新入社員研修で伝えたい3つのメッセージ~やる気を高め成長を促すために
2024年3月 4日更新
夢と希望をもって社会人になった若者たちが、仕事を通じて成長し続けるために知っておいてほしい考え方を、人材開発の観点、先人の名言などからご紹介します。新入社員研修での社長、人事担当者、先輩からの歓迎・応援メッセージとしてご活用ください。
新入社員の3つの責任
PHPゼミナール「新入社員研修」では、新入社員の「3つの責任」をお伝えしています。
・第1の責任「想像責任」
・第2の責任「質問責任」
・第3の責任「奉仕責任」
第1の責任「想像責任」
企業の人事担当の方がたとお話をしていると、「最近の新入社員は想像力が乏しい」という意見を数多くお聞きします。具体的には、
・自分のふるまいが周囲の人たちからどのように見られているか?
・自分の担当している仕事が後工程にどのようにつながっていくのか?
・相手がなぜ、そのような反応を示すのか、その理由は何なのか?
といったような観点から思考する力が弱いというのです。
学生時代は、想像力が乏しくても何とかなったのかもしれません。でも、これから企業人として仕事をしていく以上、想像力を発揮しないと成果を上げることは難しくなります。
想像力を鍛えるためには、以下の2つの実践が有効です。
(1)「why」にこだわる
日々の仕事をする際に、なぜこれをやるのか、なぜこのような手順でやるのか、等々に意識を向けながら取り組むことで「because(理由)」が見えてきます。
(2)視点を変える
自分の視点だけではなく、高い視座、広い視野、異なる角度からものごとを見る習慣をつけることで違った発見が得られ、思考の幅が広がります。
視点を変えるためには、以下のような問いを自分に投げかけ、異なる角度・ポジションからものごとを見たり考えたりする習慣をつけることが効果的です。
- 掘り下げる問い:「氷山モデル」(※1)の海面下に何があるか考える
- 視点を上げる問い:現在の自分より高い視点から、現状を俯瞰(ふかん)する
- 視点の主体を移すための問い:立場を入れ替え、周り・相手の視点で考える
- 時間軸で視点を変えるための問い:将来から今を見る
- 仮定に視点を向けるための問い:活用できるリソース(資源)に視点を向ける
「今回の提案に対してお客様が即断で断ってきたのは、どんな背景があるのだろう?」
※1 目の前の問題がどのような要素のつながりで起こっているかを考え、より本質的な変化を起こすための思考法
「自分が課長だったら、この問題にどう対処するかな?」
「今日のA社へのプレゼンについて、A社の担当者はどのように受け止めたかな?」
「5年後の自分はどうなりたいか? そのためには今何をするべきか?」
「自分の成長を支援してくれる人に誰がいるかな?」
第2の責任「質問責任」
PHPゼミナールは、毎年10月~12月の時期に「新入社員研修フォローアップコース」を実施しています。その研修の参加者(入社後6~8カ月経った新入社員)に、仕事をする上で何が難しいかを聞いてみると、多くの人が「質問すること」と答えます。つまり、わからないことがあっても、上司や先輩に質問することにためらいを感じて後回しにしてしまい、ついには質問しないまま放置してしまうことが多いというのです。
確かに上司や先輩は忙しそうにしているので声をかけるのは気が引けるし、リモート環境で仕事をしていると、より一層質問しづらくなる気持ちはわかります。でも、わからないことをそのままにしていると、仕事上のミスにつながるリスクがありますし、自らの成長も図られません。また、上司や先輩は忙しそうにしていても、「わからないことがあるので質問していいですか」と言われたら、必ず時間をとってくれるはずです。
疑問点・不明点があれば、勇気を出して質問する。新入社員には質問する責任があるのです。
第3の責任「奉仕責任」
松下幸之助は、ある講演会で「ビジネスマンの最も重要な責務は何か」と問われ、次のような持論を述べました。
簡単にいうと、みんなに愛されることですね。『あの人がやってはるのやったらいいな、物を買うてあげよう』というふうにならないといかんですよ。そのためには奉仕の精神がいちばん大事です。奉仕の精神がなかったら、あそこで買うてあげようという気が起こらない。そうですから、ビジネスマンのいちばん大事な務めは愛されること、愛されるような仕事をすることです
昭和58(1983)年4月、YPO(Young Presidents' Organization)の世界大会における基調講演時の質疑応答より
松下幸之助は、愛されるためには「奉仕の精神」が必要であると述べています。奉仕の精神とは、相手の立場にたって、その人のお役に立つために行動しようという心がけのことを意味しています。
新入社員の時から、この心がけをもって仕事をし、職場生活を送っていくことは決定的に重要です。なぜならば、その気持ちと行動があれば、お客さまや社外の関係者、社内の上司・先輩・同僚から、「ありがとう」「助かった」「あなたのおかげです」と言われる頻度が上がり、愛される人になっていくからです。
愛される人は、困っているとき、周囲の人が手を差し伸べてくれるし、日常的にも協力者が多いので仕事の成果が上がりやすくなります。結果として、仕事上のやりがいを感じ、自身の成長も促進するのです。
奉仕責任を果たし周囲にお役立ちを図っていくことが、回りまわって自分のベネフィットにつながるのです。
感謝すること・感謝されること
「感謝が感謝を生み、不平が不平をよぶ」(作者不詳)ということばがありますが、古今東西、感謝することの重要性が述べられてきました。最近では、宗教的、哲学的な観点からのみではなく、科学的な観点からも、感謝することの重要性が明らかにされつつあります。
Emmonsたちの研究によると、感謝の気持ちをもつ人のほうが、より幸せで、落ち込む事やストレスが少なく、仕事や生活に満足することが明らかにされています。(※2)
感謝することが、ポジティブな思考や自己肯定感の高まり、他者との良好な関係づくり、さらには心身の健康向上、等々につながるので、当然の結果として人生や仕事において成功する確率が高まるのです。
でも、感謝することが大事だと言われても、「いやなこと、つらいこと、腹が立つことが多くて、感謝なんてできないよ」という人もいるでしょう。そういう人に対して、脳科学者の岩崎一郎氏は、「感謝の小さな種を見つける努力をして脳回路を少しずつ鍛えていく」ことを推奨しています。(※3)
具体的には、朝、職場で挨拶をするとき、相手のいいところを見つけてそれを伝えたり、お店で買い物をするとき、レジで店員さんに「ありがとう」と言ったり、バスを降りるとき、運転手さんに「ありがとうございました」と声をかけることです。
このような行動を繰り返していくと、「感謝の種」がどんどん見つかるようになり、自然体で感謝の気持ちをもてるようになるというのです。
※2 McCullough, M. E., Emmons, R. A., & Tsang, J. (2002). The grateful disposition: A conceptual and empirical topography. Journal of Personality and Social Psychology, 82, 112-127.
※3 『科学的に幸せになれる脳磨き 人生の豊かさを決める島皮質の鍛え方』(サンマーク出版)
感謝される経験がリーダーシップ発揮につながる
学生にリーダーシップ教育を提供していることで注目を集める立教大学経営学部の舘野泰一准教授は、学生がリーダーシップを発揮し始める転機になるできごとが、感謝される経験だと言います。ゼミ活動を進める中で、仲間のために貢献する行動をとったことで、「ありがとう」と言われた経験をした人は、それ以降、どんどんリーダーシップを発揮していくそうです。つまり、人の成長は、誰かのお役に立ったという貢献実感と相関関係にあるのです。
参考記事:卒業生は即戦力!立教大学経営学部の「リーダーシッププログラム」とは?
「誰かのために」という発想
感謝し、感謝されるためには、常に社会や顧客の側に立ってものごとを考える視点が不可欠です。
「どうすれば、お客さまの抱える課題を解決できるだろうか」
「お客さまの利便性を高めるために自分にできることは何だろうか」
お客様とは、社外の顧客だけではなく、前工程、後工程を担当する社内のメンバーも含みます。いずれにしても、顧客を意識した仕事の仕方が、その人の成長にとって重要な要素となることは、間違いないことです。
PHPゼミナールでは、人材育成の現場で、さまざまなビジネスパーソンの支援をしてきましたが、価値ある仕事、大きな仕事をしている人たちに共通しているのは、誰かのために役に立ちたいという思いをもっているということに気づかされます。
感謝することも、感謝されることも、一朝一夕でできることではありません。自分でテーマを決めた課題を一定期間、実践し続けることで、自分の周囲に徐々に変化が表れてくるのです。変化が出てくるまでの数週間は我慢が必要になりますが、それを乗り切ると今度は自分自身に変化が起きてくるでしょう。焦ることなく、愚直にやり続けて、自らの成長につなげていきましょう。
「社員稼業」という考え方
松下幸之助は、社員と会社の両方を活かす考え方として「社員稼業」という概念を提唱しました。
『社員稼業』という言葉は、あるいは聞きなれない言葉かとも思うが(中略)一言でいうなら、会社に勤める社員のみなさんが、自分は単なる会社の一社員ではなく、社員という独立した事業を営む主人公であり経営者である、自分は社員稼業の店主である、というように考えてみてはどうか、ということである。(中略)自分が社員稼業の店主であるとなれば、上役も同僚も後輩も、みんなわが店のお得意でありお客さんである。そうすると、そのお客さんに対し、サービスも必要であろう。第一、商品を買っていただかなくてはならない。創意工夫をこらした提案を、誠意を持って売り込みに行く。用いられたとなれば、わが店、わが稼業は発展していくわけである。その発展は自分だけでなく、社内に及び、さらには世の中に広がっていく。だからこの社員稼業に徹することは、自分のためにも、会社のためにも、社会のためにもなるわけである
『社員稼業』松下幸之助著(PHP研究所刊)
形の上では、企業に雇われているかもしれないけれども、心意気としては自分が経営者なのだ」と考え、自分以外のお客さまに何ができるか、もっと喜んでもらうためには、どんな専門性を磨き高めなければいけないか、そんな発想に立って仕事をすれば、やりがい・働き甲斐を感じつつ、自身の成長が加速するのではないでしょうか。
困難な時代に社会人のスタートを切った、今年の新入社員に贈りたいメッセージです。
まとめ:すべては自分の成長のため
新入社員が入社して間もないころは、できる仕事も少ないかもしれません。しかし、上記のような新入社員の責任や、感謝される仕事、社員稼業を意識していれば、必ず仕事力はついてくるはずです。最初は目立った成果も出ないし、実践していてもその有効性を感じにくいかもしれません。でも、愚直にやり切ることです。やり続けることで必ず成果も出るし、自分自身がそのことで成長するのです。
変化の時代を生きるカギは、持続的な成長を通じて変化対応力を高めること。自分のために、社会のために、成長することにどん欲であり続けていただきたいと思います。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。