ポータブルスキルとは? キャリア開発の鍵となる理由も解説
2025年1月 7日更新
「ポータブルスキル」――人事担当者であれば、この言葉を耳にする機会も多いのではないでしょうか。人材の流動化がすすむ昨今、注目を集めるポータブルスキルについて、その意味や人事・HR担当者としての向き合い方について、あらためて考えてみたいと思います。
INDEX
ポータブルスキルとは
ポータブルスキルとは、その名の通り「持ち運び」ができるスキル、つまり職種や業界に縛られずに使える汎用スキルのことです。たとえば、コミュニケーション能力や問題解決能力といったスキルは、どんな職場のどんな仕事でも求められ、役に立てることができます。
VUCA時代と呼ばれる今日、イノベーションを起こし、競争力を確保するためには、柔軟で適応力のある人材が求められています。ポータブルスキルを持つ人材は、新しいプロジェクトや役割でも即戦力として対応することができます。職場異動もスムーズで、転職でも武器となります。ポータブルスキルを持つ人材は、職場での活躍機会が広がり、キャリアアップの選択肢も増えるというわけです。
テクニカルスキルとの違い
ポータブルスキルと比較されるスキルとして「テクニカルスキル」があります。テクニカルスキルは、特定の業務や職務を遂行するために必要な専門的な知識や技術です。
例えば、IT業界で求められるプログラミングやデータベース管理のスキル、デザイン業界で必要なクリエイティブ力やソフトウェア操作スキル、金融業界における金融工学やアルゴリズム取引に関する知識・スキル、製造業におけるCADやPLCプログラミングなどはその典型です。
これらは特定の職務で非常に重要ですが、多くの場合、他の業界や職種にも転用可能な汎用性も備えています。
ポータブルスキルの例
では、企業で求められる具体的なポータブルスキルとはどのようなものでしょうか。例えば下記のようなものがあげられます。
- コミュニケーション能力:職場の連携や顧客対応に欠かせないスキル
- 問題解決能力:業務の課題やトラブルに対応する力
- 論理的思考力:情報を分析し、論理的な判断を下す力
- 適応力:変化の多い環境で柔軟に対応できる力
- リーダーシップ:チームを引っ張り、目標達成に導く力
- デジタルリテラシー:ITツールを使いこなす力
いずれも可視化、数値化が難しいスキルではありますが、職務遂行上の重要性に異論を唱える人はいないでしょう。
ちなみに、厚生労働省ではポータブルスキルを「業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力」と定義し、【専門技術/専門知識】【仕事のし方】【人との関わり方】 の3要素で構成されるとしています。
厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23112.html
人事部としてポータブルスキルに注目すべき理由
ポータブルスキルは個人の「転職」の武器として注目されがちですが、その開発は企業の人事戦略上にもメリットがあります。
多様なキャリアパスに対応
企業のグローバル展開や部門横断的なプロジェクトが進む中で、異なる文化やチームで活躍できる人材が求められています。ポータブルスキルを持つ人は、こうした環境で柔軟に動けるため、高く評価されます。
変化に強い組織づくり
市場やテクノロジーの変化が激しい現代、柔軟に対応できる組織づくりが求められています。ポータブルスキルを持つ社員が多いほど、組織全体の適応力が上がり、イノベーションにつながります。
長期的な人材戦略の柱として
ポータブルスキルは短期的な成果だけでなく、長期的なキャリア形成にもつながります。いわゆるプロ経営者、プロマネージャーとして活躍する人材はポータブルスキルが高いといえます。人事部がポータブルスキルを重視した育成施策をすすめることで、持続可能な人材育成を実現できます。
採用、人事評価とポータブルスキル
ポータブルスキルという視点で、新卒・中途採用や人事評価のやり方や基準を見直してみるのもよいでしょう。
行動面接(Behavioral Interview)
採用時、候補者に過去の経験を尋ねることで、ポータブルスキルを把握します。たとえば、「困難な状況をどう乗り越えましたか?」「これまでの一番の成果は?どう行動しましたか?」といった具体的な質問が有効です。
ケーススタディやディスカッション
採用プロセスにケーススタディやグループディスカッションを取り入れ、問題解決力やコミュニケーション能力を直接観察しするのもよいでしょう。
360度評価
ポータブルスキルは上司だけでなく、同僚や部下からの評価にも現れやすいといえます。人事評価においては多面的なフィードバックを活用し、スキルを客観的に評価します。
ポータブルスキルの鍛え方
ポータブルスキルは、知識を学ぶだけでなく、実践を通して習得することが重要です。職場でのOJTを通して、実際に問題解決に取り組んだり、チームで協力してプロジェクトを進めたりすることで、スキルを効果的に習得することができるでしょう。また、上司や先輩社員からのフィードバックを受けることで、自身のスキルレベルを客観的に評価し、改善点に気づかせることも大切です。具体的には以下のような取り組みが効果的です:
研修(トレーニング)プログラム
新入社員の導入研修や管理職の昇格研修だけでなく、リーダーシップや問題解決、コミュニケーションなどポータブルスキルに特化した研修を企画、実施します。一過性のものではなく、職場での実践とモニタリングを行い、適切なフォローアップも不可欠です。
部門をまたぐ異動やプロジェクト型業務
人事ローテーションや組織横断型のプロジェクト参画により、多様な業務を経験させ、広い視野と柔軟な視点を養います。組織のイノベーションを推進する中核人材としての成長を促すこともできます。
メンター制度
経験豊富な社員が若手を指導、支援します。これによりメンター/メンティー双方のスキルアップも期待できます。
社員一人ひとりの「スタンス」が成長を加速する
社員のポータブルスキルを開発し、発揮してもらうためには大切なものがあります。それは社員一人ひとりの仕事への「スタンス」、つまり「考え方」や「行動様式」と呼ばれるものです。
〈人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力〉
これは京セラを世界的企業に育て上げた稲盛和夫氏が提唱した「成功への方程式」です。「考え方」「熱意」、つまり仕事のスタンスがスキル開発・発揮の土台になるというのです。松下幸之助も経営においては「理念」が大切と述べていましたが、考え方としては同じといってよいでしょう。
当たり前のことではありますが、どんなに優れた知識やスキルを持っていても、どのような姿勢や価値観で仕事に取り組むかで仕事の成果は大きく変わります。スキルや知識が豊富でも評論家に陥り、成果に結びつかないという社員はたくさんいるのではないでしょうか。
ただ、仕事のスタンスを育むことは、社員一人ひとりの仕事観や人生観に関わる問題と言えますので、人事・研修の担当者としてもアプローチが難しいかもしれません。実際のところ、「やる気を出せ!」といくらいっても、部下のやる気は出ないものです。
まとめ:ポータブルスキル開発支援と成長機会の提供を
「AIが人間の仕事を奪うのでは?」ということが指摘されてきましたが、現在では「私たちはAIをどう使いこなすか?」に焦点がうつってきています。そうした中で、仕事のスタンスを確立し、ポータブルスキルを開発していくことは、個人にとっても企業にとってもメリットがあるといえそうです。
熱意にあふれ積極的で、適応力や創造力、リーダーシップを発揮できる人材はどの職場でも活躍できるものです。労働市場は多様化し、社員のキャリアパスに対する考え方も大きく変わりました。人事・HR担当者としては、社員をモチベートしながらポータブルスキルを開発できるような研修プログラムや成長の機会を提供し、そのパフォーマンス向上に繋げていくことが求められているといえそうです。
PHPゼミナールでは、知識習得だけでなく、自らのあり方(スタンス)の確立を通して自主性を育み、その人の中にポータブルスキルを開発・発揮のできる土壌をつくることを何より重視しています。当社の研修サービスの活用をぜひご検討ください。