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部下に安心して任せられる仕事は何割?~松下幸之助に学ぶ指導者の心得

部下に安心して任せられる仕事は何割?~松下幸之助に学ぶ指導者の心得

(2017年1月27日更新)

 
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できる管理職は、成功の要因を聞かれると「部下に恵まれた」と答えることが多いものです。では、できる管理職のもとには、安心して仕事を任せられる思い通りの部下が集まるものなのでしょうか。

 

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思い通りの部下はいますか

以前、「成長しない部下を嘆く管理職」の話をしましたが、逆に考えると、できる管理職は仕事で思うような成果をあげた際に、その要因を問われると、「部下に恵まれたこと」と答えるのではないでしょうか。優秀な成績を収めたスポーツチームの監督やコーチも、慣用句のように「選手に恵まれた」と口にします。

けれども、本当に名監督、名コーチのもとには名選手、才能豊かな、また自分の意をよく解してくれる選手が集うものなのでしょうか。

そのコーチがすでに確たる名声を得ていたら、評判が評判を呼んでそうなるのかもしれませんが、どんな名コーチでも、最初から人材に恵まれていたわけではないでしょう。

 

松下幸之助(パナソニック創業者)は名経営者といわれましたが、成功した理由をマスコミに問われたとき、その一つとして「人材に恵まれていた」ことをあげています。

それはもちろん本心から出た言葉でしょう。

ただ、一方でこんな事実もあります。創業期の松下電器(現パナソニック)は人材難であったということです。昭和初期、大卒の優秀な若者の多くは財閥系の大会社に雇用され、小さな町工場にすぎない松下電器は、とても能力が高い社員に恵まれていたとはいえなかったのです。昨日雇用した社員が今日もちゃんと来てくれるだろうかと、幸之助は毎朝、会社の門で社員の出勤を見守っていたといいます。

そうした人材難であったにもかかわらず、のちには「人材に恵まれていた」と述懐できるようになるところに、幸之助の人材育成、部下指導の妙があるといえるのではないでしょうか。

 

6割は気に入らないとしても

松下幸之助の人材育成について、次のようなエピソードが残っています。

 

「君のとこいま部下何人おるのや」

と幸之助が、ある課長に尋ねました。

「主任が3人おります」と課長が答えます。

幸之助はさらに質問を重ねました。

「その3人は、君の言うことをよく聞いてくれるかね」

「はあ、よく聞いてくれます」

そう答えた課長に、幸之助は意外なことを言いだしました。

「それは結構や。ところで君な、ぼくはいろいろ決裁しておるやろ。それを見て、世間ではぼくのことをよくワンマンだとか言っているらしいが、しかしな、ぼくが初めからこれでいいと思って決裁しているのはだいたい4割ぐらいやで。あとの6割は気に入らんところもあるがオーケーしているんや」

「はあ」

「しかしな、君、そのオーケーしたことが実現するまでに、少しずつ自分の考えている方に近づけていくんや。もちろん、命令して自分の思うように事を進めるのも1つの行き方ではあるが、一応決裁はするが、そのあと徐々に自分の方に近づいてこさせるのも、責任者としてのまた1つの行き方だと思うんや」

 

安心して部下に任せられる仕事は4割

このエピソードには、部下を成長させる上においてたいへん貴重な示唆が含まれているのではないでしょうか。ともすれば上司というものは、10割とは言わなくても8割は自分の考えに賛同し、自分の方針、やり方を理解して仕事を進めてくれるのが部下だと思い込んでいます。

 

けれども、松下幸之助にしても、いや松下幸之助だからこそ、部下の判断や行動に安心して任せているのはせいぜい4割というのです。そして、最初は4割の状態から、自分とのやりとりの中で自然に自分の仕事観やスキルを伝え、最終的に、部下が正しくかつ確実に成果が出せる行き方に近づけていくわけです。

 

根気、忍耐、寛容の上に立って部下とともに汗を流し、成果をあげた部下を見て、心の底から「部下に恵まれている」と言える。管理職たるもの、本来はそうした姿勢で臨まなければならないのでしょう。

 

相手の自主性に従いつつ導く

松下幸之助は常々、「従いつつ導く」と話していました。注意したいことはたくさんあるのです。ただ、そこで叱るのか、諭すのか。幸之助は言います。

「何も注意しなかったかというとそうでもない。責任者として言わなければならないことは言います。けれどもその際、自主的な意欲に水をささないよう、言い方に気をつけてきたわけです。何かを頼んだり、何かをやってもらうとき、決してやる気を失わせないよう、相手の人の自主性に従いつつ導いていく、むずかしいことですが、これが大切なことではないでしょうか」(松下幸之助著『人生談義』PHP文庫)

 

やる気を尊重しながら助言を重ね、確実に部下を導いて成果を出す――世の管理職の皆さんにも、精進を重ねて、この上司としての醍醐味を味わってほしいものです。また、企業の人材育成に携わる方にとっては、そのような管理職を育てることが使命といえるのではないでしょうか。

 

課長研修

 


 

【著者プロフィール】

渡邊祐介(わたなべ・ゆうすけ)

1986年、筑波大学社会工学類卒業。同年、PHP研究所入社。普及部門を経て、88年5月に出版部に異動。多くの単行本制作に携わる。95年10月に研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。98年4月より3年間、紀要『松下幸之助研究』を企画編集。2001年4月、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)に留学。03年3月、同大学大学院博士前期課程修了。修士号(経済学)取得と同時に復職。松下理念研究部主任研究員、研究部長、研究出版事業部長、研究企画推進部長を経て、現在、経営理念研究本部次長。経営哲学学会理事。企業家研究フォーラム幹事。


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