「俺の言うことを聞かないからだめなんだ」と言ってしまったら、コーチを辞めます~倉野信次
2022年9月12日更新
千賀滉大投手をはじめ、プロ野球で活躍する投手のコーチを務めてきたことで知られる倉野信次氏。日々技術・体力・メンタルを磨き続けるプロ選手たちに負けないよう、コーチとしての力を磨き続け、共に成長してきたという。
倉野信次 Shinji Kurano
元福岡ソフトバンクホークスファーム投手統括コーチ
1974年三重県生まれ。宇治山田高校から青山学院大学に進学し、96年、ドラフト4位で福岡ダイエーホークスに入団。先発、中継ぎとフル回転で活躍も、2007年に引退。09年に二軍投手コーチ補佐に就任。11年からは三軍投手コーチを務め、19年には一軍投手コーチとして日本一を経験。21年シーズン終了後に退団し、渡米。野球の本場アメリカで、投手コーチとして武者修行中。著書に『魔改造はなぜ成功するのか』(KADOKAWA)がある。
選手の長所を探し、それを徹底的に伸ばす
2009年から21年まで、福岡ソフトバンクホークスで投手コーチを務めていました。その間に入団してきた選手には、千賀滉大投手や武田翔太投手らがいます。
「魔改造」で彼らを育てたと言っていただくことも多いのですが、私は「自分が育てた」とはまったく思っていません。彼らが私と接していたのは、1日のほんの数時間。成長のきっかけの一部を提供してきただけなのです。
そんな私がコーチとして心掛けていたのは、短所を直すよりも、長所を伸ばすことでした。短所は目につきやすいので、その改善に取り組ませる指導者は多いと思います。しかし、私は何よりもまず長所を探し、それを徹底的に伸ばすことに注力してきました。
もちろん、短所を改善することも大事なのですが、短所を直す過程で長所が失われてしまうことがあります。そんな場合は、私は短所の改善はいったん止め、長所を伸ばすことを優先してきたのです。
自分自身の「伝える力」を磨く
そして、彼らの長所を伸ばすために、自分自身の「伝える力」を磨くことにも力を入れてきました。
今も昔も、「あいつは俺の言うことを聞かないからだめなんだ」と言う指導者がよくいますが、それは「自分にはコーチや指導者としての能力がない」と言っているのと同じ。相手が聞いてくれないのは、自分に責任があります。伝え方、タイミング、言葉遣いなどの「伝える力」がないから、相手に響かないのです。
「なんでわからないんだ」と思ってしまうことはあります。そんなときも、「なぜわかってもらえないんだろう」「自分の伝え方の何が悪いんだろう」と考える癖をつけてきました。
伝える力を高めるためには、まずは相手のことをよく見て、相手のことをよく知らなければなりません。相手のことを知らなければ、伝えるための適切な言葉もタイミングも選べないからです。
結果を責めない
もう一つ、徹底してきたのが、「結果を責めない」こと。怠慢の結果なら叱りますが、一所懸命にやった結果なら、打たれようが四球を出そうがそれが実力です。結果を責めても仕方ないので、なぜそうなってしまったのか、どうしたら良くなるのかを一緒に考えてきました。それが長所を伸ばすことにもつながります。
もちろん、皆最終的には結果を出すために努力しているのですが、仮に結果に結びつかなかったとしても、努力し続けていれば何らかの形で必ず自分に返ってきます。私自身の経験からもそのことは確信を持って言えるので、努力し続ける大切さは、どんな場面でも必ず伝えるようにしています。
※月刊誌「THE21」2022年8月号掲載「私の人財育成論」より転載
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