いまどきの新入社員が「買い」なわけ~堀場厚
2014年6月10日更新
22年で売上3倍超、世界のHORIBA・堀場製作所を率いる2代目社長・堀場厚氏は、「人こそ企業にとってのかけがえのない財産」との考えから、人材を「人財」と捉え、教育に力を入れています。
そして「いまどきの新入社員は個人的には『買い』だと思っている」と言います。今どきの若者に対する悲観的な論調が目立つなか、堀場氏がそう言い切る訳とは? 著書『難しい。だから挑戦しよう』からの転載でご紹介します。
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堀場製作所は、日本では毎年40~50人ほど、グループ会社を含めると80~100人の新入社員を採用するのだが、最初のエントリー数は7000人ほどいる。そのうち6~7割が技術系で、人事に「社長もいまだったら堀場に入れません」と言われたが、相当な難関になってきたようだ。
ただ、面接を3回すると「おもろい奴」が入ってこない。だからあえて「10%はおもろい学生を入れろ」と人事に指示している。
「おもろい学生」とは、やたらとんがった奴とか、こだわり系とか、ふらふら3年ほど海外をほっつき歩いていた奴とか、とにかく変わった学生のことだ。堀場にも必ずこういう変わった学生がやってきてくれるのだが、面接を3回すると、残念ながら面接を担当した幹部は彼らを落として無難な人を選んでしまう。「こいつ誰が採ったんや」と言われるリスクを回避するためなのだろう。
だが私からすると、ものづくりの現場に必要なのはユニークな視点や強烈なこだわりを持った人財だ。以前も国体枠のアーチェリー選手で入社した社員がいたが、あれよあれよという間に能力を発揮して出世した。学力や第一印象だけでは花開く未来は到底わからないのである。
とは言うものの、いまどきの新入社員は個人的には「買い」だと思っている。
「最近の若者は保守的で、生命力が弱く、行動力がない。彼らに任せると、日本は衰退してしまう」という論調をよく耳にするが、私はそう悲観する必要はないと思う。いまの若者はこれまでの人たちと比べ、持っている「良さ」が少し違うだけではないか。
当社の若手を見て感じるのが、その優れた柔軟性だ。最近は新しい市場として大きく発展しているブラジル、インド、ベトナムなど、いままでは日本人を送り込んでいなかった国にも赴任してもらっているが、以前から人気の高かった欧米のような先進国ではなく、新興国や発展途上国に行ってチャレンジしたいという社員が着実に増えている。
私もインドに1週間出張したときに各地を訪問したが、食事はご想像のとおり。毎日カレーベースのメニューだが、そのうちカレーの味の違いがわかり、旨味がわかってくるから不思議だ。現地に赴任して生活する間に現地の食事の良さが理解でき、そのうちに味を見分けられるようになる。こうして現地に馴染んだ社員はしっかりとその国の組織もマネージできるようになるのだ。
このように中進国や後進国でも柔軟に対応できる若者を見ると、昔よりもたくましい若手社員が多くなったと感じる。
人それぞれ多様な良さを持ち合わせ、新たな可能性を秘めた社員が入ってくるからこそ、私は一定数以上の採用を毎年途切れさせないことが経営にとって必要だという哲学を持っている。
なぜそういう考えに至ったかというと、当社もかつて景気が悪いときには採用を少なくしたりゼロにしたりしたことがあって、人財のつながりがなくなり大きな問題を長年にわたって持つことになった苦い経験があるからだ。
採用を抑えた年は確かに人件費を抑制できるが、後々にそれ以上の弊害を生む結果になった。会社が伸びようとするときに、もっとも必要な生え抜きの中堅社員の枯渇がボディーブローのように効いたのだ。人財の幅と陣容にバラツキが出てしまい、成長に必要な多面的な組織が組み上げられなくなってしまった。企業経営やマネジメントを10年単位のスパンで捉えていない人たちには、このインパクトの大きさと真の怖さはわからないと思う。
この歳になって感じるのだが、若いころにはあまり気にせず重要視しなかった「慎重さ」が増してきたようだ。私なりに分析すると、人は人生の残り時間が少なくなるほどに、何か失敗して大きなダメージを受けると取り返しがつかない、との思いが強くなってくるからではないかと思う。
しかし勝負の世界は守りに入ると、負け戦になるのが必定。慎重であることは大切だが、度が過ぎれば、日々前向きの決断を迫られるビジネスマンにとっては、ある意味最大のジレンマを抱えることになりかねない。
若い人は仮に失敗しても、本人にはまだまだ時間的余裕があり、先があるし、会杜にとっても任せている職務範囲が小さいためダメージが少ない。言い換えればいくらでもチャレンジする権利が与えられているのだ。その意味でもがむしゃらに、そして貪欲にチャレンジして攻める気持ちを持ちつづけてほしい。
そのなかにおいて行動を起こすうえで特に大事にしてほしいのが、自分の特長、強みを見つけ出し、あるいはつくり上げることだ。
つまり、技術、技能を磨き、専門性を高めること。「あなたは何のプロなのですか」という問いに、世間に対して自信を持って答えられるようになれば合格点だ。無理に焦って早くから決め打ちする必要はない。当たり前だが入社当初からプロである社員などいない。しかし、時間を経て努力して初めてそのレベルに到達するものだということを、しっかりと肝に銘じてほしい。
堀場厚 (ほりば・あつし)
1948年京都生まれ。株式会社堀場製作所代表取締役会長兼社長。71年、甲南大学理学部を卒業後、オルソン・ホリバ社(米国)入社。翌年、堀場製作所に入社し、アメリカの子会社出向。かたわら75年カリフォルニア大学工学部を卒業、77年にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科を修了し、堀場製作所海外技術部長となる。82年に取締役海外本部長、88年専務取締役営業本部長を経て、92年より代表取締役社長。2005年に会長兼務となり現在に至る。カリスマ創業者の堀場雅夫最高顧問を父に持つ2代目。しかし社長就任以来、22年で売上高3倍以上、27カ国に拠点を持つ世界的企業に会社を成長させる。98年にフランス共和国より国家功労賞オフィシエ、10年には再びフランスよりレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを贈られる。著書に『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(講談社)がある。