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「幕末大名」に学ぶ組織維持の条件

「幕末大名」に学ぶ組織維持の条件

(2015年6月26日更新)

 
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組織を維持するために、指導者が指導者として最低限持たなければならない条件とは? 『「幕末大名」失敗の研究』(瀧澤中著)からご紹介します。

 

組織維持のコツは「倦まずたゆまず」

 

組織を維持するのに最も大切なことは何か、と問われたら、筆者は、「根気」と答える。

英語ではpatienceが近いかもしれないが、日本語の「根気」とは少し違う気がする。

patienceは「忍耐」に近い。他の単語も、根気とは若干感覚が違う。もちろん組織をつくり、維持し、発展させるには耐え忍ぶことも必要だが、うまくいっている組織の運営に感じるのは、「根気」の存在である。地位の上下にあまり関係なく、「倦まずたゆまず、続けていく」という意味の「根気」を持って、組織人が働いている。

 

曲がりなりにも井伊直弼が幕府を運営していた時には、幕府は組織としてのまとまりを持っていた。それは、井伊直弼が限られた時間と追い詰められた状況の中で、最大限粘りを見せながら対外国、対朝廷政策を進めたことにも明らかである。加えて言うなら、直弼とまったく立場の違う岩瀬忠震ですら、対外交渉の最終段階はともかく、それまでは知りうる知識を総動員して、根気強く交渉を重ねたことはよく知られている。しかも岩瀬自身、井伊直弼個人に対しての批判はあったが、幕府それ自体をないがしろにすることはなかった。

 

阿部正弘の組織運営はまさに、根気強く反対派を説得し、敵を自らの腹中に入れ、ゆっくりと事態を動かす組織者としての才能にあふれていた。土佐の山内容堂も、前半は吉田東洋をはじめ宿老たちを、後半は後藤象二郎や脱藩した坂本龍馬らを、折々不満を持ちながらも根気強く動かしながら、あるいは彼らに動かされながら、組織を活かし続けた。

 

薩摩では、藩内で大きな勢力になっていた西郷隆盛ら誠忠組を、敵対する政治基盤に乗っていた島津久光が忍耐と根気で利用していたことはすでに触れた通りである。その島津久光を小松帯刀や大久保一蔵が、倦まずたゆまず活用し続けたことも触れた。

 

会津の松平容保は、政策の多様な選択肢を持たなかったが、しかし最後の最後まで「倦まずたゆまず」立場を貫き通した。藩内部には容保の路線に反対する勢力が常に存在した(特に国許)が、戊辰戦争の局地戦で最も長期間戦い続けたのは会津藩である。つまり、容保の政策に反対した者も含めて、多くが藩組織を根気強く、最後まで支えたのである。

 

 

指導者として最低限持たなければならないもの

 

根気強い組織運営によって、組織はバラバラにならず、曲がりなりにも統一した歩調をとって動く。それは、大きな意味を持っていた。組織は組織としてまとまって動いている間、勝利するにせよ敗れるにせよ、表舞台に居続けられる、ということである。

 

組織として機能するには、上下が同じ方向を向く必要がある。従来、方針を示して従わせることが、指導者の責任として論じられてきた(多くの「リーダー論」は、この「指導者責任論」をとっている)。

 

だが、筆者は前著(『「戦国大名」失敗の研究』)でも述べた通り、フォロアーのあり方、最後は組織を維持するためにまとまる、という「フォロアーの責任」が、実は組織維持にはとても大きな課題であると考える。

 

ただし、フォロアーが責任を果たすために、指導者が指導者として最低限持たなければならない条件がある。それは、責任を回避しないことである。当たり前ではないか、と思われるかもしれないが、現代でも幕末でも、責任回避する指導者は決して少なくない。責任を部下に押しつけるのはもちろん、気に入らないからといって組織を抜けたり分派をしたりするのも、指導者としては「責任回避」の1つである。

 

だからといって指導者の最低条件に、まるで聖人君子のような項目を並べ立てるつもりはない。誰もが人格者的指導者になれるわけではないし、筆者はその必要もないと考える。

 

責任を回避しない。どんなに嫌味な人間でも小心者でも、この点を明確に持っている人は組織の中で最終的に支持される。

 

責任をとる指導者が、粘り強く根気を持って事にあたれば、組織崩壊の危険性は限りなく小さくなる。もっと言えば、頂点に立つ者だけではなく、重臣から軽輩に至るまで責任と根気を持っている組織は、盤石だと言えよう。

 

 

 

【著者紹介】

瀧澤中(たきざわ・あたる)

1965年、東京都生まれ。作家・政治史研究家。駒澤大学法学部上條末夫研究室卒。2010~1013年、日本経団連・21世紀政策研究所「日本政治タスクフォース」委員。主な著書に『秋山兄弟 好古と真之』(朝日新聞出版)、『戦国武将の「政治力」』『幕末志士の「政治力」』(以上、祥伝社新書)、『日本の政治ニュースが面白いほどわかる本』『日本はなぜ日露戦争に勝てたのか』(以上、中経出版)、『政治の「なぜ?」は図で考えると面白い』『日本人の心を動かした政治家の名セリフ』(以上、青春出版社)、『悪魔の政治力』(経済界)、『「戦国大名」失敗の研究』(PHP文庫)ほか。共著に『「坂の上の雲」人物読本』(文藝春秋)、『総図解 よくわかる日本史』(新人物往来社)など。

ホームページ http://www.t-linden.co.jp/book

 

 

「幕末大名」失敗の研究

 

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誰よりも現実主義だった彼らは、なぜ新時代から姿を消したのか?

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