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管理職として部下に厳しい要求をするときには~松下幸之助に学ぶ指導者の心得

管理職として部下に厳しい要求をするときには~松下幸之助に学ぶ指導者の心得

(2017年4月10日更新)

 
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管理職は部下の理解者であるだけでなく、要求者としての顔をもたなければなりません。部下に厳しい要求をするとき、どのような態度で臨むべきでしょうか。松下幸之助にその心得を学びます。

 

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管理職は理解者であり要求者であらねばならない

経営者と部下とのあいだで中間管理職である上司は、ときに厳しい要求、困難なミッションを部下に与えるような状況に迫られます。理解者としての役割の一方で、要求者の顔ももたなければならないということです。

昨今では、部下とのコミュニケーションの質が問われ、会話の盛り上げ方、傾聴の仕方といったスキルを学ぶ機会も多くなり、要求者であることよりも、もっぱらよき理解者であることが強く求められているような気がします。

ただ、上司は部下とは、円満な関係性だけを追い求めていけばよいのではありません。土台として信頼関係を築きながら、上司は部下に、ときには高いハードルに挑戦させることも必要になってきます。

 

部下のやる気に火をつける永守社長の教え

筆者は以前、日本電産の永守重信社長からこんなことを聞きました。

働く人間には3つの種類があるという話です。それはまず、自分で自分に火をつけて、燃える情熱でもって行動していく人、次に、いくら火をつけても燃えない人。この2種類の人間はいずれもたいへん少ない。そしてもう一種類。ほとんどの人間は、火をつけてもらえば、それなりに燃えて働いてくれるものだというのです。

ですから永守社長は、部下を育てるために、非常に高いハードルを部下に課してきたといいます。つまり、よく理解したのちは、要求者として、自分の言葉、語り口で、しっかりと部下のやる気に火をつけてあげなければいけないというわけです。

 

「幸せだよ、君は」――松下幸之助の場合

松下電器(現パナソニック)を、一代で小さな町工場から世界的企業へと育て上げた松下幸之助も、常々「リーダーは要求者たれ」と訴えていました。エピソードをあげてみましょう。

昭和30年、松下電器東京営業所の無線課長が、九州の小倉営業所へ所長として転勤せよ、との内示を受けたことがありました。課長は年がちょうど働き盛りの35歳、明らかに栄転でもありました。しかし、課長の心は必ずしもはればれしたものではなかったのです。

営業所長ともなれば、地域全体の経営、販売、人事と、すべてを見ていかなければならない立場です。それに加えて、九州は以前、松下電器の勢力が強く、いわば金城湯池の地だったのですが、最近は電化ブームで市場が戦国時代に突入し、松下の勢いも下がり気味で、きわめて厳しい状態でした。“これはたいへんなところへやられるな……”

東京での生活が長かったその課長にとって、九州はまた、遠い、見知らぬ土地でもありました。

そんな内心の不安を隠して辞令交付に臨んだ課長に、幸之助はこんな言葉をかけたのです。

「君、こんどは九州だよ。九州はね、実はいま状況が悪いんだ。昔はものすごくよかったんだが、いまはいうなれば最低の線だ」

「……」

「ということはだね、君がこれから行って何かをすれば、その分だけ必ず業績が上がるということだ。もうこれ以上悪くなりようがないんだから。一所懸命やっても業績が上がらんというところもある。しかしね、君がやればやるだけ業績が上がるというのは、君、いいところへ行くね。幸せだよ、君は」

 

その課長は意気揚々と九州に向かっていったそうです。

 

要求者としてのセンスが問われる

さて、この幸之助の話しぶりはいかがでしょうか。どこかに嘘があったでしょうか。誇張があったでしょうか。もちろん詳細はよく分かりません。けれども、はっきりしていることは、現実はどういう状況なのか、そして今回の赴任がいかに意義あることかがとても簡潔で明快に説かれているということです。

難度の高いミッションであること、あるいはだれもが望まない仕事であることが分かっているにもかかわらず指示を出さなければならないとき、上司はどんな態度で臨むべきか。

部下の顔色をうかがいつつ、申しわけなさを前面に出し、頼み込むような面持ちで話を切り出すのがよいのでしょうか。それとも冷徹、事務的に淡々と命令を下すのがよいのでしょうか。

答えはそのいずれでもなく、何よりまず厳しい条件下にある現実を率直に正確に伝えること。そして次には、上司としていかに期待をこめてこのミッションを託しているか、素直な思いを自分なりの表現で述べること。この二つに尽きるでしょう。ただ、それにしても幸之助は、他人の心に寄り添い、励ますことができる不思議なセンスを持っていたことを感じさせられます。

 

会社の中間管理職が、要求者としての幸之助のような細やかなセンスを養っていけば、組織の一体感は否が応にも高まるのではないでしょうか。

 

 

部長研修

 

【著者プロフィール】

渡邊祐介(わたなべ・ゆうすけ)

1986年、筑波大学社会工学類卒業。同年、PHP研究所入社。普及部門を経て、88年5月に出版部に異動。多くの単行本制作に携わる。95年10月に研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。98年4月より3年間、紀要『松下幸之助研究』を企画編集。2001年4月、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)に留学。03年3月、同大学大学院博士前期課程修了。修士号(経済学)取得と同時に復職。松下理念研究部主任研究員、研究部長、研究出版事業部長、研究企画推進部長を経て、現在、経営理念研究本部次長。経営哲学学会理事。企業家研究フォーラム幹事。


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