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経営リーダーに必要な発想法

2024年7月 9日更新

経営リーダーに必要な発想法

経営者の意思決定は事業活動の盛衰に大きな影響を及ぼします。先行きの見通しのつきにくい経営環境下、経営リーダーにはどのようなものの見方・考え方が求められるのでしょうか。ここでは、経営リーダーに必要な発想法について解説します。

INDEX

経営者に求められる知識・スキル

市場動向を読み違えたり、自社の現状を正しく分析していないことが原因で、事業拡大のチャンスの芽を摘んだり、経営危機を招いてしまうケースが少なくありません。変化の激しい時代、たった一回の判断のミスや瞬時の意思決定の遅れが、企業(特に中小企業)にとって、命取りの事態を招くリスクが以前にも増して高まっています。
こうした厳しい経営環境を乗り切るために、経営者にはどのような資質・能力が求められるのでしょうか。『中小企業白書』によると、「経営者に求められる知識・スキル」には6つの要素があるとされています。

【図表】2022年版 中小企業白書「経営者に求められる六つの知識・スキル」(中小企業庁)

経営者に求められる六つの知識・スキル

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判断を誤る経営者~成功体験を捨てきれない

上記6つの要素から言えるのは、経営者には刻々と変化する状況を的確に捉え、どのように対応するべきかを即座に判断し、人と組織を動かして最後まで実行することが求められているということでしょう。ところが実際は、現役の経営者の多くはそのような働きができていないようです。
企業の現場で長年、経営指導に携わった某コンサルタントの方曰く、現場で輝かしい実績を積み重ねてトップに上り詰めた生え抜きの社長ほど、経営判断を誤ることが多いそうです。そのような状況に陥る原因として、「かつての成功体験を捨てきれないことにある」と、そのコンサルタントは指摘します。つまり、すばらしい実績を上げた、かつてのやり方にこだわり、その発想で現在の経営上の判断をするのですが、残念ながら経営環境が大きく変わっているので、今ではその発想とやり方がうまくいかないのです。ところが、なぜうまくいかないのか原因がわかっていないので、当人は発想や行動を変えようとしないのです。

無知の知

上記の話には多くの示唆が含まれています。成功体験は重要ですし、そこから構築される持論や信念はリーダーにとって必須の武器と言えます。しかし、それにこだわり過ぎると、今何をすべきか、何が正しいかが見えなくなってしまいます。
個人がもっている知識や情報には限りがあり、自分の知らないこと、わかっていないことのほうが圧倒的に多いもの。したがって「自分がいかにわかっていないか」を自覚する謙虚さ・素直さをもつことが経営者には求められるのです。

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経営者に必要なバランス感覚

組織心理学者のアダム・グラントは、思い込みを手放し、発想を変えるための"知的柔軟性"について研究を進めました。彼は、多くの人々の思考プロセスを研究していくうちに、発想法には2つのパターン(過信サイクル、再考サイクル)(※1)があることを発見しました。

再考サイクル、過信サイクル

過信サイクルは、強い自尊心をもって思考することで、自分が予期するものを見たり(確証バイアス)、見たいものを見る(望ましさバイアス)ようになり、自分の正しさを是認し、自尊心がさらに強化される循環です。
一方の再考サイクルは、謙虚さをもってものを見たり聞いたりします。"無知の知"の精神で、自分のもっている情報や考え方に懐疑の目を向け、好奇心をもって思考するので新たな発見があります。自分の知らないことがたくさんあることに気づくと、より一層謙虚さに磨きがかかります。
2つのサイクルを比較すると、再考サイクルのほうが好ましいと解釈しがちですが、謙虚さが強すぎると卑屈になってネガティブな発想に陥ることがあります。大切なことは、謙虚さと自尊心のほどよいバランスを取ることだと、アダム・グラントは主張します。

※1 参考文献:『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』アダム・グラント著(三笠書房)

素直な心を目指す地道な取り組みを

思い込みを手放した、とらわれのない自由な発想で現実を直視する姿勢について、松下幸之助は"素直な心"という表現でその重要性を指摘していました。

素直な心

素直な心とは、寛容にして私心なき心、広く人の教えを受ける心、分を楽しむ心であります。また静にして動、動にして静の働きある心、真理に通じる心であります。
素直な心が生長すれば、心の働きが高まり、ものの道理が明らかになって、実相がよくつかめます。また、そのなすところ融通無碍、ついには、円満具足の人格を大成して、悟りの境地にも達するようになります。
素直な心になるには、まず、それを望むことから始めねばなりません。喜んで人みなの教えを聞き、自身も工夫し精進し、これを重ねていけば、しだいにこの心境が会得できるようになるのであります。

『PHPのことば その四』として1948年4月発表

幸之助が提唱する素直な心は、誰もが簡単に到達できる境地ではありません。幸之助自身、その境地に到達しようと生涯努力を続けましたが、晩年になっても「最近、わしは素直な心になれんのや」と側近の部下たちにこぼすことがしばしばありました。ことほど左様に、人間は神様ではないので素直な心になるのは至難の業と言えるでしょう。
だからといって、素直な心になることを端から諦めるのではなく、そこに近づこうと日々、努力を続けることが大切なのではないでしょうか。現代は、変化が激しく先の見通しのつきにくい時代です。だからこそ、判断力・意思決定力を高めるために、経営リーダーの方々には、自らを磨き高め続ける地道な努力を心がけていただきたいものです。

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的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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