管理職へのサポートを充実させることも不可欠となる。管理職を育成し、育成上手な管理職にオンボーディングを実践してもらうことが、効果的なオンボーディングの重要な要素になる。
先にも論じたように、これからの日本組織においては、「組織になじませる力」がない組織=「オンボーディングが不十分な組織」は衰退する。現在の労働市場、そして、これからの労働市場も境界のない転職行動が当たり前になる。そのような状況において、「なじませる力」のない組織は、組織の魅力も低下し、新卒採用者からも中途採用者からも見向きもされなくなってしまう。それは、優秀な人材が入ってこない、出ていくだけの人材流出組織になり、組織成果が高まるはずもなく、組織の成長を阻害する。オンボーディングを充実させ、組織の魅力を高めることで、採用ブランド力が高まり、多くの優秀な人材に選ばれる組織になることが、組織成果や組織の成長、永続性につながる(図2)。

オンボーディング効果を高める公式
最後に、オンボーディング施策の効果を高める公式を提示したい。
オンボーディング施策を成功させるためには、人事部だけの努力では不可能である。先述しているように、オンボーディングの肝は現場であり、現場を上手く巻き込んでいくことが重要で、そのためにはトップも上手く巻き込むことが求められる。さらに、組織の経営に関わる多くの人や部署(団体)を巻き込み、組織全体でオンボーディング施策に取り組むことが求められる。
それゆえ、オンボーディング施策の効果を高める公式は、組織(人事部、現場、トップ、組合など)の協力体制(関わる人や部署の数)の構築と新入社員自身の努力の掛け算であると言える(図3)。掛け算であるため、どちらか一方がゼロならば、成果もゼロとなるし、反対に関わる人や部署が多ければ多いほど、その効果も大きくなる。

人事部は、協力体制の構築と新入社員の努力を促す教育体制のデザインに尽力することが求められる。
自組織のオンボーディング施策が不十分と感じているのであれば、今からでも遅くはない。手遅れになる前に、早急に現状把握から取り組み、効果的なオンボーディング施策のデザインに着手することが求められる。
引用文献
Klein, H. J. and B. Polin(2012)"Are Organizations On Board with Best Practices Onboarding?" In Wanberg, C. R. (ed.), The Oxford Handbook of Organizational Socialization, pp.267-287, Oxford University Press.
尾形真実哉(2020)『若年就業者の組織適応ーリアリティ・ショックからの成長ー』白桃書房
尾形真実哉(2021)『中途採用人材を活かすマネジメントー転職者の組織再適応を促進するためにー』生産性出版
尾形真実哉(2022)『組織になじませるカーオンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐー』アルク
尾形真実哉(2024)「新卒採用者のオンボーディングプログラムのデザインとコンテンツ」『甲南経営研究』第65巻第1・2号 57-97頁
本記事は、『[実践]理念経営Labo Vol.17』より転載したものです。
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