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リモートワーク導入で失われる組織の求心力をどうする?

リモートワーク導入で失われる組織の求心力をどうする?

(2020年3月 5日更新)

 
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リモートワーク導入を進めている企業で、組織の一体感が失われるというデメリットが出てきています。求心力を高めるための、リーダーの考え方をご紹介します。

 

組織の一体感を高めるために

「働き方改革」の進展や新型コロナウイルスへの対応で、リモートワークを導入する企業が増え、その結果、上司と部下が同じ空間で同じ時間を過ごすというこれまでの働き方の前提が崩れてきました。

そのことによって、働き方の選択肢が拡がったり、ワークライフバランスの推進が期待されるなど、さまざまなメリットがある一方、個々がバラバラになって組織の一体感が失われる恐れもあります。

そうならないために、上司-部下の関係性を強化し、組織の求心力を高める必要がありますが、本稿ではそのポイントを「人間観」という観点から考察したいと思います。

 

部下に見透かされる「上司の人間観」

巷にあふれる、部下指導や組織活性化に関するセミナーや書籍は、何を(What)、どのように(How)実施するか、その手法を紹介するものがほとんどです。手法ももちろん重要ですが、そのベースにどんな人間観をもつかで、部下指導や組織活性化の効果は変わってきます。

南山大学人文学部の中村和彦教授が主張しているように、部下と関わる際、上司は「手法やスキルだけではなく、自らのマネジメント観や価値観も点検する必要があります。マネージャーやリーダーがX理論というマネジメント観をもち続けながら、スキルを実施したとしても、部下に見透かされる」(※1)のです。

上司がもっている「価値観」や「ものの見方・考え方」というものは、本人が自覚するのは難しいけれど、部下は敏感に感じ取るものです。リーダーがもつべき価値観の中でも、人間をどう見るかという「人間観」が仕事の成果に最も大きな影響を及ぼします。なぜなら、経営というものが人間を相手にして展開される営みであり、リーダーは適切な人間観をもって人と組織を統率する必要があるからなのです。

 

リーダーがもつべき人間観とは?

では、リーダーはどんな人間観をもつべきなのでしょうか。人間観には古今東西さまざまな考え方があって、唯一絶対の考え方があるというわけではありません。以下に、代表的な4つの人間観とそれぞれの意味をご紹介しましょう。

 

◆「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)」

(仏教の人間観)

すべての人は、かけがえのない使命を天から与えられた大切な存在である

 

◆「X理論-Y理論」

(米国の心理学者・経営学者であるダグラス・マグレガーが提唱した人間観とマネジメント理論)

X理論 ⇒ 人間は怠け者で放っておくと仕事をしなくなる

Y理論 ⇒ 人間は自己実現のためにみずから進んで問題解決をする

 

◆「性善説」

(古代中国の思想家・孟子(もうし)が説いた人間観)

人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、悪の行為はその本性を汚損・隠蔽(いんぺい)することから起こるとする説

 

◆「性悪説」

(古代中国の思想家・荀子(じゅんし)が説いた人間観)

人間の本性を利己的欲望と見て、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説

 

X理論とY理論について

前述の「X理論」と「Y理論」について、もう少し掘り下げておきましょう。マグレガーのインタビュー調査によると、米国企業のマネージャークラスの人たちは、下記のような考え方でマネジメントを行なっていたそうです。

 

1)たいていの人は、仕事が嫌いで、できることなら働きたくない

2)たいていの人は、強制されたり、統制されたり、命令されないと十分な努力をしない

3)たいていの人は、命令されることを好み、責任をとりたがらない

4)たいていの人は、仕事が嫌いなわけではなく、条件次第で仕事は満足の素になりうる

5)たいていの人は、自分が打ち込む目標が達成されるように自己管理ができる

6)自我や自己実現の欲求が満たされるとき、人は目標に打ち込む

7)たいていの人は、適切な条件のもとでは、進んで責任をとろうとする

8)組織における問題を解決する能力を、組織を構成する多くの人がもっている

9)平均的人間のもつ地力の潜在的可能性は、ほんの一部しか活用されていない

 

これらのうち、(1)から(3)が「人間は怠け者である」というX理論の人間観で、(4)から(9)が「人間は自己実現を目指す」というY理論の人間観にあたります。マグレガーの理論には賛否両論ありますが、いずれにしても、リーダーがX理論をもつかY理論をもつかによって、職場が大きく変わるのは間違いないと考えられます。

X理論で考えるリーダーは、「メンバーは怠け者だ」という前提で取り組むため、メンバーにその意識が投影し、X理論に近い職場ができあがるでしょう。反対にY理論で考えるリーダーは、「メンバーの自己実現」を前提に取り組むため、前向きな気持ちが伝わり、Y理論に近い職場が形成されていくのです。つまり、「肯定的な人間観」が「強い現場」をつくっていくということです。

 

このように、人間観についてはさまざまな議論がなされ、上記以外にも多種多様な考え方が存在していますが、大別すると人間を肯定的に見る考え方と否定的に見る考え方の2つのカテゴリーに分類されます。どちらが正しく、どちらが間違いという判定ができるほど単純ではないものの、マネジメントの観点に立つならば、好ましいのは肯定的な人間観をもつことでしょう。

なぜなら、肯定的な人間観をもてば、おのずと人と組織の可能性に意識が向かい、それらを引き出そうという行動をとる確率が高くなって、職場の生産性が上がるからです。

 

松下幸之助の人間観

肯定的な人間観に関してさらに理解を深めるために、人づくりの達人であった松下幸之助の人間観をご紹介いたします。幸之助は、著作の中で、リーダーがもつべき人間観についてたびたび言及しています。

 

「人間はだれもが、磨けばそれぞれに光る、さまざまなすばらしい素質をもっている。だから、人を育て、活かすにあたっても、まずそういう人間の本質というものをよく認識して、それぞれの人がもっているすぐれた素質が生きるような配慮をしていく。もしそういう認識がなければ、いくらよき人材がそこにあっても、その人を人材として活かすことはむずかしいと思う」(『人を活かす経営』PHP研究所)

 

「人にはおのおのみな異なった天分、特質というものが与えられています。私は、成功というのは、この自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かしきることではないかと思います。それが人間として正しい生き方であり、自分も満足すると同時に働きの成果も高まって、周囲の人びとをも喜ばすことになるのではないか」(『人間としての成功』PHP研究所)

 

素直な心で人間一人ひとりを見れば、誰一人として同じ人はいない。そうであるならば、同じ使命をもつ人も、同じ才能をもつ人もいるはずがなく、よって成功とは人それぞれ異なるものであるはずだ。そのように考えれば、人間としての成功とは、その使命や才能を発揮させることにある。その前提に立てば、人を育てる際は誰もがすばらしい素質をもっていると考えて接すること、またその素質を見つけて磨くことが必要になる。

あたたかもダイヤモンドの原石のように、人間は磨き方、カットの仕方いかんで、さまざまな光を放つ存在なのである。(『[愛蔵版]松下幸之助一日一話』PHP総合研究所)

 

改めて自身の人間観の再点検を

前述の概念は、あくまでも松下幸之助の人間観の一端ですので、その内容に共感できるか否かは、個人の解釈によって変わってくるでしょう。ただ、ここで強調しておきたいのは、幸之助がこだわっていたのが、どうすれば個と組織が活性化するかということであり、そのために考え抜いて構築されたのが前述の人間観であったということです。

ワークスタイルが変化し、部下を育て組織の一体感を維持することが、今後、より一層困難になることが予想されます。だからこそ、リーダーの立場にある方々には、どうすれば個と組織が活かされるか、そのためにはどんな人間観をもつべきか、立ち止まって考えることが求められるのではないでしょうか。

 

※1 中村和彦(2015)『入門組織開発――活き活きと働ける職場をつくる』光文社新書

参考文献:『強い現場をつくるための5つの原則』(PHP通信ゼミナール)

 


 

部長研修

 

 

的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

 


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