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信頼する~松下幸之助「人を育てる心得」

2016年2月23日更新

信頼する~松下幸之助「人を育てる心得」

指導者は人を信頼し思い切って使うことが大事である

漢の高祖劉邦が項羽と天下を争っていた時、最初は項羽の勢いが強くて、漢側は押され気味であった。その時、漢の知謀の士陳平は、はかりごとを用い、項羽の軍師の范増や主な将軍たちが漢に気脈を通じているかのように見せかけた。項羽はまんまとそれに引っかかって、軍師や将軍たちを疑い始め、そのため范増は憤慨し、項羽を見限って去ってしまった。こうしたことから、一時は優勢を誇っていた項羽もしだいしだいに退勢に陥り、敗れ去るのである。のちに高祖は項羽の敗因を、「自分は部下の力をうまく使ったが、彼は范増一人すら使いこなせなかった」ことにあるといっている。

人を使うコツというものはいろいろあるだろうが、まず大事なことは、人を信頼し、思い切って仕事をまかせることだと思う。信頼され、まかされれば、人間はうれしいし、それだけ責任も感じるものである。だから自分なりにいろいろ工夫もし、努力もしてその責任を全うしていこうとする。いってみれば、信頼されることによって、その人の力がフルに発揮されてくるわけである。

ところが実際には、人を全面的に信頼するということはなかなかむずかしい。「これだけのことをまかせても大丈夫だろうか」「これは最高の機密だが、それを知らせたら他へもらしはしないだろうか」といったように、いろいろな疑念が湧き起こってくる。また事実、人間というものは、すべて一〇〇パーセント信頼できるものではないということもいえるだろう。

しかし、そこが大事というか妙味のあるところで、人間は、疑いの気持ちをもって接すれば、そのように反応し、信頼の気持ちで接すれば、これまたそのように反応する面があると思う。多少とも疑いの念を抱いて、信ずるがごとく信ぜざるがごとく、したがってまかすがごとくまかせざるがごとくといった姿では、人はとうてい喜んで働くというわけにはいかない。

やはりまず、強い信頼感をもってのぞまなくてはいけない。たとえその信頼を裏切られても本望だというくらいの気持ちがあれば、案外に人は信頼にそむかないものである。

特に今日はあらゆる面で不信感が強く、それが精神的葛藤や争いを生み、はなはだしい場合には物の破壊にも結びついている。それだけに、各方面の指導者がまず信頼の念をもって人に接するということがきわめて大事だと思う。

【出典】
PHPビジネス新書『指導者の条件』

松下幸之助経営塾

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