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企業の存在意義、経営の目的とは何か~松下幸之助に学ぶ

2023年6月20日更新

企業の存在意義、経営の目的とは何か~松下幸之助に学ぶ

松下幸之助の経営に関する主要著作として『実践経営哲学』があります。この本には、幸之助が60年にわたる事業体験を通じて培い、自ら実践してきた経営の考え方・哲学が20項目にわたってまとめられています。ここでは、『実践経営哲学』やその他講演録をひもときながら、幸之助の経営に対する見方・考え方をご紹介します。

INDEX

松下幸之助(まつした・こうのすけ)

パナソニック(旧松下電器産業)グループ創業者。PHP研究所創設者。
1894(明治27)年、和歌山県生まれ。9歳で小学校を中退、大阪に出て火鉢店、自転車店で奉公生活を送る。大阪市内を走る路面電車を見て、電気の将来性を感じ、1910(明治43)年、大阪電燈(現関西電力)に入社。1917(大正6)年、最年少の検査員になるものの、自ら考案したソケットを製造販売したいという思いなどから独立、翌18(大正7)年、松下電気器具製作所(のちの松下電器産業)を創業。高品質で安価な自転車用電池ランプ、電気アイロン等を開発し、成功を収める。その後、独自の経営理念と、それに基づく事業部制組織の採用、連盟店制度による販売システムの構築など斬新な経営手法によって、日本の家電産業を牽引、松下電器を一代で世界的企業へと築き上げた。その一方で、1946(昭和21)年、「Peace and Happiness through Prosperity=繁栄によって平和と幸福を」のスローガンを掲げ、PHP研究所を創設。また21世紀を担う指導者の育成を目的に、1979(昭和54)年、松下政経塾を設立。『道をひらく』『実践経営哲学』等、著書多数。1989(平成元)年、94歳で没。

経営はあらゆるところにある

松下幸之助は、著書である『実践経営哲学』において、最初に「まず経営理念を確立すること」を取りあげています。そして、経営理念は次の二つの点において、しっかりとした基本の考え方を持っていなければならないとしています。

(1)この会社は何のために存在しているのか?
(2)経営をどういう目的で、どのようなやり方で行なっていくのか?

幸之助は創業当初から経営理念を持っていたわけではありません。多くの人と同様で、社会の通念に従って熱心にやっていたにすぎなかったのです。しかし、事業経営に真摯(しんし)に取り組む中で、きっかけを得て、「自分には生産者としての真の使命がある」ということに気づきました。その経験から、どんな事業にもなくてはならない存在意義がある――幸之助は、まずこのことをしっかりと自覚することが大切だとしていました。

次に幸之助が指摘したのは、「経営はあらゆるところにある」という点です。小は個人商店の経営から、大は社員何万人を擁(よう)する大企業の経営まで、規模は異なりますが、経営という点では同じです。また、人それぞれの人生の経営、社会に存在するいろいろな団体の経営、さらには一国の国家経営があります。加えて現代は、世界の国家が寄りあう世界(連邦)経営があるともいえます。

そこで求められるのは、"この経営を何のために行なうか、そしてそれをいかに行なっていくのか"という基本の考え方、すなわち経営理念が存在するかという点です。

人間が計画を立てて行なう活動や営みはすべて経営

ひと口に経営といっても、これにはいろいろあると思う。たとえば、今日のわが国には、大小さまざまな数多くの企業があるが、これらの企業の運営というものも、一つの経営である。また大きく考えるならば、一国の政治というか、一国の国家運営も一つの経営だといえないことはない。あるいは、個々の人々がそれぞれ属している家庭なり団体というものの運営も一種の経営だといえるであろう。さらに考えるならば、個々人の人生をいかに進めていくかということも、一つの経営だと考えてもよいと思うのである。
辞書によれば、経営とはもともと建築上の言葉で、「土地を測量し、土台を据(す)えて建築すること」だという。そしてそれが転じて、「ある目標を立て、これを達成するために、規模を定め基礎を固めて、物事を治め営んでいくこと」という意味に用いられるようになったという。その定義に従えば、人間が計画を立てて行なう活動なり営みは、すべてこれ経営ということになるであろう。
このように、経営といっても、それにはいろいろのものが考えられるわけだが、私は、人間の行なうこれらいっさいの経営というものは、それ自体非常に価値の高いものではないかと考えている。

出典:『松下幸之助発言集 40』、PHP研究所

経営は総合芸術である

この文中で、幸之助は経営という行為をきわめて価値の高いものであると指摘していますが、一方で「経営は生きた総合芸術」だとも述べています。

すなわち、工場の施設、製品そのもの、販売の方法、人の育て方・生かし方、財務内容など一つひとつが立派で、それらを総合した経営自体に経営理念が躍動している――そうした芸術的な経営を経営者は求めていくべきだと、幸之助はいうのです。

経営は生きた総合芸術、経営者は総合芸術家

経営者というものは、私は、広い意味で芸術家やと思うのです。というのは、経営というものは一種の総合芸術と思うから。一枚の白紙に絵を描く、そのできばえいかんで、いい芸術家と評価され永遠に残る。要するに、白紙の上に価値を創造するわけですわな。これ、経営と同じです。
むしろ、われわれ経営者というものは、白紙の上に平面的に価値を創造するだけじゃない。立体というか、四方八方に広がる芸術をめざしている。それだから、生きた芸術、総合的な生きた芸術が経営だと─そういう観点で経営を見なければならんというのが、私のとらえ方です。
そういう目で見ると、経営というものは素晴らしいもので、経営者というものは大変な仕事をする人なんです。ところが、なかなか世の中はそう評価してくれませんけどな。(笑)
単なる金儲けとか、合理的な経営をするとか、そんな目からだけ見たらいかん。結局、人生とは何なのか、人間とは何かというところから出発しなければいけない。それは、人前では商売人です、毎度ありがとうございますと言うているけれども、内心では、すこぶる高く自分で自分を評価しているんです。総合芸術家なんだと。だから、その評価に値するだけの苦心なり、悩みがある。これが経営者というものの本来の姿です。

出典:『松下幸之助発言集 18』、PHP研究所

企業は社会の公器

世の中にはたくさんの企業が存在しています。住宅やビルといった建築構造物から、あらゆる生活物資、さらにはサービス・情報といった無形財まで、人々の生活に役立つさまざまな商品が開発・生産されることで、世の中は成り立っています。それら商品を生み出す企業は、すべてお金儲けのために活動しているのでしょうか。

幸之助は、自分たち経営者は何より「世の人々が自分たちの商品やサービスを求めてくれるから事業を継続できる」こと、すなわち「社会から必要とされているからこそ存在できている」ことを重視していました。

まして、企業は天下の人、天下の土地、天下の金を使って、経営を進めているのです。だからこそ、企業経営は私事ではなく、企業は社会の公器であるという考え方を持たなければならないというのです。

幸之助自身、常に社会に対してプラスになるかマイナスになるかという観点から物事を考え、判断するようにしていました。たとえば"この会社がなくなったら、はたして社会にマイナスをもたらすだろうか。もしも、この会社の存在が社会のプラスにならないのなら解散したほうがよい。多数の人を擁する公の機関として社会に何のプラスにもならないことは許されない"とこのように考え、社員にも訴えていたのです。

「企業は社会の公器である」という考え方に立てば、人を使うことも、私事ではなく公事であるという認識のもとに行なう必要があります。なぜなら、自分一人の都合、自分一人の利益のためだけに人を使っているのではなく、世の中によりよい形でお役に立つために、人に協力してもらっているにほかならないからです。

人に働いてもらっていれば、ときには叱ったり、注意をしたりしなくてはならない場面もあります。人情としては、叱るほうも叱られるほうもあまり気持ちのよいものではありません。しかし、企業は社会の公器であり、人を使うことも公事であるとすれば、私的な人情でなすべきことを怠(おこた)るようなことは許されなくな ります。"企業の社会的責任"として人を育成し、よい企業人、よい国民に育てなければならないというわけです。

このように幸之助は、「企業を社会の公器と考え、その企業の使命に照らして、何が正しいかを考えつつ、経営を進めるように心がけなくてはならない」と説いていました。

そうした基本姿勢に立ちながら、幸之助はよりよい経営とはどういうものかについて、自己の体験を通して考え抜き、いわば原理原則ともいえる経営のあり方を確立していきました。

※本記事は、PHP通信ゼミナール『〈新版〉松下幸之助に学ぶ』のテキストを抜粋・編集して制作しました。

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