インナーブランディングによる理念浸透の進め方。研修、社内報から企業出版まで具体的に解説
2025年12月18日更新

企業のインナーブランディングは、組織を内側から活性化し、従業員のエンゲージメントを高める重要な戦略です。本記事では、企業のインナーブランディングの成功事例を参考に、インナーブランディングによる理念浸透の進め方、研修や企業出版などの具体的な手法を解説します。
INDEX
インナーブランディングとは
インナーブランディングの定義と重要性
インナーブランディングとは、企業理念やパーパス、自社ブランドの価値を従業員に深く理解させ、共感を得るための活動です。従業員がブランドを理解し、それを体現することで、社内の人材の定着や、顧客体験の向上につながり、組織全体の成長が期待できます。インナーブランディングは、企業の持続的な成長に不可欠な要素であり、強い組織の根幹を形成します。
そのため、企業はインナーブランディングに積極的に投資し、従業員のエンゲージメントを高めるための施策を継続的に実施する必要があります。従業員の満足度向上、定着率の向上、そして優秀な人材の獲得にも繋がるでしょう。
アウターブランディングとの違い
アウターブランディングは、社外の顧客向けにブランドを構築する活動のことです。アウターブランディングは、広告や広報活動を通じて、企業のブランドイメージを外部に発信します。一方、インナーブランディングは、社内向けの活動を通じて、従業員のブランド理解を深め、ブランドへの共感を育むことを目的としています。
両者は相互に影響し合い、企業のブランドイメージを形成します。この両方が連携することで、一貫性のあるブランドイメージを構築し、社内外からの信頼を獲得することができます。
インナーブランディングの具体的な施策例
企業におけるインナーブランディングの施策には、次のようなものがあります。
- パーパスやミッション・ビジョン・バリューの策定
- 研修・ワークショップの実施
- 社内報の発行
- 社史の編纂
- 経営者の書籍出版
- クレド・手帳などの配布
パーパスやミッション・ビジョン・バリューの策定
従業員の意識を一つにまとめ、組織へのエンゲージメントを高めるためには、まず「企業として目指す姿」を明確にすることが重要です。
「この会社は何のために存在するのか」「何のために働くのか」「事業を通じてどのように社会に貢献するのか」......こうした問いに対する答えを言語化することで、従業員は働く意味や仕事の方向性を理解しやすくなります。
パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー、経営理念など呼び方はさまざまですが、大切なのは自社の実態や文化に合った形で定義することです。
これらが従業員一人ひとりに正しく理解されることで、組織への求心力が高まり、当事者意識や帰属意識の醸成につながります。インナーブランディング施策として、まず最初に取り組むべき土台となる取り組みです。
研修・ワークショップの実施
策定したパーパスや経営理念を社内に浸透させるためには、研修やワークショップの実施が効果的です。経営層から発表されただけでは、「理念は分かったが、自分の仕事とどう関係するのか分からない」と感じる従業員も少なくありません。その結果、経営理念やパーパスが形骸化してしまうケースも見受けられます。
研修やワークショップでは、経営理念を自分の業務や役割にどう落とし込むかを考える機会を設けます。自身の仕事と結びつけて理解できるようになることで、パーパスが「自分ごと」となり、日々の業務に対する意義や納得感が高まります。これは、インナーブランディングに直結する重要なプロセスです。
社内報の発行
社内報は、従業員同士の相互理解を深めるための有効なインナーブランディング施策です。
部署間で業務内容が見えにくかったり、キャリア採用の増加により「どんな人が新しく入社したのか分からない」といった状況は、多くの企業で起こりがちです。社内報で各部署の取り組みや従業員インタビュー、プロジェクト事例などを紹介することで、「同じ会社の仲間がどのように働いているのか」が可視化され、親近感や連帯感が生まれます。結果として、組織全体の一体感やエンゲージメントの向上につながります。
社史の編纂
創業周年などの節目に合わせて社史を編纂することも、インナーブランディングの有効な手段です。
会社の創業の背景や事業の変遷、困難をどのように乗り越えてきたのかといったストーリーを一冊にまとめ、従業員に共有します。
社歴の長い従業員にとってはこれまでの歩みを振り返る機会となり、愛社精神の醸成につながります。また、新入社員や中途入社の従業員にとっては、自分が知らなかった企業の歴史を学ぶ貴重な教材となります。企業の歩みを「物語」として共有することは、組織への理解と誇りを育てる重要な取り組みです。
経営者の書籍出版
経営者の想いや価値観を従業員に伝える手段として、書籍の出版も有効な方法の一つです。
経営者の想いを従業員に伝える方法は、会議、文章、動画などさまざまな手段がありますが、書籍は経営者の考えや経験を体系的かつ深く伝えられる媒体です。
創業のエピソード、事業への想い、事業活動を通じて得られたエピソードなどをまとめることで、従業員は経営の根底にある思想を理解しやすくなります。
また、社内配布だけでなく、社外向けに発信することで、アウターブランディングにも活用できる点も特徴です。インナーとアウターの両面に効果を発揮する施策といえるでしょう。
PHP研究所では、松下幸之助の著作をはじめとして、日本経済を支える経営者たちのものの見方・考え方をまとめ、組織の発展に寄与する本づくりに注力してまいりました。
仕事の意義の理解、使命感の醸成を目的としたインナーブランディングはもちろん、企業が持つ強みや想い、事業のストーリーを伝えファンを増やすアウターブランディング施策としてもご活用いただけます。
クレド・手帳などの配布
パーパスや行動指針(クレド)を、カードや手帳など持ち運びしやすい形にまとめて配布する施策も定着に効果的です。
研修やワークショップで理解を深めても、日常業務に追われる中で理念を意識し続けるのは簡単ではありません。
日々目に触れるツールとしてクレドや社内手帳があることで、折に触れて原点を思い出すことができ、理念の定着を後押しします。
小さな施策ですが、継続的なインナーブランディングには欠かせない取り組みの一つです。
施策は「単発」ではなく「継続」と「連動」が重要
ここまで紹介した施策は、単体で実施するよりも、複数を組み合わせて継続的に運用することで、より大きな効果を発揮します。
たとえば、パーパスを策定し、研修で理解を深め、社内報で日々の実践事例を共有し、クレドで行動に落とし込む、といったように、点ではなく"線"で設計することが重要です。
インナーブランディングは短期間で完結する取り組みではありません。企業の文化として根づかせていくためにも、長期的な視点で、継続的に取り組んでいくことが成功の鍵となります。
インナーブランディングのメリットと効果
インナーブランディングを行うことで、次のようなメリットと効果があります。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 企業文化の醸成と一体感の向上
- 採用活動への好影響
従業員エンゲージメントの向上
インナーブランディングにより、従業員は企業への愛着と誇りを感じ、仕事に対する主体性や積極性が養われます。従業員が企業の理念や目標に共感し、自身の役割を理解することで、仕事に対するモチベーションが向上し、積極的に業務に取り組むようになります。エンゲージメントの高い従業員は、顧客満足度の向上や企業の収益向上にも貢献します。また、長く定着する従業員が増えれば、離職率の低下にも繋がり、人材育成コストの削減も期待できます。
企業文化の醸成と一体感の向上
共通の価値観や目標を共有することで、組織全体の一体感が生まれます。これにより、部署間の連携が円滑になり、組織全体のパフォーマンスが向上します。インナーブランディングは、企業文化を醸成し、組織全体の一体感を高める上で重要な役割を果たします。変化の激しいビジネス環境のなかで生き残るためには、従業員が一体となって同じ方向に向かって力を結集させることが必要不可欠です。インナーブランディングを通して、そのような企業文化と一体感を醸成することができるでしょう。
採用活動への好影響
インナーブランディングに成功している企業は、従業員のエンゲージメントが高く、結果として優秀な人材の獲得にも繋がります。従業員がイキイキと働く魅力的な企業は、学生や求職者にとって大きなアピールポイントとなります。求職者は、企業の採用サイトやSNS、口コミサイトなどを通じて、企業の評判や企業文化に関する情報を収集しているケースが多くあります。従業員からの評判が高ければ、求職者にとって魅力的な企業として認識されます。インナーブランディングは、企業の魅力を高め、優秀な人材の獲得競争において優位に立つための重要な要素となります。
インナーブランディングの成功事例
インナーブランディングを成功させている企業は、どのような取り組みを行っているのか、具体的な事例をご紹介します。
- ピジョン株式会社:パーパスの浸透で共感と意欲を引き出す
- 株式会社東横イン:リブランディングで「選ばれる会社」を再定義
- 京セラ株式会社:社史を「社員教育の教材」として活用
ピジョン株式会社:パーパスの浸透で共感と意欲を引き出す
・パーパスの策定
ピジョン株式会社は、「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」というパーパスを新たに策定しました。
同社にはすでに経営理念として「愛」や社是「愛を生むのは愛のみ」がありましたが、新たに策定したパーパスは、社会に対する使命をより具体的に示し、日々の行動に結びつきやすい言葉として再定義されたものです。
その背景には、経営が安定し処遇も改善する一方で、30代の中堅社員の離職が増えはじめたという課題がありました。そこで、自社の存在意義をあらためて明文化し、社員全員が同じ方向を向いて進める組織をつくるために、パーパスの策定を行いました。
・冊子『グローバルパスポート』の配布によるパーパス浸透
パーパスの浸透施策として、国内外全社員へ手帳サイズの冊子『グローバルパスポート』を配布。基本姿勢や経営理念などをまとめた「Pigeon Way」を3か国語で制作し、全社員がいつでも見ることができます。
パーパス浸透のために、繰り返し目にするツールとして活用しています。
・社内報の刷新
従来の社内報は発行しても読まれていない状態が課題でした。
そこで名称・内容・発行頻度をすべて見直し、社内報を「Loop」として刷新。発行頻度は週1回に増やし、国内外約2,000名の社員が専用Webで閲覧できる仕組みを構築しました。
社内の出来事や社長のメッセージ、社員インタビューなどを発信することで、組織内の情報循環と一体感の醸成に成功しています。
参考:[実践]理念経営Labo Vol.3(2022 AUTUMN)
株式会社東横イン:リブランディングで「選ばれる会社」を再定義
・コーポレートパーパスの再構築
新型コロナウイルス感染症の拡大により、東横インのホテル稼働率は大きく低下。業績悪化にともない人材流出が進み、そこに全国旅行支援による需要回復が重なったことで、人手不足が深刻化するという状況に陥りました。
この局面を打開するため、同社は「お客様からも、社員からも、一番に選ばれる会社であるために」という想いのもと、企業のDNAを残しながら新しく生まれ変わるリブランディングを決断。ロゴ、経営理念、行動指針をすべて見直しました。
・冊子『東横インHEROS みんなの物語』の制作
東横インで働くべての人たちのために、ハンドブック『東横インHEROES みんなの物語』を制作。経営方針やマニュアルのようなものではなく、誰にもわかりやすく、東横インのスタッフ一人ひとりが自分事として共感できるものにするため、社員の行動指針などが、楽しいイラストを交えてまとめられています。入社時に読んで東横インの考え方や姿勢を理解するのに役立つのはもちろん、仕事をするうえで迷ったり疑問を持ったりした際に見返せば、改めて東横インが大切にしているもの、自分がすべきことを確認できます。
※冊子制作はPHP研究所が担当
参考:[実践]理念経営Labo 13(2025 SPRING)
京セラ株式会社:社史を「社員教育の教材」として活用
・社史の編纂による理念浸透
京セラ株式会社では、社史の制作を「単なる歴史の記録」ではなく、社員教育のための教材として位置づけて取り組みました。PHP研究所が制作を担当するにあたり、京セラ株式会社の塚田俊彦様に次のようなコメントをいただきました。
会社の社史を制作するにあたり、PHPさんにご協力をいただきました。
引用元:企業出版・ブランディング出版|経営者本ならPHP研究所
制作をするうえで、はじめに創業者の稲盛からは「ただ"歴史"を事実の羅列として本にしたって意味がない。 "社史"というものは社員のために残すもので、社員が読んでためになるものでなくてはならない」と言われました。
社内で集まった編纂委員たちはそのことを念頭に、京セラの歴史を通じながら、京セラフィロソフィや経営理念が、会社の発展に果たす役割の大切さについて学べるよう、PHPさんからいろいろ知恵を借りながら制作しました。
書籍にまとめられたような稲盛の発言も、その時の京セラの状況や歴史的背景とセットにし、会社の状況を学びながら、どうして稲盛がそうした発言をしたのか、よりよくわかる社史になりました。
インナーブランディング成功企業に共通する3つのポイント
今回ご紹介した3社の事例には、業種や規模は違っても、インナーブランディングを成功に導く共通点が見られます。
- (1)理念・パーパスを「わかりやすい言葉」で言語化している
- (2)理念を「伝えるだけ」で終わらせず、行動につなげている
- (3)単発ではなく「継続的」に取り組んでいる
(1)理念・パーパスを「わかりやすい言葉」で言語化している
ピジョンのパーパスや、東横インのリブランディングに見られるように、成功企業はいずれも「自社は何のために存在するのか」「社会にどんな価値を提供するのか」といった問いに対する答えを、社員が理解しやすい言葉で明確に表現しています。
パーパスや理念が抽象的なままでは、行動にはつながりません。誰もがイメージできる言葉に落とし込むことが、すべての出発点となります。
(2)理念・パーパスを「伝えるだけ」で終わらせず、行動につなげている
冊子の配布、社内報の刷新、社史の編纂など、各社はいずれも理念を単に「掲げる」だけでなく、社員の行動や日常業務と結びつける仕組みづくりまで落とし込んでいる点が特徴です。
研修や冊子、社内メディアといった施策を通して、
・自分の仕事と理念はどうつながっているのか
・日々の判断や行動にどう生かすのか
を社員自身が考える機会が提供されています。これにより、理念やパーパスがより自分の仕事の目的と結びつきやすくなります。
(3)単発ではなく「継続的」に取り組んでいる
インナーブランディングは、一度の施策で劇的に成果が出るものではありません。
成功している企業ほど、理念・パーパス策定→浸透施策→情報発信→振り返り、というサイクルを回しながら、長期的な視点で取り組み続けています。
社内報の定期発行や、冊子の活用、社史による教育など、「繰り返し触れる仕組み」をつくり、文化として根づかせている点が大きな違いといえるでしょう。
まとめ
インナーブランディングは、社員一人ひとりが企業の価値観を理解し、自分ごととして行動に落とし込めるようにするための重要な取り組みです。パーパス策定、研修、社内コミュニケーション、クレド運用など、さまざまな施策を"点"ではなく"線"としてつなげ、継続的に運用することで、企業文化は着実に育っていきます。
短期的なキャンペーンで終わらせず、長期的な視点で組み立てることが、成果を最大化する鍵です。社員が同じ方向を向き、組織の力を最大化するためにも、自社の現状や課題に合わせてインナーブランディング活動を進めていきましょう。




































































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