経験学習モデルとは? ~D.コルブが提唱する「経験を学びにする方法」
2022年7月12日更新
組織行動学者のD.コルブが提唱する「経験学習モデル」を参考に、私たちが経験を学びとして成長するための方法を解説します。
「経験学習モデル」とは?
人が成長する上でどのような出来事が有益なのでしょうか。米国のコンサルティング会社『ロミンガー』社の調査によれば、経験70%・薫陶20%・研修10%という結果が明らかにされています。経験とは仕事そのものを通じての経験学習であり、それが最も人の成長に大きな影響を及ぼすというのです。
組織行動学者のD.コルブが提唱する「経験学習モデル」によれば、人が経験を通して学習するプロセスには、次の4つの要素があります。
1)具体的経験(日々の仕事に取り組む中での具体的な経験を重ねること)
2)省察(自分の経験を多様な観点から振り返って気づきを引き出すこと、リフレクション)
3)概念化(自分なりの『自論』を形成すること)
4)試行(自論を新しい状況のもとで実践してみること)
コルブの主張によれば、これら四つの要素を順に辿りながら、かつ1→2→3→4→1→2→ ... というように継続的にサイクルを回していくことで、人は成長することができるというのです。
経験学習モデルで重要な「省察」
この四つの要素の中でも注目したいのが、「省察」です。日々の出来事や経験を振り返り、自分にとってのレッスンを引き出すことは、人の持続的な成長に欠かせないことです。そのためにも、自分と向き合い自己対話する時間を設けることが必要になりますし、また他者からの問いかけやフィードバックがあれば、多様な観点からの振り返りができ、視野の拡大につながることでしょう。
「省察」がリーダーに特に必要な理由
「省察」は、組織を率いるリーダーにとっては、とりわけ重要です。
昨今の上司は、部下に対して高い要求をすることもないし、言うべきことがあってもソフトな言い方で取り繕うなど、優しいリーダーシップを発揮する方が多いようです。
なぜ、部下に対して厳しく毅然とした態度を取れないのでしょうか。それは、リーダーとしての持論が充分に練られていないことが原因と思われます。
リーダーに求められる持論とは、「我々の組織の使命は何か」「事業を通じて誰にどのような価値を提供しているのか」「なぜ、事業を発展させなければいけないのか」といった仕事観から、「人はどうすれば成長するのか」「どのような生き方をすることが幸せなのか」という人生観に至るまで、広範囲に及びます。
リーダーがこのような持論をもてば、「何が正しいか」「何をするべきか」という判断の基軸が明らかになりますし、行動することへの勇気も出てきて、厳しいリーダーシップを発揮できるようになるでしょう。
リーダーシップのあり方と組織への影響
リーダーシップのあり方は、組織の状態に大きな影響を与えます。
心理的安全性と業績の相関性の観点から、組織の状態を類型化する考え方があり(※1)、上図では縦軸を心理的安全性の高低、横軸を成果獲得へのプレッシャーの高低として、組織の状態を4つのタイプに分類しています。この図では「学習&高業績ゾーン」が理想の組織の状態です。
左上の「快適ゾーン」は、心理的安全性が高いので一見いい組織に見えます。しかし、成果獲得へのプレッシャーが低くゆるい雰囲気なので、個々の成長が頭打ちになります。つまり、心理的安全性さえ担保すればいいというわけではないのです。適度なプレッシャーがないと、人の成長と組織の発展が止まってしまいます。
「学習&高業績ゾーン」に組織を近づけるためには、お互いに何でも言い合える雰囲気をつくると同時に、時には上司が耳の痛いフィードバックを行うなど、厳しさが必要になるのです。
参考記事:「心理的安全性」とは?
※1 Edmondson AC『Fearless Organization』(2018)
「経験学習モデル」を実践するには?
私たちは日々、さまざまな経験を重ね、たくさんの知識・情報にふれています。しかし、それらが自分の内側に取り込まれることは少なく、右から左へ流れてしまうことが多いのではないでしょうか。
先述の「経験学習モデル」では、経験を省察する(≒振り返る)ことで、さまざまな気づきが得られ、持論形成が促進するとされています。また、松下幸之助が長年実践していた自己観照(じこかんしょう)も、省察に近い行為と言えます。
このように、心理学の分野で導き出された理論も、経営者が実践を通じて紡ぎ出した実践知も、同じように振り返りの重要性を指摘しています。したがって、組織を預かるリーダーの方がたには、忙しい日々の中であっても振りかえりの時間を確保していただきたいものです。
- 今日一日、何があったか
- 自分のあり方はどうであったか
- 今日の学び、気づきは何か
- 明日に向けて、自分はどうあるべきか
こうした地道な取り組みによって持論が形成・強化されると、言うべきことを言える毅然としたリーダーシップを発揮できるようになります。そのことが、今日とは違う明日を迎えることになり、「日に新た」な自分へと向上する、そして成果を生み出す組織をつくる第一歩となるでしょう。
的場正晃(まとば・まさあき)
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。現在、PHP研究所人材開発企画部長。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。