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松下幸之助に学ぶ 部下のやる気を引き出す管理職の要件

2017年1月12日更新

松下幸之助に学ぶ 部下のやる気を引き出す管理職の要件

厳しく叱って鼓舞するのか、優しく励まして背中を押すのか――部下のやる気を引き出し、能力を発揮させる管理職の要件を、松下幸之助に学びます。

厳しく諭すか、優しく背中を押すか

管理職というものは、部下に対してさまざまなことで指導をしなければなりません。ときには細かく、厳しい指導を要する場合もありましょう。

ただし、ここだけはという大切な部分があるのではないでしょうか。それは何かというと、どんな指導をするにせよ、部下のモチベーションをつぶしてはいけないということです。

部下のほうでも元来、指導を受けるのは当然のことだと思っています。けれども、自分なりに精一杯の努力をしたのに、もしくは苦労に苦労を重ねたのにうまくいかなかったとします。そこで、厳しい指導を受けると、さすがに心が折れそうになる。結果がともなわないとき、なお現場で厳しい姿勢を示して鼓舞するのか、それとも優しく部下の背中を押してあげるのか、上司もそれぞれ、部下もそれぞれであり、答えはないのかもしれません。

管理職は「人間通」でなければならない

こうしたときに重要なのは、上司として部下の心をどこまで汲み取れるか、そしてどういう心持ちにしてあげるのがよいかということでしょう。それが分かるようになるには、やはり人間に対する洞察、哲学的見解が具わっていることが求められます。

松下幸之助は、「人間の心の動きには、千変万化の複雑さの中にもおおむね誰にも共通する一般的な原則がある。たとえばほめられればうれしいし、叱られれば悲しくなる。また誰もが他人から認められたいと願っているし、自分の能力、持ち味を発揮することに喜びを感じるものである」として、「指導者はそうした人間としての特性をよく把握し、人情の機微に通じた人間通にならなければならない」と考えていました。

1961(昭和36)年には、幹部社員に次のようなことを訴えています。

「人間の心というものは非常に変化性がある。今は非常に愉快に笑っているかと思うと、また次の瞬間に悲観するようなことが起こってくればそうなる。それほど変化性がありますからね。これがつけ目といいますか、お互いが考えなければならんことやと思います。

そういう変化性があるから、努力すれば努力するだけのかいがあるわけです。職場を愉快にし、そしてみんなが喜んで働くというようにもっていくには、やはりそういう工夫をすれば、人間は必ずそうなるようにできている。だからそういうふうに努力するかいがある、ということになるのです。そういう人間の心の動きというものを、経営者といいますか、皆さんのように指導的な立場に立つ人は、よほどつかまねばいかんと思います」

「もう1杯おかわりを」

幸之助の指摘はもっともですが、部下の心を慮るためには少なからず努力が必要でしょう。幸之助がしたことは何かというと、一つは人間に対する深い思索。そして、おそらく、日々の現場で目の前の部下の心情を常に探り、汲み取ろうとしていたのではないかと思うのです。

そうした心がけを思わせる次のようなエピソードが残っています。

「昭和40年代、松下電器(現パナソニック)炊飯器事業部では、学校や病院の給食、将来の外食産業の需要をみこして、業務用炊飯器の開発に着手し、試作品を完成させました。それは、1度に大量のご飯が炊けるのはもちろんのこと、フタも軽く、ハンドル1つで炊きたてのご飯を取り出すことができたし、水洗いも簡単にできる、当時としては画期的なものでした。

技術者たちは試作品を持って本社での重役会にのぞみ、開発のねらいや新製品の特徴等について熱のこもった説明を行いました。ところが、重役たちの反応はもうひとつ盛り上がったものにはなりませんでした。

やがて昼食の時間がきて、幕の内弁当が配られました。そこには、試作品で炊いたご飯が試食のために添えられていました。そのときご飯をおかわりした人が1人だけいました。幸之助でした。こう言ったのだそうです。

『この炊飯器のご飯、おいしいな。もう1杯おかわりを』」

そのひと言は、技術者たちにとって、どのような激励やほめ言葉よりうれしく、この会議に出席していた技術者の1人は「食が細いということを聞いていたのに、 "もう1杯おかわりを"と言われたときは、ほんと、もう胸がいっぱいになりました」と、後に語っています。

部下の労をねぎらい、さらにモチベーションを高めるにもいろいろな表現があることでしょう。管理職として部下の心を汲み取り、日々気持ちよく前向きに働いてもらう努力を怠らないようにしたいものです。

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渡邊 祐介(わたなべ・ゆうすけ)
PHP理念経営研究センター 代表
1986年、(株)PHP研究所入社。普及部、出版部を経て、95年研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。2003年、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)修了。修士(経済学)。松下幸之助を含む日本の名経営者の経営哲学、経営理念の確立・浸透についての研究を進めている。著書に『ドラッカーと松下幸之助』『決断力の研究』『松下幸之助物語』(ともにPHP研究所)等がある。また企業家研究フォーラム幹事、立命館大学ビジネススクール非常勤講師を務めている。

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