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部下から「うざい」と言われてしまう管理職~空回りしないためには?

部下から「うざい」と言われてしまう管理職~空回りしないためには?

(2017年4月27日更新)

 
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自分の価値感を無意識に強要し、部下から「うざい」と言われてしまう管理職がいます。「やればできる」「がんばれ」と鼓舞しているつもりが、逆に部下のやる気を奪い、メンタルをダウンさせる。そんな管理職に、人材開発担当としてどうアドバイスすればいいのか、アドラー心理学に学びます。

 

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【質問】私は「活気ある職場づくり」をモットーに部下に接してきました。朝は元気に大きな声を出して朝礼を実践し、部下が元気のないときは「やればできる」「がんばれ」「大丈夫」「素晴らしい」とよく声をかけます。現在は8人の部下がおり、時間を見つけては部下の机を回り、上記のような声がけをしています。しかし、昨年に一人、今年も一人、部下がメンタル不全で休職してしまいました。先日、私の右腕の主任に相談したところ、とくに若い部下の間で、私に対して“うざい”という声をよく聞くと言われました。私は職場を明るくしようと必死なのですが、どうも空回りしているみたいです。どのように対処すればよいか教えてください。(39歳男性 市役所勤務 道路整備課 係長)

 

私的論理から共通感覚の構築へ

アドラー心理学では、主観的に意味づけられた自分自身や世界、人生、他者などに対するその人特有のものの見方や考え方、価値観を「私的論理(プライベート・ロジック)」と呼んでいます。いわば「心のメガネ」です。

上記のご相談ですが、この方には「元気が一番、元気があれば何でもできる」というような私的論理が見てとれます。しかし部下、とくに若い部下は、それを「うざい」と感じています。彼らの私的論理は、「仕事を自分のペースでしたい」「静かな環境で仕事がしたい」などが考えられます。

程度の差こそあれ、人は誰でも歪んだものの見方をしています。だからといって、「人それぞれ私的論理が違うのだから、わかりあえなくて当然」で片づけてしまっていては、何の解決にもなりません。違いを認めたうえでどう歩み寄っていくのかを考えることが、人間関係構築の第一歩となるのです。

アドラー心理学には「共通感覚(コモン・センス)」という考え方があります。コモン・センスを英和辞書で引くと「常識」と訳されていますが、アドラー心理学では「自分自身と他者にとって健全で建設的な、現実に即した考え方」のことと定義しています。私的論理の違うもの同士が歩み寄っていくためには、このコモン・センスに私的論理を導くのがよいとアドラー心理学では考えます。そうすることで、お互いに納得しあえる結論へたどり着くことができます。

そのためには、他者への共感が欠かせません。この共感を、アドラーは「相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じること」と言っています。この管理職の方の例で言い換えると、一人ひとりの「部下の目で見、部下の耳で聞き、部下の心で感じること」となります。自分と部下は違う。それを認めることをスタート地点にして、「部下はどう感じているんだろう、どう考えているんだろう」と思いめぐらせるということです。それが共感です。

「人間関係の構築において共感が大切なのは当たり前」と思われるかもしれません。ですが、私的論理という「心のメガネ」によって、その当たり前のことが見えなくなってしまっていることがよくあります。それに気づかせることが大切です。

 

「勘違い勇気づけ」からの脱却

また、この管理職の方は、ほめる、あるいは鼓舞して部下のやる気を高めれば、職場が明るくなり業務効率が上がるという考え方をもっていると思われます。アドラー心理学でいう「勇気づけ」とは、「困難を克服する活力を与えること」です。この方の声かけは、一見「勇気づけ」に見えるかもしれません。ですが、実はこの方がしているのは「勇気づけ」になっていない、いわば「勘違い勇気づけ」なのです。この「勘違い勇気づけ」からの脱却をはかることも必要です。

以下に、よくある「勘違い勇気づけ」の例を6つ紹介しますので、ご相談のようなケースでのアドバイスの際、参考にしてください。

 

・「やればできる」

→ 仮定法で皮肉っぽく、「ふだんやっていない」と受けとられることがあります。

 

・「がんばれ」

→「がんばってね」もそうですが、未来形で言われると、命令的でプレッシャーを与えることがあります。一方で、「がんばっているね」「がんばったね」と、現在進行形や過去形で言われると、プレッシャーを与えず、勇気づけになります。

 

・「大丈夫」

→ 根拠のない「大丈夫」は無責任で、「何が大丈夫なの?」と思われることがあります。

 

・「素晴らしい」「素敵」

→ 単発ならよいのですが、乱発すると「いい気持ちにさせようとしている」のがミエミエです。

 

・「うらやましい」

→ 昔の人は、顔の表情など目に見えるところを面(おもて)とし、目に見えない心の中などは心(うら)と表現していました。「やむ」は「病む」と同意語です。つまり、心が病んでいる状態を言うもので、あまりよい言葉ではありません。

 

・「すみません」(感謝の言葉として)

→「すみません」は、本来は自分の過失をわびる言葉です。しかし、本来の意味とはかけ離れた使い方をしていることが多々あります。扉が閉まりかけたエレベーターに乗ろうとしたとき、中の人が「開」ボタンを押してくれたおかげで扉が開いたとしたら、多くの人は「すみません」といって乗り込みます。感謝の言葉の代用になっているわけですが、「開」ボタンを押してくれた人は「すみません」と言われるよりも「ありがとう」と言われたほうが気持ちがよいはずです。感謝の言葉代わりに使う「すみません」は卒業しましょう。

 

「勇気づけ」5つの実践法

では、どのようなことが「勇気づけ」になるのでしょうか。以下に、5つの実践法を紹介します。部下との関係で悩みを抱えている管理職の方の参考になるはずです。

 

(1)感謝を表明する

さきほどの感謝の言葉の代わりに使う「すみません」を卒業する意味でも、「ありがとう」を適切に使いましょう。感謝はカンタンで、スグ実践できます。

 

(2)「ヨイ出し」する

「ヨイ出し」は、「部下を叱れない管理職にアドラー心理学からアドバイス」で詳しく紹介していますので、そちらを参照してください。

 

(3)聴き上手に徹する

→ 私たちは話すことについて強い関心をもっていますが、聴くことについてはそれほど関心をもっていません。しかしながら、よりよいコミュニケーションのためには、話すことと同じくらいに聴くことが重要です。「聴き上手」の人は、相手に好感をもたれますし、多くの情報を受けとることができます。

「聴き上手」には魔法のキーワードがあります。それは、「それで」です。この魔法のキーワードを織り込んだ4つのステップで、聴き上手を目指しましょう。

 

【聞き上手になる4つのステップ】

(ステップ1)相手の話に没頭し、間が空いたら4~5秒待ち「それで」と言います。

(ステップ2)相手が話し始めたら、また相手の話に没頭し、間が空いたら4~5秒待ち「それで」と言います。

※これを数回繰り返すと、「どう思いますか?」「意見を聴かせてください」など、相手があなたの意見を求めてきます。

(ステップ3)「じゃあ、私の意見を言うね」と言ってから、自分の意見を言います。

(ステップ4)内容の擦り合わせをはかったあと、サマライズ(話の要約)をしてお互いの理解を一致させます。最後に、「話してくれてありがとう」と感謝を伝えましょう。

 

(4)相手の進歩・成長を認める

ビジネスでは結果を重視しますが、少しでもよいので相手の進歩・成長を認めましょう。現在は上司の立場であっても、誰でも若い頃にはできなかったことや失敗したことがあるはずです。そのときを思い出し、結果ばかりでなく相手の進歩したこと、成長したことを認めてあげましょう。

 

(5)失敗を許容する

多くの組織では「失敗撲滅」を目標にします。失敗撲滅が目標になると、誰かが失敗したとき、まわりから失敗の原因を追及され、敗北者扱いをされることになります。しかしアドラー心理学では、失敗には2つのメリットがあると考えます。1つめのメリットは、失敗を「チャレンジの証」として捉えること。チャレンジしたから結果として失敗に終わった。失敗を恐れて安全な道ばかり歩いていたら、大きな発見も達成も得られません。アドラーはチャレンジすること自体に有意義さを見つけています。2つめのメリットは、失敗は「学習のチャンス」と捉えること。これまでの学びを振り返ってみれば、「失敗体験から学んだこと」がたくさんあるはずです。「成功体験から学んだこと」ことのほうが多いという方は少ないのではないでしょうか。失敗から学ぶ姿勢が、勇気づけにとって欠かせません。

 

では、具体的にどのように失敗を許容するのか、6つのステップで紹介しましょう。

 

【失敗を許容する6つのステップ】

(1)相手が失敗したことが認識できても、相手から話してくるまで待ちます。

※相手が話しづらそうで、話すことをためらっているようなら、「話を聴こうか?」「何かある?」と誘い水となる軽い声かけをしましょう。

 

(2)相手が話し始めたら、「聴き上手に徹する」を実践します。このとき決して感情的にならないと決断します。

 

(3)原因をしつこく聴くのはおすすめしません。「どうして?」「何で?」という言葉のかわりに、「どうしてそうなっちゃったんだろうね?」と一度だけ聴きます。

 

(4)「何のためにやったんだろうね?(For What)」と目的を聴きます。

 

(5)「次に同じことをするとしたら、どういうふうにやる?(How)」と改善策を聴きます。ここで不適切な改善策が提示されれば、「私の意見を言っていいかな?」と言ってから、自分の考える改善策を述べます。そして両者が納得する改善策を共有します。

 

(6)最後に、「報告してくれてありがとう」「あなたが細かく報告してくれるので助かるよ」など、感謝の意を伝えます。

 

失敗こそ「勇気づけ」のチャンス

失敗したとき、こちらの言い分も聴いてもらえず上司から「何で」「どうして」と原因を追及され責められたら、あなたはどう感じるでしょうか。恐らくその上司に対して嫌悪感を抱いて距離を置くようになり、行動が萎縮してしまうのではないかと思います。そんな状況ではいつまでたっても職場に「相互尊敬」「相互信頼」をベースとした「共同体感覚」は生まれません。

私は、部下が失敗したときこそが「勇気づけ」の大チャンスだと考えています。先ほどご紹介したように、失敗したときに勇気づけられると、「次はどうするのか」を自分で考え行動できるようになります。そして勇気づけてくれた上司に対して、感謝とともに「尊敬」の念が芽生え、そこから上司への「共感(上司の関心に関心をもつこと)」と自分自身や他者への「勇気づけ」が始まり、上司との間に信頼関係の架け橋がかかります。

この管理者の方も、自分の私的論理に気づいて「勘違い勇気づけ」から脱し、日々「勇気づけ」を実践していくことができれば、空回りすることもなくなり、部下との間によい関係を築いていくことができるでしょう。

 

*「アドラー心理学に学ぶ『勇気づけ』の職場づくり」一覧はこちら

 

リーダーのための心理学入門コース

 


 

【著者プロフィール】

宮本秀明(みやもと・ひであき)

1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。


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