1000億円規模の「ひかるブラック企業」に~テンポス流「ビジネスサイエンス」で実現~
2025年11月12日更新

中古厨房機器販売、飲食店経営、飲食店経営支援を主な事業として行うテンポスホールディングスは、1997年にテンポスバスターズとして創業してから30年近くが経った。ドラフト制度、役職者立候補制度、社長の椅子争奪戦など、ユニークな人事制度を整えながら、ジャスダック上場を果たし、M&Aを積み重ねるなか、目標としている売上1000億円が現実性を帯びてきている。創業社長である森下篤史氏に、創業からの来し方を振り返っていただいた。
INDEX
株式会社テンポスホールディングス 代表取締役社長 森下篤史(もりした・あつし)

1947年、静岡県生まれ。静岡大学卒業後、東京電気(現・東芝テック)に入社。'83年、食器洗浄機メーカー共同精工設立。本業のかたわら、英会話学校の運営、傘にフィルムをかぶせる機械の開発、回転寿司店等6つの事業に次々と手を出して失敗。それでも「挑戦を繰り返せば、いつか芽が出る」の信念を曲げず、'97年に中古厨房機器販売のテンポスバスターズを設立。2002年、ジャスダック上場。'17年に持株会社体制に移行しテンポスホールディングスに商号変更。
株式会社テンポスホールディングス
本社:東京都大田区/創業:1997年/事業内容:中古厨房機器販売、飲食店経営、飲食店経営支援
日本の役に立ちたい。社員をとにかく鍛え抜く
――1997年の創業から30年近くが経ちます。振り返ってみていかがでしょうか。
今期、M&Aをした会社の売上も入れると、グループ全体で600億円を超える見込みだ。会社が小さいときは、ビジネスオリンピックのようなものがあるなら金メダルを取りたいと思い、トップグループに近づくために上場しようと考えていた。上場して売上が100億とか200億円に達するまでは、トップをとりたい気持ちが原動力になっていたんだ。
商売の規模が大きくなるにつれ、どう役に立つかを考えながらビジネスを広げようと思うようになった。最初のうちは、潰れた飲食店から引き揚げた厨房機器を売っていて、どんどん飲食店が潰れて引き揚げるものがたくさんあって売れればいいなと。ただ規模が大きくなると、潰れてばかりでいいのかよ、という気になって、飲食店が潰れないように役立てないかと考えるようになった。こうして、「飲食店のサポート」という事業領域に踏み込んでいったんだ。
売上目標が1000億円規模になると飲食店の役に立つのは当然のこと、次第に日本の役に立ちたいと考えるようになった。日本人とは一体何だろうとわれわれのアイデンティティを知ることや、日本の偉人について勉強することで、俺は日本人なんだって誇りを持つことができる、そんなことが日本の役に立つことじゃないか、1000億円に向かう企業として、もっと日本を愛することを訴えることも大事だと考えた。今、パート・アルバイトを含めて従業員が4300人を超え、彼らには日本に生まれてよかったとか、日本人として海外に行ったときに誇りを持てるよう日本について勉強しよう、と伝えている。日本国民にこういう生き方をしようと伝える前に、自社の社員から教え込んでいくわけだ。
またテンポスの経営を、ビジネス界のモデルケースにしなければいけないと思う。それには社員を鍛え抜くことが大切だ。鍛え抜くと辞める人も出てくる。辞める人が出ても鍛え抜く。それで1000億とか2000億円規模で国際的に戦って生き抜ける会社にしていこうと思う。鍛え抜いた社員に対しては、「115作戦」と言って、1000人に、10年間で、5000万円の資産を持たせようという作戦を練っている。
酷いブラック企業だ、社員をいじめ抜いてる、世間からそう言われたら受けて立つ。だけど先駆けて資産を持たせようとか、給料を上げようとか、休日を増やしていこうとか、こういうことをやろうとしてるのは本当にブラック企業ですか、よく考えてほしいと言いたいね。テンポスは「ひかるブラック企業」なんだ。「ひかるブラック企業」の商標登録を取って、キャッチフレーズとして会社案内にも載せている。社員にやさしいとか、個性を大事にするとかいっても、工場は閉鎖します、希望退職を募りますなどといったらリストラと同じだよ。立派なこと言ったってそれじゃ駄目なんだよ。
――社員に対する基本的な考え方は、どんなものでしょうか。
甲子園を目指すような学校の野球部に入ったら、「日曜日や雨の日でも練習するんですか」という質問はナンセンスだ。逆に、町内会の野球チームに甲子園を目指すような人が入って、日曜日の夕方、練習が終わってビールを飲もうというときに、今からトレーニングやろうとか言う、こんなのもナンセンスだ。
だから、テンポスでは甲子園を目指す人には、「激流コース」を設けている。一方で仕事が終わったら家へ帰って菊に水でもやりながら幸せを感じる「菊水コース」も設けてある。従業員が4300人もいるとわかるけど、甲子園を目指そうなんて人は1割かよくて2割でね、8~9割は菊水コースだよ。だから社員に、どっちの生き方でいきたいか選ばせる。
会社を辞めた人が戻ってきたいというなら大歓迎だ。なかには3回辞めて戻ってきた人がいるよ。社員は自分の意思で動いている。それを応援するのが会社の役割だ。甲子園を目指すというなら死ぬ気でトレーニングさせる。菊水なら菊水でいい。強制するわけじゃない。逆に、勤勉に一生懸命働かなきゃいけないというのは強制する。
それから、食えるようにならないうちから「利他の心」って言う、そんなきれいごと最初から言っちゃいけないんだ。自分の生活、家族が第一で、「利他」はそれができるようになったときに考えるものだ。自分の家族が食えるようになったら、困っている人を助ければいい。
一方で親や家族を大事にすることは強制させる。新卒募集のとき、初めて給料をもらったら親の前で正座して、給料袋を渡して床に頭をこすりつけて、「やっと自分で食えるようになりました。これから恩返しさせてもらいます」と、そういう儀式をやれる人でない限り、会社に入っちゃいけないと説明するんだ。
社長でも新幹線は自由席。費用対効果を重視する
――利益やコストに関してシビアに見ています。
まず、いい会社はちゃんと儲けてなきゃいけない。儲けというのは血液だ。だから会社が儲かって初めていろいろな手が打てる。
テンポスでは費用対効果を重視する。車で東京から大宮に行くのに高速道路を使っちゃ駄目だ。普段から時間効率なんて考えもしないくせに高速に乗るんじゃないと。新幹線は、社長の俺でも自由席だよ。タクシーは全社員、使ってはいけない。トイレの電気はつけてはいけない。俺が入ってトイレの電気がついていたら、「誰だ、電気つけたやつは!」と言って追及する。クーラーも32℃以下ではつけない。蛍光灯も半分は最初から外しているよ。これぐらいコスト管理は厳しい。
創業後、6年くらいはやたら儲かったんだ。儲けすぎちゃいけない、だけど儲けなきゃいけないという意味で「儲けるな 儲けろ」と言っていた。ところが会社の規模が大きくなると簡単には儲からない。だから今は、儲けなくちゃいけない、でも儲けすぎちゃいけない、という意味で「儲けろ 儲けるな」と逆に言っている。
評価についてもシビアに見ているよ。激流コースでがんがん成果を上げれば、20代でも責任者になれる。年功序列なんて考え方はないし、仕事に見合った給料を払うよう心がけている。忖度もない文字通りの実質主義なんだ。
また「人間性」という物差しをボーナスの査定に取り入れている。会社で決められたボーナスの10%を拠出して、グループ内で議論をして分け合うんだ。「あんた部長にいいことばっかり言って仕事さぼっているから失点」なんて、会社からの評価と異なる意見が出てくる。拠出分は、対人関係の中でいい影響を与えている人に厚めに配分される。多くの社員は、働きやすい職場で働きたいんだよ。労働環境もさることながら、人間関係というのは大事なんだ。
――創業の苦労とか、失敗とか、どんなことがありましたか。
創業前、脱サラして業務用食器洗浄機メーカーを立ち上げたが、新規事業に手を出して6つくらい失敗している。メーカーになって創業当初に失敗したことは、完成度が低い機械を売るから、使う人たちがガス中毒で意識不明になり、救急車で病院に運ばれたことだな。それから、大きな工場に入れた機械の不具合で工場の中を水浸しにしたこともある。
新しい試みはたいていが失敗する。ただ、挑戦を繰り返していれば芽が出ることもある。ベンチャーはリスクを伴うことに手を出す必要があるんだ。創業のときはえらい目にあったが、今はえらい目にあってもお客さんが意識不明になるわけじゃないし、工場が水浸しになるわけじゃない。えらい目にあってもたかが知れてる。お役に立てることに挑戦する、ポリシーや理念と呼べるようなものは、創業時から変わってないね。
日本人に志がなくなっている。新卒の7割が外国人に
――企業理念に「飲食店の5年後の生存率を上げることを目指す」とあります。
開店して5年後に潰れずに残っている飲食店は45%というのが現状だ。飲食店は参入障壁が低いから、ある程度大雑把にスタートできる。親類からお金を借りてスタートする場合も多く、真剣味が足りない。なんとかいけるだろうと甘く見ているからうまくいかない。それをサポートして、5年後の生存率を90%にまで上げたいんだ。
新店オープンするお客さんが大体毎月2000人いるんだよ。オープンふた月くらい前にA1サイズの大きさのポスターを無料でつくってあげるのだが、それを使おうとする人が100人にも満たない。あなたの会社のためになることだからといくら言ってもやらない人がほとんどだ。この飲食店の開業や経営をサポートする取り組みを「Dr.テンポス」と呼んでいる。損得でやるわけでなく、人助け的な利益の還元なんだ。テンポスは、「ビジネスサイエンティスト」を目指している。野口英世は黄熱病の研究で死んだ。言ってみりゃ、命をかけて人類のためにやっていたんだ。科学者っていうのは己の損得は関係ない。俺らはビジネス上で、その科学者の心構えでいこうと考えた。だから人の役に立つことを追求する。テンポスのノウハウは閉じ込めてはいけない。ノウハウを公開して、それを真似されたら真似されていい。だから皆さん真似しなさいよと言っているんだ。
――社員にはどういう人になってほしいですか。ユニークな人事制度がたくさんありますがその意図は何でしょうか。
まず社員は、その企業に残れる人間になるように自己啓発をしないといけない。社員にどんな人間になってほしいというよりも、「お前、何のプロになりたいと思ってやっている?」と聞くんだ。そして、「5年後、給料をどれぐらいもらいたいと思っている?」と。何のプロでどれぐらい給料をもらいたいかで、これからの毎日の仕事っぷりを自分で決めろと話すんだ。生活基盤をちゃんと築きながら、そのうえで親に感謝して、ご先祖のお墓参りをして家族を大事にする、テンポスの人財はこういう人でなくちゃいけない。
実は、今年に新卒採用した75人のうち7割ほどが外国人なんだよ。その多くが東南アジアから来た人だ。外国人を今年から採用するようにしたら、前向きな意欲や取り組み姿勢で選ぶと大半が外国人になったのが現実だよ。日本人に志がなくなっているわけだ。社会を動かしている大部分が、この30年間、停滞している日本の中で育ってきた、挑戦する気持ちが少ない世代ばかり。挑戦する気概が少ない親に育てられた子が就職面接を受けに来てるわけ。我慢してやり抜くという基準で選ぶと外国人に負けちゃう。家族を呼び寄せたいとか、国の父母にお金を送りたいとか、給料を上げるにはどういう働きをしたらいいのだろうとか、意気込みが違うんだよ。日本人にはないよね。
ドラフト制度とか役職者立候補制度、社長の椅子争奪戦といった初期に取り入れた人事制度は今も継続している。「ステーキのあさくま(グループ会社が運営する)」の社長は、4年前に社長の椅子争奪戦で決めた。テンポスの人事制度は、自分で自分の人生を切りひらくための制度だよ。人生は自分が決めてるんだから、人のせいにするんじゃないよって思う。

日本語学校をつくって3000人の外国人を送り込む
――「ビジネスサイエンティスト」「Dr.テンポス」など、命名がユニークですね。
俺はビジネスをするうえで法則性を発見・発明するのが得意で、その法則からキーワードを見出して命名するのが好きなんだ。最近、傑作だなと思ったのは、「カンタレス経営」。「ステーキのあさくま」で発見して命名された法則だよ。
カウンターがお客さんと売り手を分けている。だからお客さんとスタッフの境界線をなくし、カウンターレスで経営しましょうという意味だ。たとえば、店の駐車場の植木の手入れを庭仕事が好きなお客さんにやってもらう。すると自分の庭みたいに思えるんだな。それから料理好きなお客さんに家で料理を試してもらい、月に1回10人ほど集めて料理を披露してもらって試食をする。よさそうなメニューを10店舗ぐらいで実験してみて、よかったら定番にしていく。すると商品開発を顧客がやることになるんだよ。「カウンターレスな経営」で「カンタレス経営」。検索するとそんな造語がSNSにあがっているんだよ。面白いよな。
――今後の抱負についてお聞かせください。
3年前の売上が310億、2年前が370億で1年前が480億円、今年が650億円くらいの見込みだ。だから、あと2~3年で売上1000億円を実現したい。創業当初は、具体策は何もなく、訳がわからないうちにただ突っ走るところから始まった。今は、組織や人財、資金などが整ってきて、打つ手がはっきり見えるようになってきた。だからこれから加速度がついてくると思うんだ。戦前の子供が「陸軍大将になる」と言っていたように、目標とか抱負は公言することが大切だと思う。公言することで、自分に刷り込んでいくんじゃないのかな。
これから成長を見込めるのは、海外だ。飲食であれ厨房機器リサイクルであれ、人材派遣であれネット通販であれ、成長の場は海外なんだ。1000億円の売上目標を達成するために、昨年はミャンマーに日本語学校をつくった。今年はそれをもう5カ所ほどつくろうと考えている。来年は、10カ所ほどつくって、3年後には3000人の外国人を働き手としてテンポスに送り込めるような体制をつくるんだ。1000億円の売上規模だと、それぐらいのスピード感がないといけないだろうな。
取材・構成:會田広宣 写真提供:テンポスホールディングス
本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.15から転載したものです。登録不要、全編無料でお読みいただけますので是非ご覧ください。




































































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