係長に期待される役割とあるべき姿~現場力を高める6つのポイントとは?
2018年6月 4日更新
係長の役割をひとことで表現すると、「現場の最前線の長(リーダー)として、当面する仕事をきっちりと、正確かつ滞りなく完遂すること」。そのためには、「適切なマネジメントによって"現場力"を向上させ、チーム目標を達成すること」が求められます。 係長職に限らず、リーダーが自身に求められる役割とあるべき姿をしっかりと理解・認識することは、重要なポイントといえるでしょう。
係長としてあるべき姿と現実のGAPを認識する
さて、皆さんは、「強い現場(チーム)」というと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。PHPゼミナールでは次のように定義しています。
メンバー全員がやる気と主体性をもっていきいきと活動し、各自の個性と能力が存分に発揮され、それがある方向に向かって結集されて前進し続けている現場(チーム)
私が担当する「係長研修」では、上記の定義に照らし合わせて、自身の職場(チーム)の状況を客観的に自己評価いただいています。受講者の方の意見として多いのは、「個人個人では、がんばっているが、組織として結集されていない。いわゆる"個人商店"になってしまっている」、「部下の能力を存分に引き出せていない。そもそも部下がどのような能力をどれくらい有しているのかを理解・把握できていない」、「部下に指示をするとやるべきことはやるが、自ら主体性を発揮しているとは思えない」といった内容です。"望ましい状態"と現状とのGAPをはっきりと理解・認識することで、「今後どうしていくべきなのか?」、すなわち、課題に向き合っていくことができます。
現場力を高める6つのポイント
係長職の皆様には、現場力を高めるポイントとして、以下の6項目をお伝えしています。
1)「理念・目的・目標」の理解・共有
2)メンバー相互の強い「信頼関係」
3)「情報の流動性」の高さと幅広い共有
4)問いかけによる「思考の深堀り」
5)思い切った「権限委譲」
6)すぐれた「リーダーシップ」
これらの項目において、係長自身の立場でできることは何なのかをあらためて検討し、日常の職務との接続を行ってもらうことが大切です。
部下への問いかけが振り返る習慣を形成する
上記項目のうち、(4)の「問いかけによる『思考の深堀り』」は、特に重要なポイントになります。例えば、部下後輩に何らかの指示・命令、あるいは依頼をしたとしましょう。内容次第ではありますが、どこかのタイミングで「できました」「やりました」といった報告が相手から戻ってくるはずです。「オッケー、できた? じゃあ今度はね......」と、次の段階に進みたくなる(忙しければ忙しいほど、その傾向は強くなりやすい)ところですが、ここで一歩踏みとどまって部下に"問いかける"ことです。
そのためのセリフは無限に考えられます。「やってみてどうだった?」「気になったことはある?」「感想を聞かせてくれる?」「うまくいった? いかなかった?」「もう一度やるとしたらどうやってやる? なにか工夫できることはあるかな?」などのように、言葉はなんでもいいのです。つまり問いかけるとは、「取り組んだ仕事のプロセスを自分自身の言葉で語れ」という構造を作り出すことと言えます。
PHPゼミナールの創始者・松下幸之助(パナソニックグループ創業者)は、書類を届けに来た部下に対しても「君は、これについてどない思う?」と常に問いかけていたそうです。なぜ「問いかけ」が重要なのかと言えば、『振り返る習慣』が形成されるためです。このことによって柔軟性が高まってきます。問いかけられていない部下でも、同じ仕事を何度かやれば、その通りにはできるでしょう。ただし、「少し状況が変化した」、あるいは「思っていたのと違う展開になってきた」などの場面で、途端に思考停止したり行動が停滞したりもします。他方、日頃から問いかけられている部下は、柔軟性が高いため自身で工夫をすることで困難な状況下でも乗り越えていく確率が高くなります。一見、時間がかかるように見えて、実は、その方が早い、つまり組織力を高めるための近道と言えるでしょう。
「権限委譲」と「リーダーシップ」
また、(5)の「思い切った『権限委譲』」と(6)の「すぐれた『リーダーシップ』」は、表裏一体、ふたつでひとつの関係性になります。どこかでは、リーダーが自ら先頭に立って切り開く(率先垂範)、だからと言って、常にそのスタンスばかりでは、メンバーはリーダーに対して依存します。「この人の後ろに隠れていればケガをしないんだ」といった構造を作ってしまいます。そうさせないためにも、どこかでは、「やってごらん」と権限委譲をするわけです。
「問いかけによる『思考の深堀り』」、「思い切った『権限委譲』」、御社の係長はできているでしょうか。企業の競争力の源となる「現場力」は、係長の在り方にかかっているともいえるでしょう。係長にどんな役割を期待し、あるべき姿をどのように描くのか、今一度、しっかりと考えてみたいものです。
北川智章 (きたがわ・ともあき)
人材育成コンサルタント。
1989年、キヤノン販売株式会社(現キヤノンマーケティングジャパン株式会社)に入社。エリアセールスを経て、民間大手企業のアカウント営業を担当。顧客の取引先満足度調査第1位を獲得したことをはじめ、多くの大型案件を獲得。1996年から人材育成事業に携わる。研修トレーナー、コンテンツ開発リーダー、研修企画プランナーを歴任し、その後、人材開発コンサルティング業務に従事。2009年、ビジネスソリューションカンパニーの人材育成事業責任者に就任。カンパニー人材像の策定、若手中長期育成計画、世代別・階層別プログラム、メンター制度などを企画・推進する。2013年、人材育成コンサルタントとして独立。現在、PHPゼミナール講師、パフォーマンスデザイン・コンサルティング合同会社 代表。