世代継承性の視点から考える離職防止とOJT
2023年11月21日更新
離職者の増大は、企業にとって頭の痛い問題です。離職を食い止めるカギを握るのが現場のOJTですが、それが機能していない企業が増えています。なぜ、OJTが機能しなくなったのか、そしてこれからの日本企業がどのようにしてOJTを立て直し、離職率を低減させるか、その考え方を「世代継承性」という視点から考察します。
離職者の現状
人手不足が深刻化する中、いかにして人材を採用し、繋ぎとめるかはすべての企業に共通する最重要経営課題と言えます。しかし、企業の思いとは裏腹に人材の流出が止まらないのが現実です。
厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況」(平成31年3月卒業者)によると、新規学卒者の就職後3年以内離職率は、高卒が35.9% (前年比▲1.0P)、大卒が31.5% (+0.3P)でした。依然として、若手社員を中心に離職率が高いレベルにあることが調査結果からも明らかになっています。
参考記事:なぜ若手社員は会社を辞めるのか? 早期離職対策・3つのポイント│PHP人材開発
OJTの機能不全
なぜ、若手社員が離職するのでしょうか。筆者が日々、人材開発・組織開発の現場に身を置いて感じるのは、OJTの機能不全が若手社員の離職につながるケースが多いということです。
入社して正式に配属先が決まった後は、各職場でのOJTを通じて若手社員を育成するやり方が、かつての高度成長期(昭和時代)の日本企業のスタンダードでした。ところが、昨今は多くの企業でその取り組みが形骸化してきているようです。そのため、仕事をきちんと教えてもらえない、わからないことがあっても誰に聞いたらいいかわからない、困ったことや悩み事があっても相談する人がいない、といった状況に若手社員が陥り、その結果、離職していくのです。
参考記事:OJTとは? 人材育成における意味や目的、可能性を解説│PHP人材開発
OJTの担い手である上司・先輩の言い分
一方、OJTの担い手である上司・先輩にも言い分があります。特に管理職の立場にある方は、やるべきことが多すぎて部下一人ひとりと向き合って指導・育成する時間がとれないと言います。
また、自身が若手社員であった頃(平成以降)、上司や先輩から指導を受けた経験が少なく、必要な知識・情報やスキルは自分で獲得して一人前になったという認識をもっている人が多いようです。平成3年のバブル崩壊以降、「失われた30年」と言われる低成長時代に突入し、このころから日本企業のOJTの劣化が始まっていたのかもしれません。
この時期に入社した世代の人たちは「誰かに育ててもらった」という感覚がなく、「上司の背中を見て育て」という考え方をもっている人が多いようです。
世代継承性とは
ここで「世代継承性」という概念をご紹介しましょう。世代継承性は、精神分析学者・エリクソンが提唱した概念で、次世代の成長に深い関心を注ぎ、はぐくみ育てることが、成人としての成長・発達を促すという相互性を意味します。つまり、「誰かに育ててもらった」という感覚をもっている人は、「次の代の人たちを育てよう」という動機づけが働きますが、そういう感覚がない人は、他者を育てようという意識をもちにくいのです。
現代の企業でOJTが機能しなくなっているのは、平成以降に入社し、誰かに育てられた感覚が弱い人が管理職として現場のマネジメントをしている
からではないでしょうか。
こういう人たちには、入社後の自身の歩みを振り返って自分の育ってきた環境を客観視してもらう必要があります。誰かに育ててもらえなかったというトラウマが、部下を育てようという行動にブレーキをかけていることに気づかせると同時に、そのやり方でZ世代と呼ばれる若者たちが育つか、そして、そのやり方で離職者が減るか、考えてもらうのです。
そのような気づきの場を提供することで、上司・先輩の意識と行動が変われば、OJTの精度が上がり、離職防止にも大きな成果が上がるでしょう。
参考記事:【資料ダウンロード】「人を育てる人」になるための「指導力強化研修」のご提案│PHP人材開発
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年、PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年、神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。