どうすれば部下の問題意識を高められるのか?
2019年8月21日更新
新たな価値創造が求められている時代にあって、問題意識を持った人材が各組織でますます重要になっています。では、部下の問題意識を高めるには、どういった取り組みが必要なのでしょうか?
人材育成における「量質転換」
成果主義の導入によって、成果を出すまでの時間の短縮化、仕事のスピード化に拍車がかかり、仕事をする一人ひとりのゆとりがすっかり失われてしまいました。
短時間で質の高い仕事をすることに異論を挟む人はほとんどいないでしょう。しかし、こと人材育成に限っては、「質」の高い人材を生み出すためには、学習やトレーニングの「量」とそれに要するまとまった時間が必要になるのです。
ある経営者は、「人材育成に限っては、量があってこそ質が後からついてくる。そのためにも人の2倍も3倍も努力するという人ほど成長するものだ」と言い切っています。
「成長の臨界点」とは?
人材育成の要諦を言い表すために、比喩として「コップと水の関係」がよく引き合いに出されます。コップに水を少しずつ注ぎ続けても、しばらくは何の変化もおきませんが、水の量がコップの容量と等しくなった点、いわゆる臨界点を越えた途端、水がコップからこぼれ出します。
同じように、ある人が新たな知識を得ようと一所懸命勉強する、あるいは何らかの技能を高めようと地道に練習をしても、知識にも技能にも表面的には何の変化も現れない時期がしばらく続きますが、「成長の臨界点」を越えると一気に能力が開花するということはよくあることです。
このように、成果が出ないけれどもコップに少しずつ水を注ぎ続ける我慢と努力を続けることができるか否か、それが能力を開発するポイントになります。
問題意識の高い人材が求められている
さて、仕事ができる人材に共通して見られる特徴の一つに、問題意識の高さがあげられます。
彼らの仕事の進め方は、高い水準から自分たちの仕事を見つめ、「もっとより良いやり方はないか」とか、「このやり方はお客様に利益をもたらしていないのではないか」、あるいは「このレベルではまだまだ満足できない」などと、常に改善・改革の可能性を求めて仕事に取り組むため、結果として業務効率の向上や、今までにない新しい仕事の進め方の確立、あるいは新商品・新サービスの開発につながる可能性が高まるようです。
ある会社では、幹部への登用試験の面接で、「自分の担当する部門には問題はない」と答えた人を問題意識の低い人材と見なし、幹部への登用を見送るようにしているそうです。ことほど左様に新たな価値創造が求められている時代であるからこそ、問題意識を持った人材の存在が各組織でますます重要になってきているのです。
どうすれば部下の問題意識を高められるのか?
では、どうすれば問題意識の高い人材を輩出することができるのでしょうか。
最も簡単で、効果を発揮するのが、「どうしたいのか」「それに対して今はどうなのか」という2つの質問を、継続的に投げかけることです。事あるごとに、上司が部下に対してこのような質問を投げかけ続ければ、部下は自分の仕事の目指すべき「理想」と「現実」のギャップの存在に気付き、それを埋めるための方策を考えるよう意識を向け続けることができるのです。
そして、こうした問いかけは、業務上の問題意識を高めるだけではなく、人生における理想の状態を考え、そこに到達するための手段や方策を考えるきっかけにもなり、自立的な人材を育てることにもつながるのです。
人材育成は、そもそも時間がかかるうえに成果が見えにくいものです。部下の「量質転換」を信じ、あせらず楽しみながら能力開発に取り組んでいきたいものです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。