中小企業の成長を加速する管理職研修 大企業との比較で考える
2025年3月14日更新
管理職研修は、大企業・中小企業を問わず重要な教育テーマですが、その目的や内容は企業規模によって大きく異なります。大企業の管理職研修をそのまま中小企業に適用してもうまく機能しないことが多く、中小企業ならではの特性を考慮した研修が求められています。本記事では、大企業との比較から、中小企業が実施すべき管理職研修のあり方を考えます。
INDEX
中小企業における管理職研修はなぜ必要なのか
管理職は、経営と現場の中間に立ち、コミュニケーションハブとして仕事を進める重要なポジションです。社会の変化のスピードが加速する中で、管理職にはこれまで以上にマネジメント力の強化が求められています。今、管理職研修が求められる理由を大企業と中小企業に分けてみていきましょう。
大企業における管理職研修が求められる理由
- 複雑な組織への対応
- 変化に柔軟に対応するため
- リーダーシップの強化
複雑な組織への対応
大企業は通常、組織が階層化されており、部門やチームが多岐に渡ります。管理職はその中で各部門間の調整や調和を図り、上層部の戦略を現場に伝え、指揮をとる責任を持っています。そのため、管理職が持つべきスキル(コミュニケーション能力、交渉力、問題解決能力)は非常に重要です。管理職研修はそのスキルを強化し、組織全体のパフォーマンスを向上させます。
加えて、大企業では新卒採用もキャリア採用も多く、多様なバックグラウンドを持つ従業員が集まります。異文化や価値観の違い、経験の違いを理解し合うことが必要です。管理職研修では、多様性を尊重しながらチームをまとめ、協力を引き出すための能力を養います。
変化に柔軟に対応するため
大企業は規模が大きく、環境の変化にスピード感を持って対応するのが難しいことがあります。新たなビジネスモデルや市場環境に対して、管理職は柔軟に戦略を検討、部門間で協力して新しい方針を実行する必要があります。これをスムーズに行うために、戦略的思考や折衝能力を鍛える管理職研修は必要不可欠です。
リーダーシップの強化
大企業では、個々の管理職が持つリーダーシップが組織の成功に大きく影響します。ビジョンを策定し、チームメンバーに伝え、部門の方向性を指示する能力を高めることが求められます。また、部下の育成やエンゲージメントを高めるためのコミュニケーションスキルも研修で強化します。
中小企業における管理職研修が求められる理由
- 経営リソースの効率的な活用のため
- 柔軟な意思決定と迅速な対応のため
- 部下を育てるため
経営リソースの効率的な活用のため
中小企業では、限られたリソースの中で成果を上げなければならないため、管理職には業務の効率化や人を活かすマネジメントが求められます。また、中小企業の管理職はしばしば、管理職としての仕事もしながら、プレイヤーとして現場の仕事も担っている場合があります。プレイングマネジャーとして成果を出すために、自身の仕事のマネジメントと組織の目標達成のマネジメント、人員配置、部下との対話を通じたマネジメントなどを学びます。
柔軟な意思決定と迅速な対応のため
中小企業は、大企業に比べて意思決定のスピードが早く、実行力に長け、振り返りまでのサイクルが早く回ります。スピード感があるからこそ、意思決定の精度や、実行計画の正確さを高めて、目標達成までのプロセスを精緻化する必要があります。
部下を育てるため
中小企業において、人手不足は深刻な問題です。縁あって入社した若手社員の離職率が高くなってしまうことは、経営者、管理職、人事部門にとって見逃せない問題です。中小企業の管理職の部下指導は、高圧的に指示命令を下すタイプと、ハラスメントを恐れていうべきことを言えないタイプの二極化が進んでいます。部下に言うべきことは言い、そのうえで信頼を得るためのマネジメントは、中小企業の管理職にとって喫緊の課題です。
中小企業の管理職に求められる役割
大企業の管理職:「マネジメント」が中心
大企業の管理職は、一般的に部下の人数も多いです。目標管理制度や1on1面談など、大企業では管理職が行うべき人事制度が設定されている場合も多く、部下の数が多ければ、それだけ面談等に時間がかかり、部下の仕事の進捗管理業務が中心になります。
他部門や外部との折衝のための打ち合わせなども日々の業務に加えられます。
大きな組織の中で成果を出すために、定められた方針やルールを適切に運用する必要があり、業務フローから外れた臨機応変な対応が難しくなる場合もあります。そのため、大企業の管理職は仕事や部下の「マネジメント」に比重が置かれます。
中小企業の管理職:「リーダーシップ」が中心
一方、中小企業の管理職には、率先垂範する「リーダーシップ」が求められます。大企業ほど制度や仕組みが整っていない場合も多く、人材、予算も大企業に比べて少ない中小企業では、自ら考え、意思決定し、事業をけん引していかなければなりません。仕事や人を管理するだけではなく、現場のリーダーとしての実行力が重要になります。
もちろん、大企業にも中小企業にも「マネジメント」「リーダーシップ」この両方が必要です。しかし、日々の業務における比重が異なるのは事実です。この違いを踏まえると、中小企業向けの管理職研修は「マネジメントスキルの向上」だけでは不十分であり、「リーダーシップ」「意思決定力」「現場推進力」などを鍛える内容が必要となります。
中小企業の管理職研修の内容
それでは、中小企業向けの管理職研修は、どのような内容にすればよいのでしょうか。大企業と比較しながら、その内容を確認しましょう。
人材マネジメントと人づくりの研修
【大企業】
・人事部門が中心となり、人事評価・育成制度が確立している
・管理職は制度にのっとり、部下を適切にマネジメントする
【中小企業】
・人事評価・育成制度の仕組みが整っていないケースが多い
・管理職自身がリーダーシップを発揮し、部下の成長を促す必要がある
【研修の内容】
・部下の成長を促す声かけ、フィードバックの方法
・部下のモチベーションを高めるコーチングスキル
・チームの結束を高めるためのミッション、ビジョンの策定とその浸透
一般的に、中小企業では、人事評価・育成制度が整っていない場合もあり、昇格したら自己流でマネジメントを行う場面も多いようです。自身が指導を受けた管理職のマネジメントスタイルを「背中を見て学ぶ」経験しか得られなかったという声もあります。しかし、管理職は、任命されれば自然と成長できるものではありません。管理職としての役割、コミュニケーション、思考法など、型を学んで実践して、「できる管理職」に成長していくのです。
プレイングマネージャー向けの研修
【大企業】
・管理と実務が分業されているケースが多い
・マネージャーとして、チームの管理に集中できる。
【中小企業】
・管理職でありながら、プレイヤーとしての業務も担うケースが多い
・「自身の仕事」と「組織の目標達成」の両方をマネジメントするスキルが求められる
【研修の内容】
・自身の仕事のマネジメント(優先順位付け、タイムマネジメントスキル等)
・ジョブアサインメントのスキル(人員の割り当てと評価)
・チームの成果を最大化する環境づくり
中小企業が管理職研修を成功させるためのステップ
中小企業が管理職研修を成功させるためには、次のようなステップがあります。
- 人事評価制度・人事教育体系の構築
- 研修目的・目標の設定
- 研修参加者の選定
- 経営陣のコミットメント
- 人が育つ文化の醸成
人事評価制度・人事教育体系の構築
企業の人材育成を支援しているPHP研究所では、中小企業の人事担当者から、人事評価制度や、それに伴う人事教育体系の構築からご相談をいただくケースがあります。中小企業が成長していく過程で、次世代リーダーや若手の育成、中長期的な会社の存続を見据えれば、人事評価制度と教育体系の整備は避けては通れません。各階層で、どのような役割・能力が必要かを体系的に明文化し、それらを身につけるための研修を配置していくというのが一般的です。PHP研究所では、評価制度の構築からお手伝いすることもあれば、すでにある評価制度に即した教育研修をカスタマイズしてご提案することもあります。人事評価制度や教育体系がまだ整っていない場合には、まず自社に必要な要件を定義するところからスタートするとよいでしょう。
研修目的・目標の設定
研修を成功させるためには、まず明確な研修目的・目標を設定することが不可欠です。研修目的は、その研修を受けることによって管理職にどのような能力・スキルを習得し、どのような活躍を期待するかといった最終的なゴールを設定します。それに伴って、研修目的を達成するための研修目標に細分化します。研修によってどのような成果を期待するかを具体的に示すものであり、研修プログラムの設計、実施、そして評価の基準となります。研修目標は、SMARTモデルを参考に設定するとよいでしょう。SMARTモデルは、次の要素の頭文字をとったものです。
- Specific(具体的):研修によって何を達成したいかを明確にする
- Measurable(測定可能):研修の成果をどのように測定するかを定める
- Achievable(達成可能):現実的で達成可能な目標を設定する
- Relevant(関連性):企業の戦略目標と整合性のある目標を設定する
- Time-bound(期限):いつまでにどのような成果を得るかを明確にする
研修参加者の選定
中小企業の管理職研修の参加者は、新任昇格者が基本になります。しかし、これまで管理職研修を実施できていなかった場合には、すでに管理職になってキャリアを積み重ねている場合でも、全員を対象とすることがおすすめです。それにより、管理職のマネジメントスキルを一定レベルにまで高め、組織としての統率力を高めます。
中小企業の場合、研修の対象者が毎年集まらない場合もあります。初年度は全員を対象に、自社に講師を派遣して研修を実施し、次年度以降は、新任の対象者がいれば、公開型のセミナーに参加するというのがよくある流れです。
研修参加者のスキル、経験、そして学習スタイルなどを考慮し、最適な研修プログラムを提供します。研修参加者のモチベーションを高めるために、研修の目的、内容、そして期待される成果などを明確に伝えましょう。
経営陣のコミットメント
研修を成功させるためには、経営陣の積極的な関与が不可欠です。経営陣が研修の重要性を認識し、予算や時間などのリソースを確保することで、人が育つ文化を醸成することができます。また、中小企業の管理職で、これまで自己流のマネジメントで成功体験を積み重ねているような参加者は「忙しい中、なぜ今更研修を受けなければいけないのか?」と疑問を持つ場合も少なくありません。経営陣が研修にコミットし、研修で何を得てどう会社に還元してほしいのかをしっかりとメッセージとして伝えることで、研修への参加意欲を高めます。
人が育つ文化の醸成
中小企業が管理職研修を実施し、管理職のマネジメント力が上がることで、人が育つ文化が醸成されます。管理職が変わることで、企業全体の学習意欲を高め、従業員の成長を促進します。管理職が部下指導スキルに秀でていれば、部下はおのずと管理職にアドバイスやフィードバックを求めたり、自発的な成長、学習の機会をつくり、スキルアップにつながります。研修で学んだことを実務や日々のコミュニケーションで実践することで、組織全体の知識レベルが向上し、新しいアイデアや解決策が生まれる可能性が高まります。人が育つ文化を醸成することは、イノベーションの創出にもつながるのです。
「中小企業は人を120%以上活かす」松下幸之助の人の活かし方
パナソニックグループを一代で世界的企業に育てた松下幸之助は、中小企業に強みについて次のように語っています。
世間ではとかく中小企業は弱いと言います。しかし私は、中小企業ほど人がその能力を十分発揮しつつ働きやすいところはないと思うのです。従業員が20人とか50人ということであれば、お互いの気心や動きがよくわかって、打てば響くすばやい活動ができやすいのです。
引用元:『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』松下幸之助
つまり、かりに大企業では個々の人の力を70%ぐらいしか生かすことができなくても、中小企業は100%、やり方によっては120%も生かすことができるわけです。
そういうところに、中小企業の一つの大きな強みがあるように思います。その強みを積極的に生かしていくことが、きわめて大切ではないでしょうか。
社員の数が増え、組織が大きくなるほどに「事なかれ主義」に陥る危険性は高まります。中小企業では、リソースが少ない分、「事なかれ主義」になれば、たちまち事業は立ちいかなくなってしまいます。また、人数が少ないからこそ、お互いの気持ちや動きもよく見えて、経営陣や管理職の言葉もよく響きます。中小企業の管理職が、研修によってマネジメント力を磨くことは、その力を120%にも生かすことに役立ちます。
まとめ:中小企業の成長を支える管理職研修
経営リソースが大企業に比べて少ない中小企業では、管理職一人ひとりのポテンシャルを引き出し、マネジメント力を高めることが必要不可欠です。それにより、部下の成果やモチベーションの向上も期待でき、結果として企業の競争力強化につながります。
これまで研修を実施してこなかった場合には、人事評価制度や人事教育体系の整備などのハードルもありますが、外部研修を利用するなど、できることから少しずつ始めていきましょう。
中小企業の管理職研修を単なるコストとして捉えるのではなく、企業の成長を加速させるための戦略的な投資として捉え、持続的な成長を実現しましょう。管理職研修は、中小企業が生き残り、成長するための重要な鍵となるはずです。