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生涯成長し続けるために大切なこととは? 「成人発達理論」とアダム・グラント「知的柔軟性」

2024年4月22日更新

生涯成長し続けるために大切なこととは? 「成人発達理論」とアダム・グラント「知的柔軟性」

変化の激しい時代に成功を収めるためには、自らの成長が止まらないよう、地道な努力を続けることが重要です。そこで、本稿では「成人発達理論」やアダム・グラント「知的柔軟性」をご紹介しつつ、生涯、成長し続けるための考え方について考察いたします。

INDEX

「成人発達理論」~成長し続けることの難しさ

大人の成長に関する研究領域「成人発達理論」は、人間の成人以降の成長・発達に焦点をあてた心理学の理論です。「成人発達理論」によると、「人は生涯、発達(成長)し続けることができる」とされています。理論上はそうなのかもしれませんが、現実はどうでしょうか。
筆者が、人材開発の現場に身を置いて感じるのは、ある時点(多くは40歳代中盤以降)に差し掛かると成長がパタッと止まる人が圧倒的に多いということです。特に、成功体験を数多くもっている人や、地位や年齢が上の人ほど、保守的になって変化を嫌い、自分で自分の成長にブレーキをかける傾向が強くなるようです。
成人発達理論が主張するように、人は本来、死ぬまで発達(成長)し続けることができるにもかかわらず、それを自ら阻害してしまうケースが多いという現実は残念なことです。

判断を誤る経営者~成功体験を捨てきれない

数百社の企業の経営指導に携わった経験をもつコンサルタントの方から興味深い話を聴いたことがあります。その方曰く、現場で輝かしい実績を積み重ねてトップに上り詰めた生え抜きの社長ほど、経営判断を誤ることが多いそうです。
そのような状況に陥る原因として、かつての成功体験を捨てきれないことにあると、そのコンサルタントは指摘します。つまり、すばらしい実績を上げた、かつてのやり方にこだわり、その発想で現在の経営上の判断をするのですが、残念ながら経営環境が大きく変わっているのでうまくいかないというのです。

 

無知の知

上記の話には多くの示唆が含まれています。成功体験は重要ですし、そこから構築される持論や信念はリーダーにとって必須の武器と言えます。しかし、それにこだわり過ぎると、今何をすべきか、何が正しいかが見えなくなってしまいます。
個人がもっている知識や情報には限りがあり、自分の知らないこと、わかっていないことのほうが圧倒的に多いものです。ソクラテスの言う「無知の知」という考え方のとおり、「自分がいかにわかっていないか」を自覚することが、洞察力を高める第一歩なのです。

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アダム・グラント「知的柔軟性」~自尊心と謙虚さのバランス

組織心理学者のアダム・グラントは、思い込みを手放し、発想を変えるための「知的柔軟性」について研究を進めました。彼は、多くの人々の思考プロセスを研究していくうちに、発想法には2つのパターン(再考サイクル、過信サイクル)(※1)があることを発見しました。

再考サイクル、過信サイクル

過信サイクルは、強い自尊心をもって思考することで、自分が予期するものを見たり(確証バイアス)、見たいものを見る(望ましさバイアス)ようになり、自分の正しさを是認し、自尊心がさらに強化される循環です。

一方の再考サイクルは、謙虚さをもってものを見たり聞いたりします。「無知の知」の精神で、自分のもっている情報や考え方に懐疑の目を向け、好奇心をもって思考するので新たな発見があります。自分の知らないことがたくさんあることに気づくと、より一層謙虚さに磨きがかかります。

2つのサイクルを比較すると、再考サイクルのほうが好ましいと解釈しがちですが、謙虚さが強すぎると卑屈になってネガティブな発想に陥ることがあります。大切なことは、謙虚さと自尊心のほどよいバランスを取ることだと、アダム・グラントは主張します。

※1 参考文献:『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』アダム・グラント著(三笠書房)

知らないことの強さ

一方で、今年入社したばかりの新入社員の人たちの日々の成長ぶりには目を見張るものがあります。
彼ら、彼女たちは、社会人・企業人としての経験が未熟なので、仕事上必要な知識や情報が不足しています。知識・情報の所有量・保存量が少ないということは、見方を変えれば自分の内側にデータを取り込む「空き容量」が充分に残されているとも言えます。だからこそ、新入社員は、見るもの、聞くもの、すべてから貪欲に学び取り、日々成長し続けることができるのでしょう。
このように、知らないことは決してネガティブなことではなく、人が成長する上で強力な推進力になりうるのです。

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松下幸之助「素直な心」

「仕事や人生における成功」と「人の成長」には強い相関関係があります。生涯、成長し続けるには、日々の事象から謙虚に学びを引き出そうとする心構えが不可欠です。そうした態度・姿勢のことを、松下幸之助は「素直な心」(※2)と呼び、そうした境地を目指して努力することの大切さを説きました。

素直な心とは、寛容にして私心なき心、広く人の教えを受ける心、分を楽しむ心であります。また静にして動、動にして静の働きある心、真理に通じる心であります。
素直な心が生長すれば、心の働きが高まり、ものの道理が明らかになって、実相がよくつかめます。また、そのなすところ融通無碍、ついには、円満具足の人格を大成して、悟りの境地にも達するようになります。
素直な心になるには、まず、それを望むことから始めねばなりません。喜んで人みなの教えを聞き、自身も工夫し精進し、これを重ねていけば、しだいにこの心境が会得できるようになるのであります。

『PHPのことば その四』として1948年4月発表

素直な心とは、過去の体験や常識、見栄や私心にとらわれず、現実を直視する、ものの見方・考え方を指します。素直な心になれば、新たな知見を自分の内側に取り込むことができ、これまでにない発見や気づきが得やすくなります。その結果、何が正しいか、何をするべきか、見極める力が高まると同時に、自身の成長も促進するでしょう。
素直な心になるための妙案はありませんが、人の話にしっかり耳を傾けたり、内省を通じて「何かにとらわれていないか」と自問するなど、地道な取り組みを継続することが大切です。

「なぜ」と問う

最後に松下幸之助のことばを、もう一つご紹介しましょう。

こどもの心は素直である。だからわからぬことがあればすぐに問う。"なぜ、なぜ"と。こどもは一生懸命である。熱心である。だから与えられた答を、自分でも懸命に考える。考えて納得がゆかなければ、どこまでも問いかえす。
こどもの心には私心がない。とらわれがない。こどもはこうして成長する。"なぜ"と問うて、それを教えられて、その教えを素直に自分で考えて、さらに"なぜ"と問いかえして、そして日一日と成長してゆくのである。
大人もまた同じである。日に新たであるためには、いつも"なぜ"と問わねばならぬ。そしてその答を、自分でも考え、また他にも教えを求める。素直で私心なく、熱心で一生懸命ならば、"なぜ"と問うタネは随処にある。それを見失って、きょうはきのうの如く、あすもきょうの如く、十年一日の如き形式に堕したとき、その人の進歩はとまる。社会の進歩もとまる。繁栄は"なぜ"と問うところから生まれてくるのである。

『道をひらく』松下幸之助著(PHP研究所)

現代は、変化が激しく、先の見通しのつきにくい時代です。だからこそ、判断力を高め、自らを成長させ続けるために、適度な謙虚さをもって発想することを心がけていきたいものです。

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的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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