対話を深めて企業精神を浸透する~成果を上げるための独自の経営哲学~
2026年2月26日更新

創業から130年以上の歴史を持つツムラは、トップが「覚悟」を示して理念浸透に取り組む会社の一つだ。そしてその取り組みは、『ツムラの理念経営』(PHP研究所)として1冊にまとめられている。コーチングを導入しての企業精神の浸透について、加藤照和社長にうかがった。
INDEX
株式会社ツムラ 代表取締役社長 CEO 加藤照和 (かとう・てるかず)

1963年愛知県生まれ。'86年、中央大学商学部卒業後、津村順天堂(現ツムラ)入社。経理部門などを経て、2001年に米国法人社長に就任。'06年、広報部長、'11年、取締役執行役員コーポレート・コミュニケーション室長を歴任し、'12年、代表取締役社長に就任。'19年より現職。
株式会社ツムラ
本社:東京都港区/設立:1893年/事業内容:医薬品(漢方製剤、生薬製剤他)の製造販売
企業理念は正しい方向を指し示す北極星のようなもの
企業は「成果」を上げる必要があります。では成果とは何か。自社の業績などではありません。私はドラッカー先生の定義に倣い、「社会に良い変化や影響をもたらすこと」だととらえています。
弊社は1893(明治26)年の創業以来、漢方製剤、生薬製剤の製造・販売を生業としてきました。この事業を通して、お客様、患者様のお役に立つ製品やサービスを提供し、社会をより良くしていくことに貢献するのが、私たちにとっての成果であり目的です。
企業理念とは、北極星のようにいつも同じ位置にあり、正しい方向を指し示して導いてくれるものです。時代が変わり、人が入れ替わっても、いつも正しく機能する組織であり続けるには、自分たちがやるべきこと、やらざるべきことを、常に理念に照らし合わせながら判断していくことが重要です。
その組織としての理念を体系化したものが「TSUMURA GROUP DNA Pyramid(ツムラグループDNAピラミッド)」です。これを全員が正しく理解し、判断の道標としていく。それが、私の理念経営の考え方です。特に現代は、先行きの見えにくい「VUCA(ブーカ)の時代」です。どういう戦術で戦ったらいいかを、その都度本部に聞いているような悠長な暇はありません。適宜、現場で即断即決していくことが求められます。ですから、どんな部署であっても会社として正しい判断ができるようでなければいけないわけです。
何に困っている世の中になっているから、何を提供していくのが望ましいのか。そのために何をする必要があるのか。トップの経営者だけでなく、組織全体がその場その場で考える必要性があり、自主自立的に正しく動けなければなりません。そしてその判断が、会社全体として正しい方向に進むものでなければいけない。そういう意味でも、理念浸透の必要性はいっそう高まっていると思うのです。
2012(平成24)年に理念浸透の取り組みを始め、2019(平成31)年に社内人財養成機関「ツムラアカデミー」を設置し、私は「さらに最低でも10年は続ける」と宣言しました。いくら担当部署が頑張ってくれても、各職場が業務優先のスタンスだと定着しません。その認識を変えてもらうには、社長として本気でやりますよという意志表明をし、トップとしての「覚悟」を示すことが必要だと思ったからです。一度始めたら途中でやめずに「継続する」ことも重要です。文化として定着させるには「10年」は続けなくてはいけないと考えてスタートさせました。
弊社の理念浸透活動の特徴は、理念の浸透と、チームビルディングのためのコーチングを組み合わせた「対話型」講座というスタイルにあります。理念を探究しながら、同時にチームづくりや円滑なコミュニケーション環境の醸成に役立つよう、コーチングを取り入れて実践的なシステムを構築しました。
コーチングの基本である「傾聴」「承認」「質問」によって対話を重ね、人間関係の質を高める。相互の関係の質が高まると、思考の質が高まり、それが行動の質を高めることになり、結果の質が高まる。「成功の循環」が起こります。理念を探究しながら、そういうスキルを自然な形で身につけられるようにしたのです。
企業にとって一番価値があるのは人財育成に投資すること
実は、コロナ禍が一つの転機になりました。コロナで各種研修を見送られた企業さんも多いかと思いますが、弊社ではコロナ前までにパソコンを使って会議に参加したり、リモートワークをしたりといった環境を整えることができていました。そこで、コロナ禍で出社できなくなったとき、「むしろオンラインで顔を見ながら講座をやろう」と力を入れることにしたのです。
集合研修はその場所に集まらなければいけませんが、オンラインなら全国どこの職場で働いている人も参加できます。移動の手間も費用もかかりません。大人数にも対応できます。普段まったく交流のない部署の人、これまで会ったこともない人とつながり、意見交換する場ができ、幅広いコミュニケーションの機会が生まれたことはとても大きかったです。
互いの感じていること、考えていることを知り、仕事でどんな苦労をしているのかがわかると、組織間の壁のようなものも自然となくなり、互いの仕事への理解や共感も進みます。社内において、対話の文化が確実に広まっているという手応えを感じることができました。
企業にとって一番価値あるもの、それは「人」です。どんなに立派な建物を持っても、どんなに立派な工場をつくっても、「もの」は経年劣化していきます。しかし人だけはどんどん成長し、入れ替わり、常に新しい状態になっていきます。ですから、企業として最も価値があるのは、人財育成のために投資をすることだと私は考えています。
もちろん私が社長であり続けるわけではありませんから、次の世代にバトンを渡すまで、できる限りのことをやり続けるのが、社長として会社を担ってきた私の責任であり、役目だと思っています。
創業者がどういう思いで事業を始めたのか、何を実現したかったのかという考えがどんな企業にもあります。それを一番端的に残されているのは松下幸之助さんだと思っています。「企業は社会の公器」と言い、自社の儲けではなく世の中のため、国のためを考えていたことはつとに有名ですが、弊社の創業者・津村重舎もまた、松下さんと近しいものの考え方をしていたことが記録に残っています。
弊社の理念体系の最上位概念、プリンシプル(原理・原則・理法)は「順天の精神」です。重舎は「順天=天の道に順う」ことを非常に大切にしていました。このことは、創業時の社名が「中将湯本舗津村順天堂」であったことからもわかります。
松下幸之助さんは「自然の理法に従った経営を行なう」と仰っていますが、「水は高きから低きに流れる」という言葉があるように、天地自然の理に合致した形で行なうのが一番無理のない経営だと思います。
事業の内容も、組織の運営も、時代時代で変わっていく部分もあるでしょうが、順天の精神のもと、変えるべきものと変えざるべきものを峻別していくためにも、理念は大きく役立つであろうと思っています。

TSUMURA GROUP DNA Pyramid(ツムラグループDNAピラミッド)
チーム力を高める「漢方薬的組織」
漢方薬は、複数の生薬が配合されてできています。生薬自体はもともと自然界にあるもので、漢方薬には天然物由来の多成分系医薬品という特性があります。そのため、それら生薬を複数組み合わせることにより、漢方薬には配合の妙が発揮されるのです。
生薬の配合は、その働きの違いから「君臣佐使」の4つに分類することができます。中心となる生薬の「君薬」、君薬の作用を補助し強める「臣薬」、君薬や臣薬の効能を調節する「佐薬」、さらに補助的な作用を調節する「使薬」です。生薬は単体としても効果を発揮しますが、他の生薬との配合により、主役にも脇役にもなります。
つまり、単体の力量だけに頼るのではなく、そのチームの持ち味をより有効に活かすために、組み合わせ方を変えるのです。それぞれが補い合うことで、複合製剤としてさらなる別の薬効を発揮する。要するに、1+1が2ではなく、3にも4にも5にもなる。より強い力を発揮する薬となるわけです。
西洋薬が化学的に精製された薬物の働きによって、一つの病気や症状をピンポイントに治すのに効果的であるのに対し、漢方薬の働きは、いわば自然の力を結集し、チームで全体の力を底上げし、薬効を高めていくものといえます。
私たちは、こうした漢方薬の概念は、人や組織を最大限に活かすチームビルディングにもいえるのではないか、と考えました。
人はそれぞれ異なる力を持っています。チームを組んで、互いに協力し、調整し合って仕事を進め、成果を出す。ただ、あるプロジェクトで中心的リーダーを務めた人が、常にリーダーに適任かというとそうとも限りません。支える側に回り、チームの調整を行なう佐薬的な役割を果たしたほうが効果的なこともあります。
個人の力量や持ち味だけで判断するのではなく、漢方薬のように、チーム全体でのバランス、配合の妙という視点で考えると、人や組織の運用についても、より柔軟な発想でのチームづくりができます。
人や組織も、漢方薬のように全体的、総合的な視点から調和を目指し、バランスの妙でチーム力を最大化させていこうということで、これを私たちは「漢方薬的組織」と呼んでいます。創業から131年、漢方製剤に携わり続けてきた会社だからこそ気づいたこの視点を、一つの強みとしていきたいと考えています。
「ウェルビーイングな社会」のために私たちが目指すこと
では、漢方薬的組織という発想でチーム力を高め、これからの時代に向けて何を目指していくのか。それは「ウェルビーイングな社会」への貢献です。
医療の質はどんどん向上し、様々な病気の「治療」が可能になっています。弊社は、漢方医学と西洋医学の長所を活かした全人的医療や、その人その人に最適な個別化治療の実現に貢献したいと考えています。しかし、医療がどんなに進歩しても、病を得てからの治療は後手と言わざるをえません。病気にかかってしまってから治すのではなく、もう少し早いタイミングで、病気にならないようにする。これからの医療や健康対策はますますそういう流れになっていきます。
漢方医学では、まだ病気と呼ぶ状態にはいたっていないものの、本来の身体の調和が乱れかけている兆しがある状態を「未病」と呼んできました。未病の段階で対応できれば、患者さんの心身の苦痛も軽減でき、早く健康状態を回復させることができます。
中医思想に「未病三防(治未病/重症化抑制/再発抑制)」という考え方があります。
●治未病...病になる前に治す、あるいは防ぐこと(未病先防)
●重症化抑制...病気が悪化、重症化する前に手を打つこと(既病防変)
●再発抑制...治癒した後に再発させないこと(癒後防復)
これからの時代は、こうした「未病三防」がより重視される社会になっていくと考えられます。私たちの持っている生薬や漢方薬で何ができるか、エビデンスベースでしっかりと確認し、効果のあるものを提供できるようにしていきたいと考えています。
さらに、未病のもう一歩前で予防することを私たちは「養生」と呼び、「栄養(食)・運動・睡眠・ストレスマネジメントに留意し、身体が本来持っている自然治癒力を高め、健康増進をはかることで心も身体も快適に生きていくこと」と定義しています。この養生の分野においても、私たちの知見や、生薬を活用できるようにすべく、様々な取り組みを始めています。
医療費の圧迫が財政に甚大な影響を与えている現代の日本において、未病や養生の段階で健康を改善できれば、個人にとっても国にとっても経済的な負担が軽くなります。そういう意味でもより良い社会のためになります。治療から未病へ、さらに養生(予防)へ。ウェルビーイングな社会を目指し、貢献の領域を広げていきたいと考えています。
社会への貢献と個人の幸せがリンクした人生に
コーチングを定着させる成功の秘訣に「内製化」があります。単に受講を促すだけでなく、コーチングの社内講師を養成することにしたところ、積極的に受講してくれる社員が多く、社内講師はすでに64名まで増えました。最終的には、各職場に社内講師が必ず1人はいる状態を目標としています。
外部の講師だけにお願いするのでなく、社内講師に経験を積んでもらうようにしたことで、コーチングがより身近なものとなったようです。
社内で得た経験や取得した資格を活かしてキャリアアップや副業につなげていけると、それぞれの人生にとって選択肢が広がり、個々の人生がより豊かになるのではないかと考え、副業支援制度も導入しました。
人生100年時代が到来し、健康でまだ十分活躍できる状態で定年を迎える人が増えています。定年後の人生に新たなビジョンや希望が見出せれば、個としても幸せですし、ツムラで身につけたことが世の中のために活かせるのは非常に望ましいことです。
社会をより良くしていくことに寄与できているという意識が持てるのは、人生を豊かにしていくための大切な要素です。個人の自己研鑽と成長、組織の成長、そして会社の成長、この3つがうまく調和しながらいい形で進んでいくのが理想です。
取材・構成:阿部久美子 資料・写真提供:ツムラ
本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.12から転載したものです。登録不要、全編無料でお読みいただけますので是非ご覧ください。




































































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