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後継者育成の進め方~事業承継を成功させるポイント、留意点を解説

2023年7月 7日更新

後継者育成の進め方~事業承継を成功させるポイント、留意点を解説

日本企業の多く、特にオーナー企業、中小企業では後継者不在が大きな経営課題になっています。早期に後継者育成に着手し、スムーズな事業承継をすすめる必要があります。本記事では、後継者育成の目的や重要性を確認し、後継者育成計画(サクセッションプラン)を策定し、実行していくポイントを解説します。

INDEX

なお、事業承継の基本的な進め方についてはこちらの記事も参考にしてください。

参考:事業承継の方法とは?~基本的な手順とポイントをわかりやすく解説

事業承継と後継者育成

後継者育成は中堅・中小企業の経営者にとって一番の悩みといえるかもしれません。2023年4月、後継者不在に起因する倒産は43件と前年同月を上回りました。会社存続のためには、早めの後継者選びと育成が欠かせません。

後継者不在による倒産・廃業の大きな要因を占めるのが、経営者の死亡・体調不良です。中堅・中小企業では、経営者が1人で経営のほとんどを担っていることも多く、経営者にもし万一のことがあれば会社の存続そのものが危うくなりかねません。

参考:東京商工リサーチ「2023年4月の「後継者難」倒産43件 4月では、調査開始以降で最多を記録」

後継者育成の目的

後継者育成は、経営者不在による会社存続の危機を防ぎ、スムーズな事業承継を進めることが目的です。経営者の引退を見据えて行われることもあれば、社内の変革を予定して適性のある人材を抜擢、育成することもあるでしょう。

大きな会社になればなるほど、会社は経営者だけのものではありません。社員や取引先、株主など、ステークホルダーが信頼し、安心できる事業承継の道筋をつけることは、経営者にとっての社会的な責務でもあるのです。

後継者育成の重要性

十分な後継者育成をせずに事業承継した場合、事業が不安定になり、業績が悪化する事例は数多くあります。役員・社員としては優秀であっても、社長として適格者とは限らないからです。まして家族、親族だからという理由だけで事業を承継することは危険が伴います。

特に創業経営者が率先して企業を成長発展させてきたケースでは、事業承継が業績に与える影響には大きなものがあります。創業経営者の信頼やカリスマ性でまとまっていた会社が急激に求心力を失うようなことになれば、優秀な人材の引き抜きや離職を招き、事業存続も危うくなります。事業承継後も会社を成長させるためにも、早くから後継者育成に取り組まねばなりません。

後継者育成計画(サクセッションプラン)の必要性

スムーズな事業承継を実現するには、「後継者育成計画」が欠かせません。最近では「サクセッションプラン」とも呼ばれ、さまざまな企業でその策定がすすめられています。

後継者育成計画とは、自社の現状分析から後継者の選定、育成、事業承継までの一連の計画を指します。3年、5年、10年、もしくはそれ以上の長期的なスパンで策定する必要がありますが、ここでは一般的な流れをみていきましょう。

自社の現状を分析し、経営戦略を明確にする

後継者育成計画を策定する前に、まず経営者自身が自社の現状を再確認しておく必要があります。経営理念や中長期のビジョン、企業としての価値観を明確にすることで、後継者候補の選定や育成方法を決める大切な判断基準となります。自社の強み・弱み、経営課題を洗い出していけば、後継者候補にどのような人材を抜擢するかも明確になってくるでしょう。

長期的な視点で事業環境や業界・競合他社の動向を分析し、今後の経営方針、経営戦略を再確立することも大切です。そのうえで、次代に引き継ぐべきもの、守り抜くもの、変えるべきことを経営者自身がはっきりと描き、後継者育成計画へとすすんでいく必要があります。

後継者の人材要件を定義する

後継者に求められる人材要件を定義しておくことも必要不可欠です。後継者に求められる要件は企業ごとに異なりますが、一般的に求められるスキル・知識、資質は以下のものがあげられます。

スキル・知識

  • 経営に関する知識
  • 業界に関する知識
  • 十分な実務経験とマネジメントスキル
  • リスクに備え適切に対処できる危機管理力
  • コミュニケーション力・語学力

資質

  • 経営の志(使命感、責任感、覚悟など)
  • 人望、リーダーシップ
  • 主体的に判断して行動する力
  • 自身や周囲を客観的に見る視点
  • 謙虚に学ぶ姿勢
  • 自社に対する深い理解

後継経営者の人材要件は、経営者自身の企業経営に関する考え方や価値観が色濃く出てくるものです。その検討をすすめるプロセスで、経営者自身が思わぬ気付きを得ることもあるでしょう。またひとりよがりに陥らないためにも、役員や人事部などと討議を重ねてつくりあげていくようにします。

後継者を選定する

先に述べたような人材要件をすべて最初から満たしている人材はなかなかいないでしょう。ですから、まずは経験を積むことで将来的に満たせると判断できる人材を候補に選定することからはじめましょう。

後継者候補の選定方法は、自薦、他薦、試験などさまざまあり、複数を組み合わせるのが一般的です。ただし企業文化にもよるため、これといった方法が確立されているわけではありません。とはいえ、少なくとも定義した人材要件を基準として、現在の力量だけではなくポテンシャルも含めた長期的な視点で候補者を選定するようにしてください。

単に一定の年齢とキャリアを積んだ人材から順番に補充するというような年功序列、情実人事は、今後通用しなくなるでしょう。昨今では若くて優秀な経営者がどんどん抜擢され、組織にイノベーションをおこしています。要件に適した人材であれば早くから経験を積ませ、後継者候補として育成していくべきでしょう。

後継者育成計画を実行する

候補者を選定したら、各候補者の現状に応じて育成方法・スケジュールを策定・実施します。伸ばすべき強みや補うべき弱みは候補者ごとに異なるため、一人ひとりに応じた育成計画の作成が必要です。育成方法は現場の業務やマネジメントを実際に行うことに加えて、セミナーを受けさせたり他社で勤務経験を積んだりする社外での教育があげられます。

育成計画は定期的に進捗状況を確認し、適宜改善していくことも大切です。計画が当初の目的からずれてきたときは、計画全体を見直すなど柔軟に対応していきましょう。

ただし、せっかく後継者育成計画を策定しても、そのプロセスで候補者が退職したり、ヘッドハンティングされたりすることもありえます。そのため、候補者は幅広い人材から一定の人数を確保しておくことが大切です。

さらに人事部門としては、後継者候補とその他の社員の間に溝や軋轢が生じないよう施策も事前に検討しておくべきでしょう。また、候補から外れる人材も当然出てきますので、その人のモチベーションの維持なども課題となるでしょう。

なお後継者育成計画、「サクセッションプラン」の策定については、こちらでも詳しく解説しておりますのであわせてご一読ください。

参考記事:「サクセッションプランとは?目的や作り方を成功事例とともに解説」

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後継者育成の具体的な方法

後継者育成の機会は、大きく社内と社外に分けて考えます。自社の各部門の業務を経験して理解を深めることはもちろん大切ですが、他社での経験から見識を高めたり、視野を広げることはとても有益です。それぞれ、具体的にみていきましょう。

さまざまな部門の業務、役職を経験させる

社内で、営業や製造開発、財務、人事などの業務をローテーションし、その役職者を経験させることはとても有益です。実際に現場で働くことで、お役様の声や社員の考え方に精通することは、経営者としての登竜門といえるでしょう。

「あの人は営業畑だ」「あの人は技術に強い」といった持ち味は当然あるでしょうが、それでもさまざまな業務を横断的に経験することで、トップに必要な全社的な視点を身につけることは必要不可欠です。そこで社員とのコミュニケーションを深め、信頼関係をつくれれば、次期経営者としての支持を集めることも期待できます。

経営に参画させる

一定の経営権限を与え見識や判断力を身につけてもらうことも必要です。松下幸之助は「経営学は学べるか経営は自得するもの」と言っていますが、単に経営の知識を身につけるだけでなく、実体験として血肉にすることが求められます。本部長、役員といった幹部職として経営に参画することで、トップとしての姿勢や振る舞い、リーダーシップを自得していくのです。

部門管理者として組織をマネジメントすることと、経営の意思決定に参画し企業の舵取りを担うことでは、求められるレベルも重圧も大きく異なります。なぜなら経営の知識やノウハウ以上に、志、使命感、責任感、覚悟といった要素が問われるからです。これは一朝一夕に身につくものではなく、経営の実務経験を積みながら涵養していくしかありません。

経営の意思決定の場に参画させ、トップとしての意見、判断を求め、必要な助言を与えながら後継者の見識を養っていくようにしてください。

現経営者が直接指導する

現経営者からの直接指導もきわめて有効です。経営理念、創業の思いなどは直接指導でしか伝えられないものかもしれません。役員会や経営会議などの場での指導はもちろんですが、定期的なコミュニケーションを欠かさず、経営者としてのあり方をくりかえし訴えていくようにします。経営者のそばで一緒に業務をするだけでも、経営者として何が必要かを学ぶことができるでしょう。

指導の場では、ときにお互いの考えがぶつかり合い軋轢が生じることもあります。お互いが真剣であればあるほど、そうなるのは当然ですし、その議論の中から気づきを得るのが一番の学びになるのです。ただし、一方的に考え方を押し付けるのではなく、つねに相手に考えさせ、独自の知恵や考え方を引き出していくというスタンスを保つ必要があります。

経営に唯一絶対の答えがあるとはかぎりませんので、そうした指導を通じて次期経営者としての可能性を伸ばしていくようにします。

外部企業で経験を積ませる

事情が許せば、取引先など、外部の企業で働くことで、自社では得られない経験を積ませるようにしたいものです。自社の経験だけでは経営者として学べる内容に限界があり、視野を広げることができません。より広い経営の視点を持ち、自社にはない価値観を体感するためにも、他社での業務経験は有益です。

後継者候補を子会社に出向させ、そこの社長や役員を経験させることで経営者を育てるという方法もあるでしょう。中小企業の場合はそうはいきませんが、それでも畑違いの事業責任者を担当させるということは可能です。とくに「困難な新規事業を立ち上げさせる」「あえて業績が悪い事業を再建させる」というミッションを与えてみてはどうでしょうか。そこで得た修羅場経験は、経営者としての血肉になります。主要な事業、成長分野だけしか担当しないまま出世した人材は、とつぜんの環境変化や苦境にもろいものです。

事業責任者として成功、失敗経験を積み、自身の中に経営の原理原則を確立できれば、頼もしい後継経営者に育つでしょう。

研修セミナーに参加させる

視野を広げるという点では、早い時期から外部の研修セミナーに参加させることも検討しましょう。研修セミナーに参加することで、トップとして必要なスキルや幅広い知識、経営の原理原則をを身につけることができます。

事業承継に関しては、自治体や公的機関、民間企業などが後継者向けのセミナーを開催しており、経営戦略や財務会計、労務管理など、経営に必要な知識を体系的に学べます。セミナーで得た知識は実際の事業でも活かすことができます。

また、そうした研修セミナーに参加することで、貴重な人脈をつくることもできます。後継経営者同士で悩みを共有したり、先輩経営者やコンサルタントから助言を得る貴重な機会にもなりますから、活用しない手はありません。

事業承継を成功させるための後継者育成の留意点

事業承継後も安定した経営を実現するためには、早期から育成を始めるなどいくつかのポイントを押さえることが大切です。ここでは、事業承継を成功させるための後継者育成のポイントを紹介します。

早期から育成を始める

経営者に万一のことがあるなど、事業承継は予期せぬタイミングで必要になるケースもあります。後継者育成には時間がかかります。早期に着手し、万全の体制を整えておきたいものです。

後継者をサポートする人材も育成する

後継者の育成では、同時並行で後継者を補佐する人材を育成することも大切です。経営のトップに立つ後継者は孤独になりがちであり、責任感から精神的に追い詰められることもあるでしょう。相談相手となる補佐役がいることで、後継者としての任務にも不安なく取り組むことができます。補佐する人材を育てるのも一定の時間がかかるため、後継者育成育成計画に組み込み、同時に進めるとよいでしょう。

経営理念を継承させる

事業承継で経営者が変わると、社内に変化が起こることは避けられませんし、むしろ当たり前のことともいえます。しかし、社員が混乱するようでは問題ですし、旧経営陣との間に軋轢が生じるといったことも避けなければなりません。

そこで重要なのが経営理念です。経営理念は企業の求心力の根幹です。時代や市況などにより経営方針や戦略は変わるものです。しかし経営理念はそうではありません。事業の羅針盤である経営理念は、後継者にしっかりと引き継いでおきたいものです。

まとめ:松下幸之助が考えた経営者、後継者に求められる要件

本記事のまとめとして、松下幸之助が考えていた経営者に求められる要件をご紹介しましょう。

松下幸之助は、折にふれ、企業経営において経営者の果たす役割がいかに大きいかを訴えていました。業績不振の会社が、社長1人交替しただけで見違えるように業績が上がり、社会に貢献するようにもなるし、経営者の判断や経営姿勢が当を得なければ、会社全体の大きな損失に結びつき、従業員の生活、生命にかかわるばかりでなく、広く国家社会に迷惑をかけることにもなりかねないというのです。

だから経営者は、その適格者が当たらなければならない、というのです。では、経営者としての適格者とはどのような人なのでしょうか。松下幸之助は、『PHP』昭和42年8月号で「だれが経営者になろうとも」というテーマのもと、経営者がもつべき基本の資格要件について以下の4つをあげています。

  • 1.確固とした事業観
  • 2.すぐれた経営的識見
  • 3.経営を進めていく実行力
  • 4.強い責任

4つの要件を完璧に満たすことはむずかしいかもしれませんが、もしこの資格要件に乏しい人が経営者になれば、結局その人自身が困るだけではなく、周囲にもよい影響を与えない。だからそのような人は、他により適性のある道を求めることが大切であり、ある程度適性のある人でも、常に自分が経営者としてふさわしいかどうかを自問自答し、みずからの経営力を高めていくことが大事だ、と述べています。 

事業承継をスムーズに進め、会社を存続させるためにも、早い段階からの後継者育成が求められます。後継者育成計画を策定し、後継者候補への教育を進めていくうえで、ぜひ参考にしてみてください。

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