経営者の決断、意思決定はどうあるべきか~松下幸之助、素直な心と自己観照
2025年2月28日更新
松下幸之助は、経営者にとって「自己観照」と「素直な心」が重要であると述べています。自らの適性や能力を正しく認識できていなければ、重要な経営判断を誤る可能性があるからです。本記事では、松下幸之助が意思決定において重視してきた考え方について解説します。
素直な心で自己観照に努め、撤退を決断
松下幸之助は、1964年に、当時の松下通信工業が行っていた電子計算機(大型コンピューター)事業からの撤退を決断しました。電子計算機は将来有望な事業であり、同社はすでに十数億円の研究費を投じ、試作品も完成させ、さらにはオランダのフィリップス社との提携による新会社設立の計画まで進めていました。また、国内の主要企業七社が共同で出資し、日本電子工業振興会を設立するなど、まさに事業拡大の最中でした。
しかし、アメリカのチェースマンハッタン銀行の副頭取との会話が、幸之助の決断を後押ししました。その副頭取は「電子計算機を手がけた欧州の電機業者のうち、何社かは倒産している。アメリカでもIBM以外は苦戦しており、日本の七社は多すぎる」と指摘しました。この意見を聞いた幸之助は、以前から抱いていた「国内企業が多すぎる」という考えを再認識し、撤退を決意しました。
この決断には大きなリスクが伴いました。将来性のある事業から手を引くことで、「松下には技術力がない」といった悪評が立ったのです。しかし、幸之助は批判を受け入れながらも、根気強く耐えました。素直な心で自己観照に努め、自分の判断が正しいと確信したからです。そして結果的に、日本の電子計算機業界は再編を余儀なくされ、幸之助の判断が賢明であったことが後に証明されることとなりました。
経営者に必要な自己観照
このエピソードからもわかるように、経営者には時に重い決断が求められます。周囲の声に流されて判断が揺らぐようでは、優れた経営者とは言えません。幸之助は、「他人の成功をそのまま真似ても、自分に合わなければうまくいかない」と考えていました。
たとえば、ある商店の主人が自分の適性や能力を考えず、周囲の流行や他店の成功事例を安易に取り入れたとしても、うまくいかないということは往々にしてあります。
これは、自分の力や適性を見極めずに、他人のやり方にとらわれた結果です。
自分の力や適性をわきまえるには、日々の自己観照により、自分を正しく認識することが大切なのです。
また、自己観照をしているつもりでも、自己本位に陥る危険性があります。幸之助自身も、この点について警戒すべきだと述べています。
人間は往々にして「自分のことは自分が一番よく知っている」と考えがちですが、実際には自分自身を客観的に評価することは難しいものです。
自分の考えや行いが正しいかどうかは、自分よりも他人のほうがよく分かることも多いでしょう。
もし自己本位の考えを押し通せば、物事は円滑に運ばず、他人を傷つけたり、自分自身が苦境に陥ったりするでしょう。さらに、社会の指導的立場にある人が自己本位の考えに固執すれば、その影響は周囲の人々にも及び、組織全体を誤った方向へ導いてしまう危険性があります。
そのため、経営者をはじめ、組織のリーダーは特にそのことを自覚し、素直な心で自己観照に努めることが重要です。
大切なのは志、他人による観照も
自己観照を完全に行うことは容易ではありません。そのため、幸之助は他人に自分を観察してもらうことの重要性を強調しています。
「自分がどのような人間で、どんな長所や短所を持っているのかは、自分よりも他人のほうがよく知っていることが多い」と、幸之助は述べています。上司や先輩、部下など、信頼できる人々に意見を求めることで、自分では気づかなかった点を知ることができます。
ただし、他人の意見を受け入れるには、「素直な心」が不可欠です。自分の判断が常に正しいとは限らないことを理解し、謙虚な姿勢を持つことで、成長につながります。幸之助は、「自己観照が完全でなくとも、他人の意見を素直に聞く姿勢があれば、経営者として上達できる」と語っています。
自己観照が完璧にできるかどうかよりも、自分の力や適性を正しく認識し、自分にふさわしい行動をしようとする志を持つことこそが、何よりも大切なのです。
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