サーベイ(組織調査)ツールを選ぶ7つのポイント
2020年3月30日更新
組織や職場のコンディションを「見える化」するサーベイ(組織調査)は、近年、大流行している経営ツールの1つです。いざ導入というときに、どのような視点で選べばいいのかを、中原 淳著『サーベイ・フィードバック入門』(PHP研究所)より、ご紹介します。
相手本位の立場でデータの質にこだわれ!
みなさんが、会社で実施するサーベイを選択できるポジションにあり、「どのようなサーベイを選べばいいのか」について悩んだ場合、次の7点に留意すればいいと思います。(注1)端的に、その要旨を述べるのならば、サーベイを選択するときは「相手本位」で考えるということに尽きます。
組織に「関係があるデータ」を含むサーベイを選ぶ(Relevant)
まず組織の問題や、回答するメンバー自身に関係がない質問項目を含むサーベイは選ばないようにしましょう。組織が抱えている課題とまったく関係のない質問項目に答えることほど、苦痛なことはありません。「自分が答えることで、今いる職場や仕事が改善するな」とメンバーが思えるような質問項目のあるサーベイを選びましょう。
理解できる分析結果を返すサーベイにする(Understandable)
データ収集・分析というと、多変量解析や重回帰分析といった、高度な分析手法を使いたがるサーベイ担当者、サーベイ会社があります。しかし、はっきり申し上げて、高度な分析や集計資料は「自己満足」に終わることが確率的には高いと思います。なぜなら、サーベイ結果を受け取る側は、ほとんどの場合「素人」なので、いくら高度な分析によって数値やモデルが出てきても、その意味を理解できないことが多いからです。
たとえば、標準偏回帰係数(β)や相関係数(r)といった統計を修めた人しかわからないような統計量(難しい数値)を現場にフィードバックしても、現場は理解できません。相手に伝わらなければ、サーベイの意味がありません。サーベイ・フィードバックとは徹底的に「相手本位」であるべきです。
したがって、メンバーがすぐに解釈できるデータを選んで使うべきです。「5をつけた人が30%いた」くらいの単純なもので良いのです。さらに、グラフや表、イラストなどを用いて、それらのデータをひと目で理解できるようだと、さらに良いでしょう。サーベイは「いかにわかりやすく見せるか」なのです。
イメージしやすい質問項目が並んだサーベイにする(Descriptive)
次に、質問項目は、それを読んだ人が想起しやすい「具体的な行動」が思い浮かぶような項目にしておくことが大切です。なぜなら、その方がフィードバックを行ったときにも、行動を変えやすくなるからです。
たとえば、「うちのマネジャーとはウマがあわない」という質問項目と、「うちのマネジャーは不公正な行動をする」という質問項目があるとしましょう。このどちらが研修で使いやすいかというと、後者です。なぜなら、これは、「具体的な行動」を示したデータだからです。
後者は「あなたは、こういう行動をしていますよね」と具体的に指摘できるので、指摘された側もその行動を直せば良いでしょう。一方、前者だと、「ウマがあわないメンバーもいるみたいですね」と言われたところで、行動に基づかない意見なので言われた側も納得がいかないし、指摘後も目に見えるカタチで修正できません。
このように、具体的な行動に紐付いた質問項目にしておかないと、せっかくデータをとっても、行動変容につながらないのです。
要点がまとまっているサーベイにする(Summarized)
サーベイする前に「不安だから」といって、質問項目をなるべく多くとっておいて、それをすべて返せば良い、という考え方はひかえた方がよいと思います。取得するデータの量が多すぎると、そもそもサーベイへの拒絶反応が高まる可能性があります。サーベイを行うときには、必ず要点を絞るようにしましょう。
信頼できるサーベイとする(Verifiable)
これは当たり前の話ですが、調査結果が信頼できるかどうか、もっといえば、「現場に返すデータにミスがないかどうか」には、細心の注意が必要です。なぜなら、データや集計プロセスに少しでもほころびがあると、「このデータは、すべて間違っているのでは?」とメンバーが疑いを持ちはじめ、調査に反対する人に、恰好の反論材料を与えてしまうことになるからです。とりわけ、プロフェッショナルや数字に強い人ほど、自分にとって「不都合なデータ」に対して、手続きの不備をついた「反論」を行い、「不都合なデータ」そのものを無にしたりする傾向があります。
信頼できる研究者、調査会社が行っているサーベイであれば、質問項目を定期的に更新したりして、精度をあげているものです。
短くシンプルなサーベイにする(Short and Simple)
サーベイを選ぶ際の指針としては、なるべく短くシンプルであることを優先しましょう。昨今は働き方改革も進行しているので、会社で行っている長時間労働是正の取り組みに悪影響を与えてもいけません。具体的な目安としては、10分から20分以内です(パルス・サーベイの場合、10問以内が望ましいと思います)。
回答するのにあまりに時間がかかると、メンバーのモチベーションが下がります。また、たくさん質問に答えたのに、フィードバックされる項目が少ないと、「あんなにたくさん答えたのに、これだけしか反映されないのか?」と、メンバーの不満のもとになります。
比較群のあるサーベイにする(Comparative)
「あなたの職場の風通しの良さは4.7ポイント」「あなたの職場の働きやすさは、5.8ポイント」など、調査結果を示したフィードバックシートには、それぞれの項目に数値が書かれています。しかし、この数値だけを見ても、それが良いのか悪いのかはわかりません。仮に10点満点の評価で6点だったとしても、他の職場では軒並み4点台だったとしたら、かなり高い点数だといえます。すなわち、サーベイでは、数値だけを表示されても、受け取る相手は良いのか悪いのかの判断ができないのです。
組織のよしあしは、他の組織との「差異」によってしか認識されないのです。
したがって、サーベイの結果をしっかりと読み取るためには、自分たちのデータと近似するような比較グループ(ベンチマーク)の存在が必要です。
比較グループは、様々なかたちでつくりだすことができます。たとえば、市販サーベイの場合には、業界の競合他社を比較対照群としてベンチマークに設定してくる場合もあります。独自サーベイならば、全社平均、他の近似する職場の平均との比較などを提示することもできます。あるいは、時系列順での比較もできるでしょう。いずれにせよ、単一のデータを返すのではなく、良いか悪いかの基準を示した比較群を用意することがポイントです。
(注1)下記を参考にしつつ、筆者の経験をまじえて7つのポイントとしました。
Cummings, T. G. and Worley. C. G. (2009) Organization Development and Change, 9th edition. South- Western Cengage Learning, 139-150.
『サーベイ・フィードバック入門』
勘・経験・思い込みに頼らず、データの力で部下と職場を立て直す! 最新科学に基づく「サーベイ・フィードバック型組織開発」の教科書。チームや組織を変えたい現場マネジャー、人事担当者必読!
【著者】中原 淳(なかはら・じゅん)
立教大学 経営学部 教授(人材開発・組織開発)。立教大学大学院 経営学研究科 経営学専攻 リーダーシップ開発コース主査。立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長。1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、『職場学習論』『経営学習論』(ともに東京大学出版会)、『組織開発の探究』(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、『残業学』(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、『フィードバック入門』『実践!フィードバック』(ともにPHP研究所)など多数。